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第28話 第一王子と第二王子 (1)

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 午前十時、ナバハイル城本宮殿の大広間では、宮廷楽団が管弦楽の美しいハーモニーを奏でていた。楽団の前、中央の椅子にはダーリアン三世と、王妃ミランダスが座す。他にも多くの貴族たちが、素晴らしい演奏に耳を傾けていた。

 席の最後方、第一王子と第二王子も鑑賞していた。一番前に座るようすすめられたが、若輩者ですからと殊勝なことを言って、大臣や将軍たちに最前列を譲った。

 第二王子のオルワードは落ち着きなく、髪をいじったりこっそり欠伸したりしている。
 暗めの金髪の巻き毛が童顔を包む。二十四歳だがまだ十代に見える外見や仕草は、貴族の女性たちから「かわいい」と評されている。

 だがその人となりを深く知れば、その幼い人相は、幼児的残虐性の表出であることが理解できるだろう。

 オルワードの隣、第一王子のジルソンが小声で落ち着きの無い弟をたしなめる。

「おい、大人しくしてろ」

「だって退屈なんだもの」

「元庶子だから育ちが悪い、などと揶揄される」

「本当のことだしねえ」

「いい加減にしろ、俺を怒らせたいのか」

「はいはい」

 オルワードに苛立つ第一王子ジルソンは、弟とそっくりの髪質髪色だが長く伸ばし、ひとつで結んでいる。
 巻き毛の前髪が垂れかかる甘い顔立ちは、女性達をいつもうっとりさせた。

 年齢は二十六歳。長身で体格もよく、振る舞いも落ち着いていて、十分に王子らしい風格があった。国政にも積極的で、ここ数年の国政はジルソンが主導していると言っても過言ではない。

 だが彼の内に潜む、神経質な残忍さを知る者は少ない。

 そんな兄弟の肩をそっと叩くものがいた。

「王太子殿下、少しよろしいですか」

 二人が振り向くと、兄弟の取り巻き貴族の一人、ルクサル伯爵家の三男坊、ペリー・キヌーズだった。

「なんだ?」

 うっすらと赤みがかった金髪のペリーはジルソンにそっと耳打ちした。

 もたらされた報告に、ジルソンの顔色が変る。
 ジルソンはオルワードに目配せし、二人はそっと席を立った。

 愛想笑いを振りまきながら、大広間を抜け出した。

◇  ◇  ◇
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