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一日目

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 会計を済ませてスーパーを出た三人は、思わず顔を見合わせた。

「菜食主義が流行ってるって? 主な産業が漁業の、この島で?」

 リクが到底信じられないという顔で言うと、ユウトも片手で顎をさすりながら首を傾げた。

「うーん。テレビとか雑誌に影響されて、島の住人の何人かがヴィーガンになった、ってくらいなら普通にあり得ると思うんだけどねえ。地元のスーパーがほとんど肉を仕入れなくなるくらい広く浸透してるっていうのは、ちょっと異常だよねえ」
「……」

 二人と同じ疑問を胸に抱えたまま周囲の町並みを見回したレンは、ふと「ある事実」に気づいて、眉を寄せた。

「そういえば……オレたち、この島にきてから今まで、レンタカー屋の店員とさっきのオバサン以外に、島の人間をまだひとりも見てないんじゃないか?」
「えっ? ああ、そういわれたら、そうだね……」

 ユウトも、少し気味悪そうにあたりをキョロキョロ見回す。
 
 そのまま三人でしばらく探してみたが、通りにも、公園にも、港にさえ、島民らしき人影はひとつも見つからなかった。

「……まあ、人口千人にも満たない島だからな」
 
 リクがぼそりと呟くと、

「この暑さだから、みんな家にこもってるだろうしね……」

 ユウトも、半分自分に言い聞かせるような調子で言って、ミニバンに乗り込んだ。

「……」

 それから、八神家への帰り道。
 なんとなく、三人とも無言のまま車外を流れる風景を眺めていると、クルマが町外れまできたところで、

「あぁっ!」

 と、運転席のユウトがやたらと嬉しそうな声をあげた。

「ほら、見てっ! 子供がいる!」
「ん、どこだ?」

 ユウトの指差す方向に視線を移すと、前方の海岸の岩場で小学生くらいの子供がふたり、並んで立ってじっと足元を見つめていた。

 その姿をみて、レンとリクも思わずほっと息を吐く。

「兄妹、かなぁ」

 笑顔で言ったユウトは、子供のそばを通り過ぎる時にミニバンの速度をぐっと落とした。

 すると――。
 
 髪を三つ編みにした背の低い少女がこちらに気づいて、はっと顔をあげた。

 つぶらな瞳を大きく見開いて、しばらくミニバンを凝視していた少女は、次の瞬間、何かを叫んで、こっちに向かって全力で走り出した。

 だが、少女の兄だろうか、もうひとりの背の高い少年が、すぐに少女の腕を掴み、恐ろしい形相で彼女を怒鳴りつける。

「……なんだ?」

 車内の三人は、子供たちの間にただならぬ気配を感じとって、顔を見合わせる。

 少女は、少年の腕の中で泣きながらひどく暴れているが、少年はけして彼女を離そうとしない。

「兄妹ゲンカ、かな……」
「そう、だな」

 のろのろ走るミニバンがふたりの側をゆっくり通り過ぎると、少女は、何かをあきらめたかのようにぐったりして、今度は少年の胸に顔を埋めて泣きはじめた。

「……仲直り、したみたいだね」

 ユウトはぽつりと呟くと、アクセルを踏み込んで、ふたたびミニバンの速度をあげた。

「……」

 レンが思わず後ろを振り向くと、少女はぐしゃぐしゃの泣き顔をこちらに向けて、その涙で濡れた目で必死に何かを訴えているように見えた。

 その瞬間、レンの胸に鋭い痛みが走り、同時に、ある恐ろしい考えがわき上がった。

(さっき、あの女の子がこっちを見て短く叫んだ時の口の動き、あれは、もしかして――、

 「た・す・け・て」

 と言ってたんじゃないのか……?)

 ふいに、ぶるりと体を震わせたレンは、そのまま、ゆっくりと首を横に振った。

「………いや」(まさか、な……そんなはずないか)
「どうした?」

 不思議そうにこちらを見つめるリクに、レンは曖昧に笑ってみせると、ただの思い過ごしだと自分を無理やり納得させて、前方に視線を戻した。
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