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59.テオの魔力

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 幼い頃は魔力の調整が出来ず、周囲で何人もの人が倒れた。自分も寝込んでばかりだったとテオは言う。

「原因が分かった途端に、人前には一切出されなくなってね。いつのまにか、得体の知れない王太子と人々が噂するようになった」
「……テオ」
「この髪は元々金で、瞳は青だったんだ。色が変わったのは、毒を盛られた後遺症だ」

 魔力を奪う存在は、恐れと憎悪の対象でしかない。毒が入った体は高熱を発し、魔力が暴走した。一命をとりとめた時には、髪も瞳の色も元の面影はなかった。

「益々人と会わず、友人と呼べる者もいない。ユウの話を宰相から聞いて、久々に人に興味を持った」

 何度も失敗しながら、異世界人が魔力を増やす食べ物を作っている。自分が食べても何の変化も無いのに、他の者の役に立ったら嬉しいなんて、面白い人間がいたものだ。会えるのなら、夜会に参加してもいいかもしれない。

「出てみたら……私のことを恐れずに一緒にロワグロを食べようなんて言う。人と食事をするなんて久しぶりだった。勢いよく食べる姿を見て、魔力のあるなしとは関係ない。生きる力を感じたんだ」
「テオ……」

 俺は、テオの話を聞きながら胸が痛くてたまらなかった。
 ロワグロを贈られたことも、毒見のことも、王族だからそんなこともあるだろうとしか思っていなかった。自分と同じように痛みを感じる人間だなんて考えていなかったんだ。

「テオ……テオ、ごめん」
「どうして謝るんだ?」
「俺……、王族だからってテオのこと一括ひとくくりにしてた。一人の人として……見てなかった」
 
 テオがくすくすと笑う。王宮の人間だって、皆そうだと。

「……魔林での経験は、なかなか悪くなかったぞ」
「えっ?」

 魔林の中で何匹もの魔獣と戦った。魔獣の魔力を吸収し、跳ね返す。傍らのレトに使えるのは回復魔法だけだ。小さな傷の手当てをしてもらいながら、応援部隊が救援に向かうまで魔林を歩き続けた。

「自分の力で他人を守れるなんて思ったことがなかった。レトが言うんだ。『殿下、ありがとうございます。助けを呼んで、ご一緒にユウ様を探しましょうね』って。自分たちが助かるかもわからないのに」

 ――そんなことを言われたら、ユウに会うまで死ぬ気で頑張らないわけにはいかないだろう? 
 テオは俺を見て笑う。

「魔林の中で食べられるものを見つけて、二人で分けた。ユウが言っていた、人と分けるってことを知ったんだ。レトとユウのことばかり話していた」

 俺は、またしてもボロボロと泣いてしまった。自分はすごくちっぽけなのに、優しい人たちが周りにいる。これが女神様の加護なら、たくさんありがとうを言いたい。

「……テオが助かってよかった。今度からもっとまじめに女神様に御礼を言う」
「ありがとう、ユウ」
 
 俺はテオの手が温かくなるまで、ずっと握っていた。テオが眠そうだったので、また来ると言って側を離れた。
 テントの入り口には、ソノワがいなかった。ドゥエと代わりの騎士が立っている。何となく気になって、俺はドゥエに声をかけた。

「ソノワはセンブルクにねぎらいの言葉をかけたいと向かいました。ユウ様、この度はご無事で何よりでした」

 心配してくれたドゥエに礼を言った。ソノワへの不安な気持ちを無理やり打ち消す。

 ……馬鹿だな。ソノワが俺のことを好きじゃなくたって、それとこれとは別じゃないか。ソノワ家とセンブルク家は昔から親しい間柄だったとエリクが言ってた。無事を祝うのは当たり前だ。

 視線を遠くに向けると、陽が沈み始め、一日がゆっくりと終わろうとしていた。魔林はここからは遠い。駐留地から見ると、遥か遠い山並みのように緑の線が真横になって見えているだけだった。

 無性にジードに会いたかった。

 もう話は終わったんだろうか。まだたくさんの人たちに囲まれているだろうか。突然現れた俺とは違ってジードには、話さなければならないこともたくさんある。
 そういえば、同じようなテントがたくさん並んでいるけれど、どこにジードがいるのかもわからない。急に心細い気持ちになりながら、俺は自分が出てきたテントに向かって歩いていく。自然にとぼとぼとした足取りになっていた。
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