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ぼっちの気持ち

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ヒロイン改め葵(あおい)視点

眠っていたのに、余計に疲れるようなチャラ男天使のおかげでぐったりとした気持ちで目を開けると、目の前には・・
固そうな胸筋プラス乳首。

!!ふおっ!?

目を開けるたびに最近は動悸が止まらない。
ぴしりと固まったまま目線を上へと巡らせば、シーツに乱れる長い銀髪とその綺麗な顔からは想像できなかった固い筋肉に覆われた肩と太い首、そして、深い溝を作る鎖骨。

こ、これは・・やっぱり・・。

確信に満ちた気持ちでこちらを見下ろすような体勢で眠る眼を見張るような端正な顔立ちの男。
私が今まで見てきたこの男は、いつも眉間にシワを寄せ気難しい表情を浮かべていたが、流石に睡眠中は安らかな顔をしている。
瞳が閉じられている今、私がすべき事ー。

その全貌を思う存分脳内のシャッターで連写する。

ここんとこのハードモードに、流石の神さまもこれはご褒美をくれたに違いない。
ツルツルの冷たいシーツの上に広がる銀髪。
鍛えられた肉体は鋼の筋肉に覆われた戦う為の身体。
そんな彫刻みたいな身体には、鼻筋の通った高い鼻を中心として左右対象に切れ長な瞳が配置され、閉じられている今は長い睫毛が影を作る。
少し厚めの唇は、いつもの彼らしく閉じられたまま。

・・眼福。

オトゲーなるものはあっちでもした事は無かったが、これはご褒美スチルというやつだろうなあ。
目の前の素敵な景色に私の乙女心は『ふぉぉぉっ!!』と一瞬爆上げしたが、すぐに現実を知る。
はたと自分を見れば、白い生成りのTシャツみたいなのを着ているが、

絶壁。
見事なまでに絶壁だぜ。
Tシャツの首元に人差し指を入れて中身を確認してみても、そこにあるのは薄い筋肉のついた胸と割れた腹筋。肌の白さは元の白さといった感じで、色白男子高校生ぐらい?
水泳部ほどバキバキじゃないけど、細身なのに脱いだら結構・・な私好みの細マッチョ。
こっちの異世界じゃナヨッとして見えそうでも、私の推しはやはり細マッチョ。
この身体に不満はないっ!
ナイスボディっ!
はあぁあ。
・・そうでも思わないと、日本に残してきた私の身体・・どうなっちゃってるのか、
こっちで女に戻るなら魔力をもらわないといけないとか、
あっちに帰りたい、でも死ぬかもしれないとか・・。
受け入れたくない現実に押しつぶされそうだ。

生きるなら、こっち(異世界)を選んだ方が生きやすいんだろうか。
いや、あんな魔物もいるこっちが平和とは思えない。
それに知り合いもいないし、仕事もないここで生きていけるんだろうか。
・・視界が涙でぼやけてきた。
あのまま私が死んでしまったらどうなったんだろう。
死んだ方が、こんな心細い思いをしなかったんだろうか。
そんなどうしょうもない堂々巡りな思考に囚われていたら、
むぎゅっと大きな身体に抱きしめられた。

ぬおっ!?

素敵な胸筋に顔面が突撃して私の鼻は潰されたが、吸い込んだ彼の体臭にどきりとする。
お、男の匂いなんて久しぶり過ぎて、なんだか気恥ずかしいなんて思っていたら、どうやらご褒美スチルはまだ終わらない。私を抱き枕のように抱き寄せた彼の筋肉のついた重い脚が私に巻き付いてきた。
く、くるしい。
筋肉重いっ。
これでは圧死してしまうと筋肉の檻から身体を抜け出そうともがくと、
「っん・・。」

な、なんか艶かしい声がっ。
お腹に響く声に身体を硬直させると、よりむぎゅっと抱き寄せられる身体。主に下半身。。
あ、
も、もしかして、
・・勃ってらっしゃるっ!?
ぐいっと抱き込まれた私の引き締まった腹筋になんだか固い長大なモノを感じてしまった。
えっ、あ、いや、どう?これ?
男子の朝の事情というやつですか。
ええっと、じゃあ普通?
問題なし?

いや!問題だらけでしょうっ!?

