執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

文字の大きさ
上 下
101 / 110
番外編 キスとぬくもり 安藤課長編

12黒い花 安藤課長編

しおりを挟む
沙織視点

「夏休みありがとうございました。」

艶々と甘い色香が漂う社内のかわいこちゃんこと加藤さんが新婚旅行から帰ってきた。
「これお土産です。」
差し出すのは、マンゴーのケーキ。
「ありがとうー。いやん、美味しそう。」ほっこり笑顔の佐々木女史。
「沖縄だったんですね。いいっすねー。てっきり海外とか行ってると思ってました。」ちゃっかり一つ手にとって、もごもごいただくキラキラ男子宮本。
「・・分からない?あの男が考えそうなこと。」はぁと悩ましげなため息を吐くのは美魔女谷口。
「ああ、国内便だと移動時間が最小限で、最大限いちゃつけますからね。」パソコンがめんを睨みながらも会話には参加する冷静沈着男子山城。
「「あー、なるほど。」」もぐもぐと味わいつつ納得な相槌をうつ忠犬と佐々木女史。
「・・。」
プルプルと赤くなる加藤さん、かわいいわぁっ。
そんな加藤さんのくびれた腰にそっと手を置き、
「大丈夫?愛されすぎも楽じゃないわね?」
ふふっと笑うと、「もうっ!」なんて可愛らしく怒っていた加藤さんが、ん?と真顔になった。
「なんか、化粧品とか変えました?」
・・さすが元百貨店勤務、見てるなー。
「まあね、餌付けされてるの。」
にっこりそう告げると、
「「ええっ!?」」驚く加藤さんと忠犬宮本
「餌付け?・・エロス!」興奮マックスな佐々木女史。
「あら、、意外。」にやっと流し目な谷口さん。
今日も賑やかな二課。

そんなある日の朝。
KAIの美味しいあさごはん、今日は和食か。野菜たっぷりなお味噌汁をすすりつつ話しかける。
「いつから料理してるの?」
「んー、小学校の5、6年あたりかな。・・田舎の親戚・・ばあちゃんちに引っ越してさ、手伝ってたんだ。」
?なんとなく歯切れの悪い感じ。
「どうしてモデルになろうと思ったの?」
田舎から東京にって、なかなか勇気いるんじゃない?
「あ、スカウトされてしょう、こさんに。」KAIの目が不自然に泳ぐ。
「ふーん?」
「じ、事務所の社長の、、親族というか、、」
なにをそんなに取り乱すのかしら。
「いや、あの、すごく衝撃的な出会いでさ、、会ったら分かるけど・・凄い人なんだ。俺のこと、すごく考えてくれてさ、、
あの人がいたから今の俺がいるんだ。」
少し恥ずかしげなカイは眩しく微笑んだ。 
そう、、すごく、大事な人、ね。
「まあ、うるさい時もあるんだけどさ。」
屈託のない笑顔で困ったように話すKAIは可愛らしい。
交わす笑みの下、つきんと胸がきしむのは、きっと少しばかり近づきすぎてしまったから。

今日も忙しく業務をこなし、オフィスを出て駅までの通りを歩く。
ふとよぎるのは今朝の会話。
かわいこちゃんに大事な人、か。
そんな人がいるのに、写真を撮られたからって恋人役を他人に頼むなんて、、。

いや、他人だからか。

大事な人にそんなこと頼めない。
・・。

はあっ、自宅帰ろっかな。

ファンやら記者が突撃してきたら危ないっていうからKAIのとこいるけど、あんな後ろ姿で、誰が嗅ぎつけるっていうのよ。
あのきらびやかなマンションへ向かう為の迎えの車が視界に入ったとこで、カツンとヒールの歩みを止めた。

〈今日は自宅に帰ります〉

ポチっと送信し、くるりと方向転換。
カツカツと人波に混じっていく。
夕闇を感じさせないように街の光がきらめき出す時間帯。
角を曲がって地下鉄の出入り口の階段を降りようとした時

「安藤 沙織さん?」
後ろから至近距離で尋ねられた。
低めなその声に・・
背中がヒヤリとした。
フルネームで呼び止める知人はいない。
会社関係なら、社名も言われるはず。
・・つまり一方的に私の個人情報を知る見知らぬ誰か、の可能性。

よしっ。
シカトだっ!

