36 / 66
36話 ウェイブ村(2)
しおりを挟む
二階の部屋に貴重品以外の荷物を置いてから、僕らは一階の酒場に行った。
扉を開けた途端、アルコール臭と美味しい何かの匂いが入り混じった空気が鼻孔をついた。
やはり客層は、ハンターっぽい屈強な男達だらけだった。
こんな田舎の村、ハンターくらいしか来ないのだろう。
客は十数名しかいないが、狭い酒場なのでそれだけで満杯だった。
カウンター向こうの、猿みたいな長い尻尾を生やしたマスターが入って来た僕たちを見た。
「いらっしゃい、相席になるけどいいかい?」
「ああ」
レンはうなずいた。
僕たちは男が一人座っているテーブルの、空いた椅子に座った。
「邪魔して悪いな、座らせてもらうぜ」
レンが珍しく愛想よく自分から挨拶した。
右目に眼帯をつけた、体の大きな緑色の肌の男は、ビールのジョッキを傾けながら、「おう」と返事する。
「随分とわけえじゃねえか、学生か?」
「まさか、ハンターだよ。ミルドジャウ山を目指してる」
「ミルドジャウ?わけえくせに転生者狙いか。一攫千金、夢があっていいな」
「ああ、いい狩り場だと聞いてな」
「狩り場つっても、やっぱり転生者は超激レアだからよ、ひと月に一匹捕まえられりゃいい方らしいぜ。ライバルのハンターも多いしな。もしかしたらあの山の麓にある『背徳の街』ラガドで逃亡転生者拾う方が効率がいいかも知んねえ」
「背徳の街、ラガド?」
レンの問いに男は、含み笑いを浮かべた。
「おうよ、世界一の娼館街だ。行ってもいいが、ハマるんじゃねえぞ?普通の娼館もあるが、転生者専門の娼館が特に多く軒を並べててな。街の路地には転生者中毒に陥ってすっからかんになった連中が、それでも転生者液求めてのたうちまわってんだよ」
僕はおずおずと質問を挟む。
「転生者中毒、って何ですか?」
「ほら転生者液は麻薬だからよ。摂取し過ぎると中毒になっちまうんだ。俺は一回も転生者を食ったことはねえが、ああいうの見るとどんなに『いい』って言われても、ためらっちまうなあ」
この人は転生者を「嗜まない」人なんだ!なんだかそれだけでほっとした。現地人なのに、すごいまともな人のように見えてくる。
男はさらにラガドの話を続けた。
「ラガド行くと、転生者液だけ瓶詰めにされて売ってるぜ」
「び、瓶詰め!?」
瓶詰め精子発売中!?もう字面だけでくらくらするおぞましさだ。
僕の引きっぷりに、「わかる」というように男はウンウンとうなずいた。
「ほんとよく買えるよな、カサ増しに店主の精液とか混じってるかも知んねえんだぜ?転生者液は味と匂いは普通の精液と同じだっつうからな。ほんの少しの匂いの判別はフェンリルにしかできねえってんだから」
レンも不快そうに顔をしかめている。
「ミルドジャウの近くの街はラガドだけなのか?」
「ああ、他はなんもねえな、あの辺りは。どうしてもミルドジャウで狩りたいってんなら、あの街を拠点にするしかねえ。まあ普通の娼館もあるからそっちで楽しみつつ気長に転生者待ったらいいさ」
いやだなあ、そんな恐ろしい街に行くしかないのか。
「なんだか食欲が失せて来ちゃった……」
僕がつぶやくと、
「んじゃ俺だけ食べるぞ」
「や、やだ食べるよ僕の分も頼んでよ!」
「はいはい」
レンが壁に掲げてあるメニューの異世界文字をスラスラ読んで注文した。
しばらくすると、鳥っぽい生き物の丸焼きやらビーフっぽい肉のシチューやらムール貝っぽい何かのワイン蒸しやら、美味しそうなものがいっぱい出て来た。
僕は目を輝かせて、早速ほお張る。
「美味しい!」
異世界のくせになんて美味しいんだ!素材の本当のところはなんだかわからないけど、考えないことにするぞ!
