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○月×日
体調が良かったので使用人と空中庭園に行った。
倒れてからは一度も行ってなかった。
最後に来た時とは違う花が咲いていた。
今は白い花が多かった。
少しだけ一人になりたくて、使用人には入り口の辺りで控えて貰う事にした。まだ完全に開放されてないらしく、他の誰かが来る心配はないそうだ。
城下町の見える場所に立ち、柵に捕まりながら景色を眺めた。空が澄みきっていて、遠くの山まで見えた。少し視線をずらすと海もあった。
城下町に行くまでも色々あった。
王は俺の為に自分の仕事を片付け、時間を作ってくれた。
今はそばにいるから分かるが、王の仕事量は半端ない。一日や二日急いで片付けただけで落ち着くような量じゃない。
城の中の事だけでなく、さまざまな場所で王の許可が必要なものがある。
あの時は城下町に行きたい気持ちばかりが先行して、王の負担など考えた事がなかった。
あんなに忙しい王が、俺の為に時間を作ってくれた。
まあ、いきなり強姦されたり、いきなりお妃候補にされたり、いきなり半分女になったり、俺にもかなりの負担がかかったのは確かだ。
でも、使用人やエナさんの話によれば、俺は最初から特別扱いされていたらしい。
あの時は自覚してなかったが、今なら分かる。王がどれだけ俺を大事にしてくれているかを。
~中略~
今、陛下がお越しになりましたと使用人が呼びに来た。続きは後で書こうと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
○月×日
昨日は結局寝てしまい、続きが書けなかった。
続き。
空中庭園でずっと景色を眺めていたら、王がなぜか焦った顔でやってきた。
どうした?と聞くと、俺に話があって来たが、柵から乗り出したような体勢の俺が見えたので、飛び降りるつもりだと思ったらしい。
自殺なんかしないよと言うと、最近のお前はやりかねないくらい憔悴していると言われてしまった。使用人からも注意が必要だと報告されていたらしい。
それはたぶん、子どもを産めない事をいつ言おうか悩んでいたからだ。
二人きりだったし、心配かけるくらいならばもう言ってしまおうとこの時決心した。
王はずっと一緒にいてやれない事を謝ってきた。それは忙しいから仕方ないさと話を遮り、話があるんだと王の手を引いて二人でベンチに座った。
俺は王に、アレイン殿は許したが、イシュラは絶対に許すつもりはないと伝えた。
たぶん彼はいつかは許して貰えると思っているだろうから、反省しているふりをするかもしれない。
彼のやった事は悪質すぎる。自分が何をしたのか徹底的に分からせ、裁いて欲しいと告げた。俺が許すなんて思わないように伝えて欲しいと言った。
王は私も同じ気持ちだ。お前がもし許しても、私が許すつもりはないと言った。
安心して任せなさいと言ってくれた。
お前の子どもを産んであげられなくてごめんなと謝ると、王は俺の頭を肩に引き寄せ、お前に非はなかった。もう謝らなくていいと言ってくれた。今は自分の身体の事だけ考えろと。
心配してくれる王に申し訳なくて、俺は、もう一度ごめんなさいと謝り、医師にもう子どもが産めないかもしれないと言われた事を告げた。
だから俺は、王妃に相応しくないかもしれない。このまま結婚していいのかよく分からない。気持ちの整理がついてない。本当にごめんと謝った。
王はしばらく黙っていたが、気にするな、お前は私が選んだ相手だ。跡継ぎを産むだけが王妃の仕事じゃない。
私の中にお前と一緒にならないという選択肢はない。だから、産めないからと言って気持ちが変わる事はないと言ってくれた。
そして、これからも一緒にいて欲しいと俺を抱き締めた。
俺は、嬉しさと申し訳なさが混ざってしまって、気づけば「俺は男で、妊娠した時は正直戸惑っていた。だけど、お前の赤ちゃんなら産みたかった。本当にごめんなさい」と王の胸にすがりついて泣き叫んでいた。
たぶん今まで溜まっていた気持ちが爆発してしまったのかもしれない。
俺はずっと、今まで不安だった事、悩んでいた事、あまり王には言わなかったいろんな気持ちをぶつけていた。
王は大丈夫だと何度も言い、俺が泣き止むまでずっと背中をさすってくれた。
使用人が迎えに来たとき、俺の目は真っ赤になって泣き腫らしたのが見え見えだったらしい。恥ずかしい。
大丈夫ですかと心配されたが、それ以上は何も聞かれなかった。
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○月×日
王から公務の打診があった。
この前言おうとしていたが、俺の精神状態が不安定だったので黙っていたそうだ。
公務の内容はユアという街での視察。
城下町より遠い場所で、歴史ある街並みが有名な所だそうだ。その街が作られてから100周年の記念式典があるらしい。
王は来賓として招かれていて、俺が行けるなら婚約者、つまり未来の王妃として連れて行きたいと言われた。
イベントの次の日に街中の様子を見てまわるそうだ。
観光客も多く、景色も綺麗なのでぜひとも見せておきたいとの事だ。
ユアという名に聞き覚えがある気がして部屋にあったガイドブックを見てみたら、日本に似ていると思った事のある街だった。
式典は一ヶ月後。
体調も安定している日が多くなったし、大丈夫。行ってみたいと伝えた。
王は喜んでくれた。
そして、これから共に行動する公務も増えると思うが、少しずつ覚えていけばいいからと言ってくれた。
緊張するが、王の伴侶として、王に恥をかかせてはいけない。
気をしっかり引き締めないと。