だって今私男だし?
絵柄的には筋肉マッチョな美男子に細マッチョな少年が抱き込まれてるって・・。
・・アリか?
いやいやいや、見るのはいいけど自分はっ・・
ゴリッ
ひっ!!なんか固いっ。
「ふ・・っ。」
なっ、エロボイスはやめろっっ。
な、なすりつけないでぇぇ(泣)
腰の動きがエロいよ。
お腹に感じる熱さに翻弄され、私がパニクってる間にも、常なら眉間にシワを寄せた男の艶かしい行為が止まらない。
気のせいでなくとも、先ほどよりも腹筋に固さと熱さが増し、頭上から聞こえる吐息はなんだか吐息が混じった切羽詰まったものに。
ま、まずいよ、まずい。
私にとっても非常にまずいが、彼にとっても男相手に・・出しちゃったとかシャレにならんでしょ!
うん、これは互いのため!!
私は意を決して、話しかけた。

「ハ、ハーフさんっ!」

ノア視点

いつもならあまりに余った魔力が身体中を逆流するのを防ぐために、体力限界まで仕事や鍛錬に明け暮れ、やっと眠れる頃には泥のように眠る。しかし眠れたとしても短時間で、膨大な魔力はすぐに俺を不快に目覚めさせる。
それなのに今は、身体中を暴れ回る魔力が身体から溶け出していくのを感じる。
深い眠りは間違いなく心地いいのに、魔力の溶け出す感覚は身体中が甘い疼きに変わる。
腰の疼きをどうにかしたくて身体を捩れば、自分のモノに溶けそうなほどの快感が走る。
俺の身体に一体何がっ?
魔術か?
早く目を覚まさなければならないのに、甘美すぎる快感に夢から覚めたくないと俺の本能が言う。
っはああ。
くそ。
なんなんだこの腰が砕けそうなほどの快感はっ。
身体中の熱と魔力が沸騰する。
自慰とは比べようもないほどの快感に、早く出したくて堪らなくなり、よりモノをすり上げた時、

「ハ、ハーフさん!」

その声に、甘美な夢から一気に覚醒した。
高まる熱と魔力と快感に身体中が溶けそうだったその瞬間、俺の腕の中にいたのは、
白い肌を紅潮させ、潤んだ黒い瞳でこちらを見上げる彼。
!!
あまりの事に驚愕し、彼を腕の中から離しベッドから起き上がると、あんなに熱くなっていた体の熱がふっと消えた。と同時に襲うのは強烈な恥ずかしさと申し訳なさ。
俺はもしかしなくても、今彼に抱きつき、あろうことか・・爆発しそうなモノをっ・・!
信じられない気持ちでベッドの上で横たわったまま固まる彼を見れば、
彼にとっては大きい襟ぐりの開いたシャツは、ずり下がってしまい彼の白く薄い胸を晒し、戸惑う瞳には溢れそうな涙が浮かぶ。
「す、すまないっ!いや、許される事ではない。俺は、子供になんて事をっ!」
どんなに周囲に疎んじらようと、罪を犯した事など今までなかったというのにっ。
「こんな事をして、俺は犯罪者だ・・。」
そう呟いた時、
「は、犯罪?いや、そこまでは?寝ぼけてたんだし、その、私・・じゃなくて俺、男だし、それに子供というほど子供じゃないですよ。だから、大丈夫です。ギリ犯罪じゃないと思います!」
彼が慌てて起き上がりそう言った。
ほとんど見知らぬ顔見知りの男にあんな事をされて、人が良すぎるだろう。。
「・・たしかに寝ぼけていた。寝ぼけるほど、睡眠をとった事などなかったんだが。」
そうだ、成長とともに魔力が増した俺はうつらうつらとした睡眠しかここ数年取れていなかったのに、どうして今日は・・。
「え?普段あんまり寝ないんですか?・・ああ、そういえばでもいつも仕事してましたよね。きっと睡眠不足が続いて寝ぼけちゃったんですよ。」
と朗らかに彼が笑った。
その瞬間にぎゅっと胸が苦しくなる。
?なんで。
・・疲れているのか、俺は。
思わずため息をついて目元を覆うと、
「大丈夫?」
と彼が至近距離で覗きこむ。
「だ、いじょうぶだ。」
魔力が膨大な俺はこんなに人に接近された事も、瞳を覗き込まれたこともなくて、動揺が隠せない。
「ハーフ・・あの、名前、あなたの名前を教えてください。」
少し目線を流した俺に彼が聞いた。

