執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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番外編 キスとぬくもり 安藤課長編

13 白状 安藤課長編

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お久しぶりの投稿のため、簡単なこれまでのストーリーをご説明します。
不要な方はすっ飛ばして頂いて下さい。

番外編主人公 安藤沙織
本編冴木課長の元部下で、一度だけ関係を持った社内唯一の二課新課長。冴木&華の間に邪魔するかと思いきや、可愛いもの全てを愛でる沙織は真面目っ子華の不器用さを愛しく思いちょっかいを出し隙あらば愛でる日々。
沙織におちょくられながらも主役カップルはやっとゴールイン。結婚式で溺愛ぶりに当てられた沙織は一人バーへと向かう。そこで一人酒を楽しんでいた時、ナンパ相手から助けてくれたのは綺麗な顔の若い男。ファッション雑誌からそのまま出てきたような風貌の男は、見た目と違って表情が可愛らしく沙織の好みのストライクゾーン。二人は意気投合し、ホテルの部屋へ。
が、そのホテルの部屋へ仲良く歩く姿はパパラッチされワイドショーやスポーツ紙を賑わす事態に。
男は今をときめくパリコレモデルで、若手俳優として売り出し中のKAIだった。
憂いの満ちた美し過ぎる美貌の俳優に一夜の火遊びの報道はイメージダウンにつながると判断した事務所社長にKAIの仮の恋人になる事を懇願され、渋々受け入れた沙織。しかし、沙織を待ち受けていたのはKAIとの同棲生活だった。苛立つ沙織だったが、KAIの真摯な態度に絆されこの予想外の事態を楽しむ事にした・・。そんな矢先、KAIには「しょうこさん」という大事な人がいると分かり、近づき過ぎた距離を離そうと自宅へ帰ろうとすると「しょうこさん」に捕獲されかかる。
結局KAIに捕獲され、しょうこさんとKAIの自宅へ帰ることに。

以上大雑把なあらすじでした。
お読みいただきありがとうございます。


沙織視点

見慣れ始めた広いリビングのダイニングで、対面して座るのは淑女ことしょうこさん。
ツッコミどころは多々あれど、もともと美形のためなんとなく様になる素ぶりで優雅にティーカップを掲げているしょうこさんから渡された名刺には、芸能プロダクション 役員の肩書きと、須藤 承一の名前。
しょういち・・さん、なのでしょうこさんという事・・でしょうか。
自分も香り高いアールグレーの香りを楽しみつつ、この予想外の事態を受け入れようと努力する。
KAIの大事な人って、このしょういち、、じゃなくてしょうこさんなのか。
出会いが衝撃的って、女装してるから?
女装してるのに役員・・?
いや、待って。これは偏見か。今は色んな人がいるわ。
混乱した頭も紅茶を一口飲み下すうちになんとか落ち着いた。
そんな時、しょうこさんが
「今日は、驚かせちゃってごめんなさいね」
そう穏やかに話し出した。
「いえ、こちらこそ、、勘違いしちゃってすみません。」
私こそ話しかけられたぐらいで、急に逃走するなんて失礼すぎるわ。
いたたまれない気持ちで謝罪すると、
「お互い様って事でいい?」
ふわっと笑う笑顔は邪気のないものだったが、その後口元は笑みを作っているものの、こちらをじっと見つめる視線とかち合う。
にこやかな表情なのに、目はこちらを見定めようとする意図が透けて見える。
こうゆう目をする人は特別な人だ。
取り繕ったり、強がってみせたところで内面さえ見定めるこの目には無意味だ。
こんなときは、ただじっと見つめ返す。
ただ等身大の自分として。
すると、
ふっとしょうこさんが笑い空気が緩んだ。
「ごめんなさい?気を悪くした?自分の目で確かめてみたかったのよ。」
そう優しげに笑ってからは、この同居に不自由はないかとか、カイとの生活にストレスはないかとか親身に聞いていた。まあ、最初こそ腹も立った同居も素敵な部屋とかわいいカイと美味しいご飯に満たされているのが現状なわけで。。それを話すとしょうこさんが、あのカイが手料理?カイがかわいいって?と仰け反って爆笑していた。
ただ、私として はやっぱり気になることもあるわけで。

「いつまで、恋人なんですか?」
空になったティーカップを見つめ聞かなければならない事を聞く。
すると、笑っていたしょうこさんが、少し苦笑いをして、 
「早く終わって欲しい?」と聞いてきた。

ドクッと嫌な心拍を感じつつ、
「ここは日常ではないですから。」
そう告げた。
少し黙ったしょうこさんは、
「そうね、ドラマを撮り終わって次のコレクションが始まる前には・・。かしら。」
そう終わりを告げた。

