執着系上司の初恋

月夜(つきよ)

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番外編 キスとぬくもり 安藤課長編

10 温度 前半 安藤部長編

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照明の光が白い肌を照らし、光が妖しげに反射する。
その肌の上を長い指が滑っていく。
「はぁっ・・んっ。」
しなるのは苦悩の表情を浮かべた女の身体。
男の前で、後ろ手をつきたわわな胸を反り返らせた女はあごを突き上げ、天井を向く。
「・・ここ?」
そんな艶かしい女に低く優しい声で問いかけるのは、どこか憂いを感じさせる美貌の男子。
そんな彼の表情もまた・・どこか苦悩に満ちている。
「あっ、気持ちイイ!」
「っ!」
彼の身体にグッと力が入る。
「イタタッ!ちょっと力入りすぎっ!」
「あっ、ごめん!大丈夫?」

「もうっ、せっかく気持ちよかったのにっ。そこじゃなくて、ここだってばっ!」
不満げな顔で沙織は口を尖らす。
「はいはい、ここね。」
ちょっと納得いかない顔でせっかくの美貌を曇らせるKAI。
平日夜のマッサージタイム。

KAI視点
細く引き締まった足首からふくらはぎを下から上へと手のひらで包んで押し上げると、凝り固まった筋肉が解けていくのが手のひらから感じ取れた。
少しばかり低い体温の沙織さんの脚が俺の手でその温度を上げる・・。
漏れ聞こえるのは、
「はあぁっ。」
「んぅっ。」
抑えた吐息。
細い身体をくねらせる、丸みを帯びた腰。
揺れる胸。
・・エロい、エロ過ぎんだよ!!
俺は男なんだぞ!?
いいのかそんな格好して!?

勝手な苛立ちを感じつつ、つい20分ほど前の自分の判断が間違っていたと反省する。

今日は台風のせいで撮影が室内のみとなり珍しく早々と自宅へ帰ってきた。ここ二、三日はキツキツスケジュールでまともに沙織さんと顔を合わせていなかったから、今日こそは!と思っていたが、部屋は真っ暗なまま。
まだか?と思いながら飯食って、風呂入って・・時計を見れば22時。
自宅に戻ったんじゃ・・なんてぞくりとした冷たいものを感じた瞬間、ガチャっとドアが開いた。

「おかえり!」
「・・ただいま。」
「っ・・お風呂沸いてるよ。」
「おー♪入ってくるね。」

彼女の笑顔一つでばくんと胸が音を鳴らす。
指先が痺れる様な、胸がひきつれる様な。

たとえ、その笑顔が取り繕ったような自然なものじゃなくても。

もうとっくに昔のことなのに、俺の過去は俺の癖を治してはくれない。
普通なら感じなくてもいい人の些細な感情の機微に敏感になりすぎてしまう。
下を向き、関わってきそうな相手の感情の機微を先取りするかのごとく反応する事で切り抜けた過去。そんな過去はなかなか消えてはくれない。

ブルブルっと頭を振って引き込まれそうな過去を頭から放り出す。
「ふぅー・・。こんな時は!」
広いリビングで一人気合いを入れると、頭の中の書籍庫が目まぐるしく回り出す。
秘蔵書No.32『 抱きしめた後で 』
これは失恋モノだから却下。
秘蔵書No.4『濡れる二人』
これは・・エロい。しかし今は却下。
秘蔵書No.13『触れたぬくもり』
・・うん。これだ。
大人男子とひよっこ女子との溺愛系ラブストーリー。
ミスをしたひよっこ女子は泣きそうになりながら黙々と一人残業していると、いつもは厳しい部長が出先から戻ってきた為、必死に謝罪しリカバリーを宣言する。
雷落ちるっ!と縮こまったひよっこの肩を部長の大きな手が触れる。
「力が入り過ぎだ。一人で背負い込むな。」
その柔らかな声に驚いて顔を上げると、そこには甘く笑う部長の姿が。
触れた手は、優しく肩を撫でて、萎縮した彼女の身体と心を解いていく・・。

そう、20分前の俺は沙織さんをやさしく癒そうと思ったんだ。
それが結局いつものように振り回されてます。
No.13、俺にはまだ早かったかっ・・不覚。
「はあ、気持ち良かった!ありがとう。」
爽やかに笑う沙織さんの笑顔は本物で、まあ、良いんだけどと自分を納得させた。



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