道参人夜話

曽我部浩人

文字の大きさ
上 下
40 / 62
第七夜   血塊

序章 名も無き者の談

しおりを挟む



 ──ここはどこだろう?

 気付けば暗いところでうずくまっていた。
 暖かくも冷たくもない、暗いところだ。

 ──わたしはなんだろう?

 思い出せない、わからない。
 わたしがわたしであることしか覚えていない。

 ──どうしてここにいるのだろう?

 少し前、わたしはもっと安らげるところで眠っていた。

 ──わたしはどこにいたのだろう?

 それは思い出せる。大きくて優しい存在の中にいた。
 暖かくて、包み込んでくれて、安らげる場所を与えてくれた存在だ。

 ──そこにかえることはできるのだろうか?

 無理だ、と本能が告げている。
 あの安らげる場所に帰ることは不可能だった。

 ──それでもかえるところがあるのはしっている。

 大きくて優しい存在、その胸に帰ることは許されているはずだ。

 ──かえろう、かえるんだ、かえらなくちゃいけないんだ。

 あそこに帰らなくてはいけない。
 それはわたしに許された、当然の権利だった。

 ──でもこわい、ここがどこかもわからない。

 ここはわたしのいた場所じゃない。
 わたしは無理やりばれたのだ。それはわかっている。

 無理やり喚ばれて、何かを言われて、わけがわからなくて……逃げたのだ。

 そして、この暖かくも冷たくもない暗いところに隠れたのだ。
 そこまでは思い出せた。

 ──ああ、はやく、はやく、はやく、帰りたい。

 確固たる意識さえ定まらぬわたしの心は、その一念に塗り潰されていく。

 わたしのあるべき場所へ、わたしが帰るべき世界へ──。

 わたしは帰らなくてはいけないのだ!!



「……ゃあ……ゃああああっ……おぎゃああああああああああっ……」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

逢魔刻の旅人

ありす
ホラー
逢魔刻 闇の住人はいつでも私たちのそばに必ず潜んでいる 誰しもが"やつら"と同じ空間を旅する 旅人になりうるのだ

怖い風景

ントゥンギ
ホラー
こんな風景怖くない? 22年8月24日 完結

父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件

帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。 だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。 父から聞いた、彼らの怪談・奇談を集めてみた。 たまに、父本人の体験談もあり! ※思い出した順にゆっくり書いていきます。

雷命の造娘

凰太郎
ホラー
闇暦二八年──。 〈娘〉は、独りだった……。 〈娘〉は、虚だった……。 そして、闇暦二九年──。 残酷なる〈命〉が、運命を刻み始める! 人間の業に汚れた罪深き己が宿命を! 人類が支配権を失い、魔界より顕現した〈怪物〉達が覇権を狙った戦乱を繰り広げる闇の新世紀〈闇暦〉──。 豪雷が産み落とした命は、はたして何を心に刻み生きるのか? 闇暦戦史、第二弾開幕!

オーデション〜リリース前

のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。 早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。 ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。 オーデション 2章 パラサイト  オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。  そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める  

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】

灰色猫
ホラー
https://www.alphapolis.co.jp/novel/952325966/414749892 【意味怖】意味が解ると怖い話 ↑本編はこちらになります↑ 今回は短い怖い話をさらに短くまとめ42文字の怖い話を作ってみました。 本編で続けている意味が解ると怖い話のネタとして いつも言葉遊びを考えておりますが、せっかく思いついたものを 何もせずに捨ててしまうのももったいないので、備忘録として 形を整えて残していきたいと思います。 カクヨム様 ノベルアップ+様 アルファポリス様 に掲載させていただいております。 小説家になろう様は文字が少なすぎて投稿できませんでした(涙)

処理中です...