カツカツカツカツ、
出来得る速さで地下鉄の階段を走り降りていく。
「ちょっ、ちょっとっ!」
焦った声が後ろから聞こえたが、帰宅ラッシュな人波をかき分け改札までダッシュ。
入り組んだ地下道は、改札まであと50メートル。上がる呼吸を鼻呼吸でやり過ごし、パスモ片手に先を急ぐ。
見えてきた改札口、パスモをかざそうと右手を上げた・・。

その瞬間、身体に走る衝撃。
「っ!!」

ぐわっと後ろから腹部に手を回され引き寄せられ、パスモを持った手はよく知る大きな手に包まれた。
「さ、さお、りさんっ。脚、はやっ・・。」
頭上から聞こえる途切れ、途切れの声。
背中に感じるのは、せわしく上下する胸筋と熱さ。
驚き、固まっていた身体からふわっと力が抜け、後ろの熱い身体に寄りかかる。
「マジ殺す。」
パーカーを目深にかぶり見下ろすカイを睨む。
「っ!」
なんで口元が嬉しそうに歪んでんだ・・。



「もうっ、びっくりしちゃったわよー!いきなり走り出すんだものっ!」
「す、すみません。」
カイに捕獲された私は、結局いつもの事務所のお迎えカーの中。
接待なんかがない日は鬼マネが事務所の人間を寄越してくる。何度となく断ったものの、「社長の指示です。」の一点張り。。まあ、マンション出入り口でパパラッチされても困るんだけどさ。
でも、今はそれは問題ではなく・・。
「しょうこさんが急に捕獲しようとしたからでしょっ!」
助手席に座ったかいがこちらを振り返り怒鳴る。
「捕獲って、おかしいでしょ。呼び止めただけよ。失礼しちゃうっ!」
「道端でしょうこさんに呼び止められたら、そりゃ逃げっ・・」
ガン!
車内に響く衝撃音。
「お黙りなさい。」
隣から絶対零度な空気が流れた。
「・・クソババァ。」
「ああんっ!?おまえ、粋がってると後で覚えてらっしゃいっ!」
「しょ、しょうこさん、落ち着いて、、。カイもさーっ。」
運転する事務所スタッフはおろおろと困り顔。
不貞腐れるイケメンモデルに、ガチギレの隣に座る淑女ことしょうこさん。
キレるしょうこさんの唇はベージュピンクのルージュ。煌めくラメがぽってりとした唇を強調する。
瞳はばっさ、ばっさと羽音が聞こえそうなツケマとピンクブラウンのシャドー。
真っ黒な髪は肩につくぐらいの長さ。
真っ白なシルクのシャツは光沢があり、、ある意味すごく似合っている。。
しっかりとした肩と大きな喉仏は気になるけど。
ついでにロングスカートから伸びる鍛えられたふくらはぎと高いヒールのアンバランスさもなんとも気になる。
ツッコミどころはあれど、なんとなく言っちゃいけないのも肌で感じる。
「あの、もう大丈夫ですから・・。」
カオスな状況を収めるべく発言すると、
「ほらっ!さおりちゃんは大丈夫って言ってんじゃない。じゃあ、予定通りカイはスタジオ。私とさおりちゃんはカイの家!」
「「えっ。」」と私と運転スタッフ。
「っ!ふざけんなよ、帰れっ。見た目は女でも中身は男だし、バイなんだから、沙織さんと二人っきりなんてダメに決まってる!」
キレるカイ。
「お黙りなさい、クソガキ。こっちは年中発情期じゃねえんだ。とっとと働け。」
ドスの効いた声が車内に響く。
そんなしょうこさんは、こちらを振り向き黒い花が咲くような笑みを向けた。
「女同士、積もる話もあるじゃない?」
「はははっ・・。」
黒や紅色の毒々しい花々が咲き乱れた。。
「だから、女じゃねえっ!!!」
狭い車内にカイの叫びがこだまする。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

【R18】十六歳の誕生日、許嫁のハイスペお兄さんを私から解放します。

どん丸
恋愛
菖蒲(あやめ)にはイケメンで優しくて、将来を確約されている年上のかっこいい許嫁がいる。一方菖蒲は特別なことは何もないごく普通の高校生。許嫁に恋をしてしまった菖蒲は、許嫁の為に、十六歳の誕生日に彼を自分から解放することを決める。 婚約破棄ならぬ許嫁解消。 外面爽やか内面激重お兄さんのヤンデレっぷりを知らないヒロインが地雷原の上をタップダンスする話です。 ※成人男性が未成年女性を無理矢理手込めにします。 R18はマーク付きのみ。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法

栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。

処理中です...