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番外編 キスとぬくもり 安藤課長編
小話 川上部長の暗躍 安藤課長編
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「お久しぶりです。・・川上さま。」
そうにこやかに告げるのは旧知のバーテンダー山路。彼はバーテンダー世界大会への足がかりとなる日本大会で幾度となくファイナリストに選ばれたことのある実力者。
彼の作り出すカクテルには多くのファンがいるが、詰め寄せる客に真のサービスを提供するのが難しいと判断した彼は、ここ数年大会へは参加していない。
「久しぶりに君のカクテルが飲みたくなってね。」
よく磨かれたカウンターに座ると、
「いつものでよろしいですか?」
ふっと笑みが漏れる。
久方ぶりであるのに、自分の好みを覚えていてもらえるのは嬉しいものだ。
「ああ。」
鮮やかな手さばきを見つつこの難攻不落な相手にどう斬りこもうかと考えていると、
「・・怖いですねぇ。そんなに微笑まれては。」
苦笑いで山路がいつものマティーニを出した。
「ははっ、すまないね。難問であればあるほど燃えるたちでね。」
「川上さまは負け戦などなさりませんでしょう?」
爽やかな笑顔の山路。彼はもう俺の来訪の意味に気づいているのか?
「ふふ。中々侮れないな。」
頭のキレる男ならばこうした駆け引きも面白いものだ。
喉を通り過ぎるのは、バーテンダーは数あれど彼しか出せない味。
ニヤリと笑って懐かしくも流石と屈服させられる味を味わう。
ジンの香り高い余韻を楽しみつつコトンとグラスを置くと・・試合開始だ。
「バーの入り口近くで写真を撮るなど、無粋なマネをする客もいるもんだな。」
さて、どんな返答か。
ロック用のアイスを削っていた手が止まる。
「ホテルに携わる者としてはお恥ずかしい限りです。お客様のプライベートをお守りできなかったのですから。」
そのホテルに属する人間としてのセリフはつまらないな。
「プライベートね。・・僕なら守れるよ?」
我ながら真っ黒な笑みを浮かべる。
「・・お知り合いでしたか。」
困ったなと笑う山路に彼の所見を問う。
「彼女は僕の部下でね。美桜も気に入ってるんだ。君はどう思う?」
まだデータ上でしか知らぬ男。
その男をどうするかはこの酸いも甘いも味わえるバーテンダーの心眼にかかる。
口元に笑みを浮かべた山路には優しいシワが刻まれる。
「相変わらず美桜さんにはお優しい。・・ここからは独り言ですが、、。」
店内に目を配り紛れているものがいないかと確認すると、音量を下げた山路の独り言が聞こえてきた。
バーに慣れた雰囲気を演技の為に得たいとカウンターの奥の席に座った男は中々の好印象の青年。
たまに女に声をかけられていたが常に一人で二、三杯飲んでは帰っていった。
ある日いつも彼が座る席に彼よりも先に現れた女性。
彼女もまた一人でお酒を楽しんでいたが、その美しさゆえに邪魔が入る。
そんな時、彼と彼女が出会ったら・・。
物語のような独り言を終えた時、すっと出されたのはキール。
揺れる赤はキラキラとライトを反射する。
「私のおススメです。」
ふふっと笑ったその笑みに彼の真意を受け取った。
「くく。僕には甘過ぎるな。恋はもっと身体を焼き尽くすようでないと。」
赤く揺れるキールは甘く喉元を過ぎていく。
「お好みはそれぞれですよ。」
山路の笑みは人生を語る。
「深いねぇ。酒も色恋も。」
これから面白くなるとキールを飲み干すと、
「こちらにご連絡を。」
山路がカウンターに一枚の名刺を置いた。
社名は有名芸能プロダクション 役職はマネージャー 。
「これは?君が?」
だとしたら随分用意周到だな。
「いえ、どうやら彼にも世話好きな人間がいるようです。」
「・・くく。楽しくなりそうだ。」
作者から
私も詳しくはないですがお酒は好きです。
ちなみにキールは・・最高の巡り合いという意味があります。うふふ。
そんなん知らずにキールロワイヤルを頼んでました。
恋人同士なら・・夫婦でもたまにはキールがいいかも?