「そりゃ良かった。あ、良かったらおじさんもどうぞ」
「おーさんきゅうな」
レンが愛想よく男にも勧めた。レンはほんとこの世界にすっかり溶け込んでるなあと僕は感心してしまう。
僕は久しぶりのご馳走を満腹になるまで食べた。
扉を開けた途端、アルコール臭と美味しい何かの匂いが入り混じった空気が鼻孔をついた。
やはり客層は、ハンターっぽい屈強な男達だらけだった。
こんな田舎の村、ハンターくらいしか来ないのだろう。
客は十数名しかいないが、狭い酒場なのでそれだけで満杯だった。
カウンター向こうの、猿みたいな長い尻尾を生やしたマスターが入って来た僕たちを見た。
「いらっしゃい、相席になるけどいいかい?」
「ああ」
レンはうなずいた。
僕たちは男が一人座っているテーブルの、空いた椅子に座った。
「邪魔して悪いな、座らせてもらうぜ」
レンが珍しく愛想よく自分から挨拶した。
右目に眼帯をつけた、体の大きな緑色の肌の男は、ビールのジョッキを傾けながら、「おう」と返事する。
「随分とわけえじゃねえか、学生か?」
「まさか、ハンターだよ。ミルドジャウ山を目指してる」
「ミルドジャウ?わけえくせに転生者狙いか。一攫千金、夢があっていいな」
「ああ、いい狩り場だと聞いてな」
「狩り場つっても、やっぱり転生者は超激レアだからよ、ひと月に一匹捕まえられりゃいい方らしいぜ。ライバルのハンターも多いしな。もしかしたらあの山の麓にある『背徳の街』ラガドで逃亡転生者拾う方が効率がいいかも知んねえ」
「背徳の街、ラガド?」
レンの問いに男は、含み笑いを浮かべた。
「おうよ、世界一の娼館街だ。行ってもいいが、ハマるんじゃねえぞ?普通の娼館もあるが、転生者専門の娼館が特に多く軒を並べててな。街の路地には転生者中毒に陥ってすっからかんになった連中が、それでも転生者液求めてのたうちまわってんだよ」
僕はおずおずと質問を挟む。
「転生者中毒、って何ですか?」
「ほら転生者液は麻薬だからよ。摂取し過ぎると中毒になっちまうんだ。俺は一回も転生者を食ったことはねえが、ああいうの見るとどんなに『いい』って言われても、ためらっちまうなあ」
この人は転生者を「嗜まない」人なんだ!なんだかそれだけでほっとした。現地人なのに、すごいまともな人のように見えてくる。
男はさらにラガドの話を続けた。
「ラガド行くと、転生者液だけ瓶詰めにされて売ってるぜ」
「び、瓶詰め!?」
瓶詰め精子発売中!?もう字面だけでくらくらするおぞましさだ。
僕の引きっぷりに、「わかる」というように男はウンウンとうなずいた。
「ほんとよく買えるよな、カサ増しに店主の精液とか混じってるかも知んねえんだぜ?転生者液は味と匂いは普通の精液と同じだっつうからな。ほんの少しの匂いの判別はフェンリルにしかできねえってんだから」
レンも不快そうに顔をしかめている。
「ミルドジャウの近くの街はラガドだけなのか?」
「ああ、他はなんもねえな、あの辺りは。どうしてもミルドジャウで狩りたいってんなら、あの街を拠点にするしかねえ。まあ普通の娼館もあるからそっちで楽しみつつ気長に転生者待ったらいいさ」
いやだなあ、そんな恐ろしい街に行くしかないのか。
「なんだか食欲が失せて来ちゃった……」
僕がつぶやくと、
「んじゃ俺だけ食べるぞ」
「や、やだ食べるよ僕の分も頼んでよ!」
「はいはい」
レンが壁に掲げてあるメニューの異世界文字をスラスラ読んで注文した。
しばらくすると、鳥っぽい生き物の丸焼きやらビーフっぽい肉のシチューやらムール貝っぽい何かのワイン蒸しやら、美味しそうなものがいっぱい出て来た。
僕は目を輝かせて、早速ほお張る。
「美味しい!」
異世界のくせになんて美味しいんだ!素材の本当のところはなんだかわからないけど、考えないことにするぞ!
「そりゃ良かった。あ、良かったらおじさんもどうぞ」
「おーさんきゅうな」
レンが愛想よく男にも勧めた。レンはほんとこの世界にすっかり溶け込んでるなあと僕は感心してしまう。
僕は久しぶりのご馳走を満腹になるまで食べた。
15
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説
そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~
天岸 あおい
BL
ビッチ勇者がワザと魔物に捕まってエッチされたがるので、頑張って戦士が庇って大変な目にあうエロコメディ。
※ビッチ勇者×ガチムチ戦士。同じ村に住んでいた幼馴染コンビ。
※魔物×戦士の描写も多め。戦士がエロい災難に遭いまくるお話。
※エッチな描写ありの話は話タイトルの前に印が入ります。勇者×戦士『○』。魔物×戦士『▼』。また勇者視点の時は『※』が入ります。
隷属神官の快楽記録
彩月野生
BL
魔族の集団に捕まり性奴隷にされた神官。
神に仕える者を憎悪する魔族クロヴィスに捕まった神官リアムは、陵辱され快楽漬けの日々を余儀なくされてしまうが、やがてクロヴィスを愛してしまう。敬愛する神官リュカまでも毒牙にかかり、リアムは身も心も蹂躙された。
※流血、残酷描写、男性妊娠、出産描写含まれますので注意。
後味の良いラストを心がけて書いていますので、安心してお読みください。
生贄として捧げられたら人外にぐちゃぐちゃにされた
キルキ
BL
生贄になった主人公が、正体不明の何かにめちゃくちゃにされ挙げ句、いっぱい愛してもらう話。こんなタイトルですがハピエンです。
人外✕人間
♡喘ぎな分、いつもより過激です。
以下注意
♡喘ぎ/淫語/直腸責め/快楽墜ち/輪姦/異種姦/複数プレイ/フェラ/二輪挿し/無理矢理要素あり
2024/01/31追記
本作品はキルキのオリジナル小説です。
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~
天埜鳩愛
BL
爽やかスポーツマンα × 妄想巣作りのキュートΩ☆ お互いのフェロモンをくんかくんかして「甘い❤」ってとろんっとする、可愛い二人のもだきゅんラブコメ王道オメガバースです。
オメガ性を持つ大学生の青葉はアルバイト先のアイスクリームショップの向かいにあるコーヒーショップの店員、小野寺のことが気になっていた。
彼に週末のデートを誘われ浮かれていたが、発情期の予兆で休憩室で眠ってしまう。
目を覚ますと自分にかけられていた小野寺のパーカーから香る彼のフェロモンに我慢できなくなり、発情を促進させてしまった!
他の男に捕まりそうになった時小野寺が駆けつけ、彼の家の保護される。青葉はランドリーバスケットから誘われるように彼の衣服を拾い集めるが……。
ハッピーな気持ちになれる短編Ωバースです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる