【5分で読める!】短編集

こよみ

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試合開始は午後三時

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 今日の午後三時。それは私にとって勝負が始まる時間だ。
 講義が終わるなり学校を飛び出して、呆れ顔の幼馴染みを急かしてまっすぐ家に帰る。

「夕飯までに一回切り上げろよー」

 と、お母さんみたいなことを言う紅葉くれはくんに「はーい!」と雑な返事をし、私は自室に駆け込んだ。お気に入りのクッションを乗せた椅子に腰掛けて、性能を優先した結果のデスクトップ型のパソコンの電源を入れる。起動を待つ間に時間を確認すると、ちょうど午後三時になる十分前くらいだった。

 よし、間に合った!
 密かにガッツポーズを取って通話アプリを立ち上げる。目当てのゲームはまだメンテナンス中で入れないため、メンバーと事前に連絡を取るにはこれを使うしかないのだ。
 しかし、いつも使っている『オルタナティブ』と名付けられた部屋を覗いてみても誰もいなかった。メンテ明けから走る! と意気込んでいたから、てっきり蛍くんは待機していると思ったんだけど。

「……あ。もしかして」

 一つ思い当たることがあり、【こんにちはー】とチャットに流してみる。すると案の定、すぐに二人のメンバーから反応があった。

ほたる【こんちゃー! 間に合ったんだ?】
モモ 【なんとか。急いで帰って来ました!】
ほたる【さすが】
きなこ【おかえり】
モモ 【ただいま! もしかしてお話し中でした?】

 思い当たることというのはこれだ。
 ほたるくんとあかりさん――ちょっとした事件があって『オルタナティブ』の面々は本名を知っているのだ――は一緒に住んでいるそうだから、もしかしてアプリだけ立ち上げて直接話しているのでは? と思ったのだ。同じ空間にいるのに、わざわざ通話アプリを通す必要はないもんね。
 そしてどうやら私の予想は当たっていたらしい。

きなこ【別に気にしなくていいよ。ロクなこと話してないから】
ほたる【そうそう、ただの雑談】
きなこ【どうせまた泥しないで報酬上限まで走るんだろうなとか】
ほたる【そういう予言いらねえから。ていうかそんな話したっけ】
きなこ【してない。今言っておかなきゃいけない気がした】
ほたる【これぞ正しく余計な一言】
きなこ【でも事実だし】
ほたる【まだわかんねえだろ! 案外さくっと落ちるかも】
きなこ【ほたる、それフラグって言うんだよ】
モモ 【私もフラグに聞こえる……】
ほたる【モモちゃんまで!?】
モモ 【だって……ねえ?】
きなこ【うん】
ほたる【ひでえ。絶対上限前に落としてみせるからな、見てろよ!】

 蛍くんは妙に意気込んでいるけれど、正直さらなるフラグが立ったとしか思えなかった。何せ似たようなことを言いながら、それはもう見事にフラグ回収する姿を私たちは何度も見てしまっている。驚くほどドロップ運がない人なのだ。まあ、その分他の部分で強運を発揮しているみたいだけど。
 ともかく、そんな感じでだらだらチャットを続けるうちにメンテナンスは明けていて、私と蛍くんは慌ててゲームを立ち上げた。

 目的は午後三時から開催される期間限定イベントのレアドロップアイテム。確定報酬には設定されていない鬼畜仕様。イベントが終わったらいつ手に入るかわからないそれのため、私たちはスタートダッシュと言う名のモンスター狩りを開始した。
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