最近は家飲み最高!な月夜でした。
そうにこやかに告げるのは旧知のバーテンダー山路。彼はバーテンダー世界大会への足がかりとなる日本大会で幾度となくファイナリストに選ばれたことのある実力者。
彼の作り出すカクテルには多くのファンがいるが、詰め寄せる客に真のサービスを提供するのが難しいと判断した彼は、ここ数年大会へは参加していない。
「久しぶりに君のカクテルが飲みたくなってね。」
よく磨かれたカウンターに座ると、
「いつものでよろしいですか?」
ふっと笑みが漏れる。
久方ぶりであるのに、自分の好みを覚えていてもらえるのは嬉しいものだ。
「ああ。」
鮮やかな手さばきを見つつこの難攻不落な相手にどう斬りこもうかと考えていると、
「・・怖いですねぇ。そんなに微笑まれては。」
苦笑いで山路がいつものマティーニを出した。
「ははっ、すまないね。難問であればあるほど燃えるたちでね。」
「川上さまは負け戦などなさりませんでしょう?」
爽やかな笑顔の山路。彼はもう俺の来訪の意味に気づいているのか?
「ふふ。中々侮れないな。」
頭のキレる男ならばこうした駆け引きも面白いものだ。
喉を通り過ぎるのは、バーテンダーは数あれど彼しか出せない味。
ニヤリと笑って懐かしくも流石と屈服させられる味を味わう。
ジンの香り高い余韻を楽しみつつコトンとグラスを置くと・・試合開始だ。
「バーの入り口近くで写真を撮るなど、無粋なマネをする客もいるもんだな。」
さて、どんな返答か。
ロック用のアイスを削っていた手が止まる。
「ホテルに携わる者としてはお恥ずかしい限りです。お客様のプライベートをお守りできなかったのですから。」
そのホテルに属する人間としてのセリフはつまらないな。
「プライベートね。・・僕なら守れるよ?」
我ながら真っ黒な笑みを浮かべる。
「・・お知り合いでしたか。」
困ったなと笑う山路に彼の所見を問う。
「彼女は僕の部下でね。美桜も気に入ってるんだ。君はどう思う?」
まだデータ上でしか知らぬ男。
その男をどうするかはこの酸いも甘いも味わえるバーテンダーの心眼にかかる。
口元に笑みを浮かべた山路には優しいシワが刻まれる。
「相変わらず美桜さんにはお優しい。・・ここからは独り言ですが、、。」
店内に目を配り紛れているものがいないかと確認すると、音量を下げた山路の独り言が聞こえてきた。
バーに慣れた雰囲気を演技の為に得たいとカウンターの奥の席に座った男は中々の好印象の青年。
たまに女に声をかけられていたが常に一人で二、三杯飲んでは帰っていった。
ある日いつも彼が座る席に彼よりも先に現れた女性。
彼女もまた一人でお酒を楽しんでいたが、その美しさゆえに邪魔が入る。
そんな時、彼と彼女が出会ったら・・。
物語のような独り言を終えた時、すっと出されたのはキール。
揺れる赤はキラキラとライトを反射する。
「私のおススメです。」
ふふっと笑ったその笑みに彼の真意を受け取った。
「くく。僕には甘過ぎるな。恋はもっと身体を焼き尽くすようでないと。」
赤く揺れるキールは甘く喉元を過ぎていく。
「お好みはそれぞれですよ。」
山路の笑みは人生を語る。
「深いねぇ。酒も色恋も。」
これから面白くなるとキールを飲み干すと、
「こちらにご連絡を。」
山路がカウンターに一枚の名刺を置いた。
社名は有名芸能プロダクション 役職はマネージャー 。
「これは?君が?」
だとしたら随分用意周到だな。
「いえ、どうやら彼にも世話好きな人間がいるようです。」
「・・くく。楽しくなりそうだ。」
作者から
私も詳しくはないですがお酒は好きです。
ちなみにキールは・・最高の巡り合いという意味があります。うふふ。
そんなん知らずにキールロワイヤルを頼んでました。
恋人同士なら・・夫婦でもたまにはキールがいいかも?
最近は家飲み最高!な月夜でした。
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