ああ、彼は本当にこの世界の人間ではないんだな。
竜人と人間のハーフである俺の名を知らぬ者は、この大陸ではいない。
「俺の名は、ノア・・だ。君の名前は?」
初めて俺に名を聞く彼には、家名でも、地位でもない俺だけを示す名で呼んでもらいたい。

「ノアさん。カッコいい名前ですね。私は、アオイ・・です。」
俺の名を呼ぶ彼の声に、なぜかまた胸が軋む。
「アオ・・イ?ア・・オイ。アオイ?」
初めて口にする名前の不思議な音。何度でも口にしたくなる。
「呼びづらかったらアオでいいですよ?」
「珍しいが、いい名前だ。・・アオイ。」
口にすれば胸が温まるような響きに自然と笑みが浮かぶ。
「っあ、ありがとうございます・・。」
そう言った彼はほおを赤らめた。
・・優しく可愛らしい少年だ。
おそらく誰も知り合いのいないこの世界に落ちてきた彼は、きっと不安でたまらないだろう。
「アオイ。おそらくこの世界に知り合いはいないだろう?俺で良ければ・・だが、・・いや、然るべきところに連絡して、アオイの身を保護してもらえるよう嘆願しよう。」
アオイの事を思えば、これからの未来を考えれば、疎まれる俺の側にいてはいけない。
だが彼にとって一番の場所を考える事は出来る。なんなら、あまり頼りたくはないがラトドラの宰相である叔父に頼ってもいい。
「・・然るべきって、どんなとこですか?」
どうするべきかと考えていた俺にアオイが言った。
「そう・・だな。まず、役所に行って住民権を得て・・いや、身分を保証する手続きが先で・・、とすると、知らぬ土地から来たとなれば・・。」
もし、こことは違う世界から魔力のない人間が来たと知ったら、王族はどうするだろうか。
王族に名を連ねる貴族は?
言い伝え通り彼を黒竜に見立て、無理やりにでも竜人の女と番わせたら・・。
おそらく絶対的な権力を持つだろう。
目の前のまだ少年の域を出ず、あんな魔物を倒したというのにどこか儚げな雰囲気を持った少年を見る。
艶めく黒く長い髪は朝日の光を反射し、濡れたような瞳は光を纏う。
彼を取り合う竜人・・いや、人間達の争いが眼に浮かぶ。
この少年が泣き叫んでも、きっと欲にくらんだ奴らは彼を無理矢理にでも番わせ、自分たちのものとするだろう。
考えるだけで破壊したいほど虫唾が走る。
「あ、あの、ノアさん?」
黙り込んだ俺を不安げに見つめるアオイ。
意に添わぬ番などこの優しい少年には耐えられぬだろう。

彼を俺が、守ってもいいんだろうか。

不安げなアオイを見つめながら、未だかつてない感覚が身体を襲う。
それは、恐れと似ている。
「・・俺はハーフなんだ。人間でも、竜人でもない。
あまりある魔力は時に暴走して、周囲に迷惑をかける時もある。竜人のように魔力を上手くは操作出来ないんだ。かといって、人間のように手先が器用でも、研究が得意でもない。
だが、こんな俺にとって権力争いなど興味のないものだ。
だから・・魔力のないアオイを良からぬ奴らが狙う事があったとしても、俺は権力の為にアオイを利用する事は絶対にない。それは約束する。
だから、その・・。」
朝の明るい日差しが入り込んだ部屋に沈黙が広がる。
言うべき事は、簡単なのに。
それを言っていいのかが、いや許されるのかと思わざるおえない。

「そばに・・いても?」
!!
口ごもる俺の代わりに声を発したのはアオイだった。
「あっ、迷惑ですよね!?すみませんっ、でも、わた・・俺、魔力がないから・・(クソ供に孕まされるのが)怖くて。昨日の魔法使う怖い人もいるし、知ってる人いないし・・、
えっと、側においてくれるなら、なんでもしますっ!
あの、だからっ・・。」

それは、考えるより速く身体が動いたんだ。

今にも泣きそうに声を震わせ、唇を震わすアオイを胸に抱きしめた。
胸が詰まるようなこの想いをなんて言うのか俺は知らない。
だが・・。

「アオイが良ければ、ここにいてくれ。」
それは許された俺の願い。
「・・ありがとうっ・・ございます。」
俺の胸には小さなあたたかなぬくもり。

俺が守るべき存在だ。



















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