分かっていたタイムリミット。
いつだって物事には終わりが来る。


KAI視点

「くっそ、まだかよ!」
高層タワマンが故の長いエレベーター待ち時間をイライラとした気持ちで待ち、やっと自宅ドアを急いでこじ開ける。
あのしょうこさんと沙織さんが二人でこの密室にいたのが仕事中も気になって仕方がなかった。
でも、そのおかげで俺としては一番のストレスの元凶であるラブシーンも深く考えず主人公を演じきる事で乗り切った。。多分。
「お、帰り?どうしたの、そんなに急いで。」
リビングに繋がるドアを開けた先には、ソファに座る風呂上がりのリラックスモードな沙織さん。
その顔はいつもと変わらない美しさ。
「はぁ、いや・・。しょうこさん来て大丈夫だった?」
沙織さんの横に腰掛ける。
「ん?しょうこさん・・優しかったよ?」
「・・。」
そう告げる沙織さんにやっぱり・・と思わざる得ない。
しょうこさんは女装もするが、時として男装?もする外見も付き合う相手もボーダーレスな人。そんなしょうこさんは見た目から驚かれたり、引かれたりしても話しているうちにその視野の広さと優しい人柄に誰もが惹きつけられる。その魅力に男女なんて必要ないんだ。
だから、なんとなく会わせたくなかったのに・・。
俺がそんな思いでいると、
「しょうこさんとの出会い、衝撃的って言ってたじゃない?それってどうして?」
沙織さんが聞いてきた。しょうこさんに興味を持たれるのは気に入らないが、しょうこさんの癖を知っといてもらえば万が一にも惚れるなんて事態にはならない気がする・・。

「俺は小学生の時、東京から田舎のばあちゃん家に引っ越したんだ。あんまり身体が強くなくて、東京いても学校にもあんまり通えなかったからさ。
あ、今は大丈夫。成長期過ぎたら背は伸びるし、トレーニングしてたら筋肉も・・ほら?ね。」
かっこ悪いこの話をすると大抵は今は大丈夫?と心配されてしまうから先手を打って話を続ける。
「身体は大丈夫になったんだけど、学校行き出したらなんか馴染めなくてさ。。昼間、学校も行かずにフラフラしてたんだ。
そしたらさ、、商店街のど真ん中でマッチョなオカマが号泣して抱きついてきたんだ。
こう、、首絞められるぐらいの力強さで。
それが、しょうこさんなんだ。」
そんな俺の話を聞いていた沙織さんが
「あははっ!やばいそれっ!」
と爆笑した。
「うん、そうちょっとトラウマ。」
いや、本当はだいぶ、、。
「それで?どうしたの?」
涙目になった沙織さんが言う。
「中々離してくれなくてさ、『無限の可能性を見つけると、息苦しささえ感じるの!ああ、もっと、もっと!あなた、日の当たる場所に行かなきゃ!!』って、完全危険人物だったよ。」
「っなんじゃそりゃ!?」
沙織さんは綺麗な顔を崩して苦しそうに大笑いする。
そんな大笑いする沙織さんを俺は見つめる。
目尻に溢れる涙
屈んだ胸元
大笑いする口の中の舌
「そうやって笑ってる方が・・いいと思う。」
言った後に、なんでかわいいってスルッと言えないのか、、自己嫌悪に陥る。
「ど、うも。・・ご飯は?」
急に笑うのをやめた沙織さんから聞かれるが、今日はどうにも気分が悪い。
「あー、今日はちょっと気分が。。」
うっかり動揺して正直に答えてしまう。
「大丈夫?風邪?」
こうして心配させるって分かってるのに。
・・しょうこさんの事を受け入れたなら、俺の事を話しても分かってくれるだろうか。。
「あの、さ。俺・・。」

これを他人に話した事は今まで二回。
一人目はしょうこさん。
二人目は、、牧野医師。

そして、三人目は。
「俺、人が苦手で・・。特に、身体に触れられると、、呼吸が苦しくなるくらい。昔は倒れる事もあったけど、今は気分が悪くなるぐらいで済むようになったんだ。」

とうとう言った。
自分の膝に置かれた手を見つめ、どんな返答が返ってくるかと、一層気分の悪くなる思いで酸っぱいものをこらえていると、

「ごめん。」

落ち着いた声が静まり返った部屋に響いた。

うそー!?とか、気持ち悪いとか言われると思い構えていたから、その返しに驚き横にいる沙織さんを見つめた。
「・・あー、そっか。うん。なるほど。」
今度は何やら納得している。
「沙織さん?」
心配になって声をかけると、
「最初、会った時、酔ってたからあんな事になったんだね。
それに、他の女の子に恋人役も頼めなかったのもそのせいなんだ。
・・ごめんね、気軽に私触っちゃってたかも。気持ち悪かったでしょ?」
「なっ!?」
思っても見ない謝罪に身体の血が沸騰した。

沙織さんが、気持ち悪い?

なにそれ、限界。

一人理解したふりで謝罪をする沙織さんにどうしょうもなく苛立った。
膝の上で握られていた拳を開いて、沙織さんの背中を抱き寄せる。

「あんたが特別って気づけよ!」

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