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<マコト>

マコト

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「どうして?」

この店のことは誠に言ったことはなかった。言ったところで『じゃあ、一緒に行こうよ』ってことにはならないし、もともとノンケの誠が興味を示すとも思わなかったから。

「LINEもトークから離脱してるし、電話も着信拒否してるし」

「今さら話すことも無いんじゃないか?」

「ちゃんと会って話をしたかったんだ」

3ヶ月前はちょっとやんちゃな雰囲気がカッコいいと思っていたし、イケメンだと思っていた。
恋は盲目とは、よくいったもので覚めてしまえばごく普通のチャラい青年だった。
それが借りてきた猫のようのにオーラもなくなって、顔もへのへのもへじにしか見えない今は、何であんなに必死になっていたのかさえ不思議に思う。

「ここはどうして知ったの?」

「兄貴から悠歩の友達を通して教えてもらった。」
「部屋を教えてもらおうと思ったら、それはダメだって」

良識のある友人を持っていてよかった。

「考えたら、オレらってお互いの部屋も知らなかったんだよな」

つーか、お前が俺のことオナホくらいにしか思ってなかったからだろ!と、思ったが口には出さなかった。

「話って?俺は本当にもう話すことはないし、ここで声をかけられるのは迷惑というか・・・」

「一方的に別れるとか言われて納得するわけないだろ!」

今まで、従順で何でも言うことを聞いていた悠歩の冷たい言葉にイラついた誠は、カウンターを手のひらで叩き高圧的な態度で言い放つ。
一瞬、店内にいる客の視線が二人に集中する。

どうしよう・・・・
ふと、郷さんの方を見ると、郷さんは奥にあるテーブル席に目線を流した。


「カウンターだと迷惑がかかるから、奥の席に行こう」

悠歩はジントニックを手に持ち、小さめの丸テーブルに、向かい合わせに二脚だけセットされている席に移動すると、後ろから誠もついてきた。

向かい合わせに座ると、二人の間に沈黙が訪れる。

このままでは、いつまで経っても先に進むことが出来ないから、悠歩はジントニックを一口飲むとなるべく冷静に、事務的に「要件は?」と聞いた。

「悠歩、雰囲気かわったね」

「そうかな?で、何?」

「きららとは別れたよ」
下を向いてボソりとつぶやく

「きららって?」
たぶん、あのぼよよん女子だよなと、思いつつもしらばっくれる。

「あの・・・この間の子・・・」

誠の真意が何なのか、わからないが誠のことはどうでもいいし、以前のようにご機嫌を取る気もないので

「あの子って、飲み会で誘われて、断れなくて翌日の夕方までヤってたって子?」
「あれから、付き合ったんだ。てか、もともと付き合ってたんでしょ?」

「・・・・」

沈黙する誠に対して、たたみかけるように話を続ける。
「彼女と別れた話を聞く筋合いが無いけど?俺たちって別れてるっていうか、そもそも誠の中じゃ俺と付き合ってるっていう認識も無かったでしょ?」
関係が終わってからいろいろと気づいたことがあった。
誠からすれば彼女がいて俺はあくまで遊びだったから一緒に出かけることもないし会うのはエッチするためだけだった。
冷静になれば俺の扱いは恋人なんかじゃないということを思い知らされた。

「そんなこと・・・」

「彼女と別れたから、俺でヌキたいって話?」
どうでもいいと思ったら、言いたいことがスラスラ言える。

「やり直したい・・・・」


「何を?」
俺って本当はSなのかと思うほど、意地悪が言える。
郷さんの前ではMだけど

「ちゃんと、ゴムを着ける、悠歩が嫌がっていたのを知ってたけど、自分が気持ちいい方を優先してたし、もっと悠歩のことを考えて・・・その・・するし・・・」

「・・・」
結局、ヤリたいだけじゃないか・・・
まぁ・・俺もセックス好きだけど、郷さんを知っちゃうと

「オレの部屋とか来てもいいから」

この期に及んでも“オレ様”な物言いがうんざりする
「誠の部屋に行きたいとも思わないし、誠とセックスしたいと思わない」
「そもそも、誠はノンケだろ?俺にかまうなよ女の子を誘えよ」

「悠歩にフラれてわかったんだ・・・」
「悠歩がなんでもオレの言うことを聞いてくれたしオレのそばから離れることは無いって高をくくっていたから、つい素っ気なくしてたけど、本当はオレは悠歩が好きなんだって」

「俺は・・・誠に何にも感じない」

誠は明らかに不愉快な顔つきになる
「じゃあ、言うけど。悠歩だって浮気してただろ!」
「あの日だって、オトコと待ち合わせしてたじゃん」

「あれは・・・」
違うとは言い切れない、誠が女の子とホテルから出てきて、ショックで身体が硬直してしまった。
たまたま、そこで出くわした郷さんに抱かれて・・・

「なんだよ、やっぱりそうじゃん、オレばかりを責めるなよ」


なんとなく、郷さんとのことを誠に言うのが嫌だった
郷さんを誠と一緒にしたくなかった


「どうせ、誰とでもヤルんだろ、だったらそういう関係でいいじゃん」

悠歩が何も言わなくなると、誠の態度が大きくなっていく

こんなやつ・・・どこが好きだったんだろう・・・
自分が情けなくて、くやしい・・・


くやしくて、知らぬ間に膝を強く掴んでいた、そこへ

「お待たせしました。ブルームーンをお持ちしました」

郷が優雅な手つきで薄紫のカクテルを誠の前に置いた。


「オレはまだ注文してないけど」
イライラと落ち着きの無い態度で言い放つが、その態度にまったく影響されることなく、ニコりと微笑むと

「いいえ、このカクテルは悠歩からあなたへ、そしてわたしから悠歩への思いです」

「何を言ってんだよ」
脚がガクガクと鳴る、誠はイライラすると貧乏揺すりがでてくるので、感情を読みとりやすかった。

「悠歩はとても魅力的です。それは、きっとあなたと別れたから。人は一緒にいる人に影響されやすいし、いつも顔色をうかがっていると自然と萎縮してしまい、持っている魅力が発揮されなくなります。」

「オレが悪いって言いたいのか」

「悪いとは言ってませんが、あなたでは悠歩には釣り合わない。悠歩には“わたし”でないと」

「は?」

「気付きませんか?悠歩の恋人はわたしであると伝えてるんです。」
「ただ、あなたにはお礼をしないといけませんでしたから、悠歩の気持ちを代弁したそのカクテルをプレゼントします」

「あの時の・・って、浮気相手じゃないか!」

「浮気ではないですよ、わたしはここに毎週来ている悠歩に好意を持ってましたが、用事があって通りがかったところに、あなたが女性とホテルから出てくるところに遭遇しまして」
「ショックを受けていた悠歩につけ込ませていただきました、だからあなたに感謝してるんですよ」

「・・・・・」
さすがに、なにも言い返せない誠に

「ブルームーンには意味があります。悠歩からあなたへ」
「お断り」


にっこりと微笑みながら郷は悠歩の肩を抱くと、誠は怒りに顔を赤くして店を出て行った。
二人でその後ろ姿を眺めながら郷が悠歩の耳元で

「このカクテルはおもしろいですよね、もう一つの意味があるんですよ」

そういえば、俺から誠へと郷さんから俺へって、言っていた気がする



「あとで、ベッドの中で教えますよ」

今度は、悠歩が誠とは違う意味で顔が真っ赤になった。


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