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○月×日
体調が良かったので使用人と空中庭園に行った。
倒れてからは一度も行ってなかった。
最後に来た時とは違う花が咲いていた。
今は白い花が多かった。
少しだけ一人になりたくて、使用人には入り口の辺りで控えて貰う事にした。まだ完全に開放されてないらしく、他の誰かが来る心配はないそうだ。
城下町の見える場所に立ち、柵に捕まりながら景色を眺めた。空が澄みきっていて、遠くの山まで見えた。少し視線をずらすと海もあった。
城下町に行くまでも色々あった。
王は俺の為に自分の仕事を片付け、時間を作ってくれた。
今はそばにいるから分かるが、王の仕事量は半端ない。一日や二日急いで片付けただけで落ち着くような量じゃない。
城の中の事だけでなく、さまざまな場所で王の許可が必要なものがある。
あの時は城下町に行きたい気持ちばかりが先行して、王の負担など考えた事がなかった。
あんなに忙しい王が、俺の為に時間を作ってくれた。
まあ、いきなり強姦されたり、いきなりお妃候補にされたり、いきなり半分女になったり、俺にもかなりの負担がかかったのは確かだ。
でも、使用人やエナさんの話によれば、俺は最初から特別扱いされていたらしい。
あの時は自覚してなかったが、今なら分かる。王がどれだけ俺を大事にしてくれているかを。
~中略~
今、陛下がお越しになりましたと使用人が呼びに来た。続きは後で書こうと思う。
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○月×日
昨日は結局寝てしまい、続きが書けなかった。
続き。
空中庭園でずっと景色を眺めていたら、王がなぜか焦った顔でやってきた。
どうした?と聞くと、俺に話があって来たが、柵から乗り出したような体勢の俺が見えたので、飛び降りるつもりだと思ったらしい。
自殺なんかしないよと言うと、最近のお前はやりかねないくらい憔悴していると言われてしまった。使用人からも注意が必要だと報告されていたらしい。
それはたぶん、子どもを産めない事をいつ言おうか悩んでいたからだ。
二人きりだったし、心配かけるくらいならばもう言ってしまおうとこの時決心した。
王はずっと一緒にいてやれない事を謝ってきた。それは忙しいから仕方ないさと話を遮り、話があるんだと王の手を引いて二人でベンチに座った。
俺は王に、アレイン殿は許したが、イシュラは絶対に許すつもりはないと伝えた。
たぶん彼はいつかは許して貰えると思っているだろうから、反省しているふりをするかもしれない。
彼のやった事は悪質すぎる。自分が何をしたのか徹底的に分からせ、裁いて欲しいと告げた。俺が許すなんて思わないように伝えて欲しいと言った。
王は私も同じ気持ちだ。お前がもし許しても、私が許すつもりはないと言った。
安心して任せなさいと言ってくれた。
お前の子どもを産んであげられなくてごめんなと謝ると、王は俺の頭を肩に引き寄せ、お前に非はなかった。もう謝らなくていいと言ってくれた。今は自分の身体の事だけ考えろと。
心配してくれる王に申し訳なくて、俺は、もう一度ごめんなさいと謝り、医師にもう子どもが産めないかもしれないと言われた事を告げた。
だから俺は、王妃に相応しくないかもしれない。このまま結婚していいのかよく分からない。気持ちの整理がついてない。本当にごめんと謝った。
王はしばらく黙っていたが、気にするな、お前は私が選んだ相手だ。跡継ぎを産むだけが王妃の仕事じゃない。
私の中にお前と一緒にならないという選択肢はない。だから、産めないからと言って気持ちが変わる事はないと言ってくれた。
そして、これからも一緒にいて欲しいと俺を抱き締めた。
俺は、嬉しさと申し訳なさが混ざってしまって、気づけば「俺は男で、妊娠した時は正直戸惑っていた。だけど、お前の赤ちゃんなら産みたかった。本当にごめんなさい」と王の胸にすがりついて泣き叫んでいた。
たぶん今まで溜まっていた気持ちが爆発してしまったのかもしれない。
俺はずっと、今まで不安だった事、悩んでいた事、あまり王には言わなかったいろんな気持ちをぶつけていた。
王は大丈夫だと何度も言い、俺が泣き止むまでずっと背中をさすってくれた。
使用人が迎えに来たとき、俺の目は真っ赤になって泣き腫らしたのが見え見えだったらしい。恥ずかしい。
大丈夫ですかと心配されたが、それ以上は何も聞かれなかった。
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○月×日
王から公務の打診があった。
この前言おうとしていたが、俺の精神状態が不安定だったので黙っていたそうだ。
公務の内容はユアという街での視察。
城下町より遠い場所で、歴史ある街並みが有名な所だそうだ。その街が作られてから100周年の記念式典があるらしい。
王は来賓として招かれていて、俺が行けるなら婚約者、つまり未来の王妃として連れて行きたいと言われた。
イベントの次の日に街中の様子を見てまわるそうだ。
観光客も多く、景色も綺麗なのでぜひとも見せておきたいとの事だ。
ユアという名に聞き覚えがある気がして部屋にあったガイドブックを見てみたら、日本に似ていると思った事のある街だった。
式典は一ヶ月後。
体調も安定している日が多くなったし、大丈夫。行ってみたいと伝えた。
王は喜んでくれた。
そして、これから共に行動する公務も増えると思うが、少しずつ覚えていけばいいからと言ってくれた。
緊張するが、王の伴侶として、王に恥をかかせてはいけない。
気をしっかり引き締めないと。
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