本音で話そう。

優戸

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本音で話そう。

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「お邪魔しまーす」
「邪魔すんなら帰って~」
「そのノリ止めろよ、腹立つから」
「故郷の鉄板ネタ馬鹿にすんのか」
「知らねーーー」
「はははっ」
 何とも男らしく笑いながら、この部屋の主は「遠慮しないでいいから」と適当に言い、さっさと靴を脱いで上がってしまった。
 だが自分は暫くの間、独身用マンションの狭い玄関で立ち尽くす。
 律儀に並べられた、ヒールの低い女性物のサンダル。玄関と部屋を仕切る、突っ張り棒から垂れ下がったお洒落な間仕切りカーテン。
 あんな喋り方だが、奥に消えたこの部屋の主は歴とした女性である。

 そして、自分の想い人である。

(滅茶苦茶いい匂いするし……うぅ……)
 何だか泣きそうになって来た。
 職場でもサバサバとした性格の彼女は、自分の同期だ。この二年間、よく飲みに行ってはお互い愚痴を零し、激励し合って来た。どちらかと言うと戦友に近い。
 つまり、全く異性として意識されていない。
 その証拠に、あんなにも軽いノリで異性を部屋に上げようとする。しかも、先程まで会社の飲み会で二人共そこそこ飲んでいる上に、「私の部屋こっから近いんだ、良かったら二人で飲み直そう」なんて爽やかに笑うものだから、ついのこのこと付いて来てしまった。
 胸に去来する虚しさと、僅かばかりの期待。
 そうだ、二年越しの片想いに「けり」を付けるいい機会だ。
 ちゃんと、告白しよう。
 もし断られても、これを機会に意識し始めてくれたら万々歳だ。どんな結末を迎えようと、彼女の負担にはならないように接すると心に決める。
 爪先を凝視しながら靴を脱ごうとした瞬間、仕切り布が開いた。
「おい、早く上がれよ」
「ああ、悪い。今い、く──……」
 視線を上げて返事をしようとしたのだが、そのまま絶句してしまった。
 
 部屋着のTシャツに着替えたらしい彼女が、素足を晒してその場に立っていた。
 脳処理が追い付かなくて全身が固まる。
 しかもそのTシャツは以前に自分が贈ったものだ。

 瞠目したまま固まってしまった自分をチラと見ると、彼女が視線を落とす。鎖骨まで伸びた髪を弄ると、一言だけ呟いた。
「……誰でも部屋に上げるほど、軽い女じゃないから」

 そんな爆弾を落とし、サッと部屋の奥に引っ込んだ想い人を追いかけるため、乱雑に革靴を脱ぎ捨てた。







 
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