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18.資質

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 雨が石壁を打つ音がする。
 叩きつけるように激しく降っては静かになり、また激しくなることの繰り返しだ。

 ここはどこだろう。
 目を開けても真っ暗で何も見えない。今は夜なのか。

 うつ伏せになったまま寝台に横たわっていた。寝台だとわかるのは、頬や指先に布の感触があり、体を休めるだけの広さがあるからだ。
 体はまるで自分のものではないかのように重かった。闇の中で少しずつ体の感覚を確かめる。指先と瞼は動くが、そこまでだ。口の中は乾いていて、うまく声が出せない。

 近くに人の気配はなく寒さも感じない。

 ……トベルクは私を殺すつもりではなかったのか。

 いつ馬車から降ろされて、ここに来たのかも定かではない。出来ることはたった一つだけ。少しでも体が回復するように眠る事だけだった。


 もう一度目を開けた時には、夜が明けていた。
 ちょうど顔を向けていた側の上方に、明かり取りの為の小さな窓がある。そこから、白く明るい光が差し込んでいた。

 体は少しずつ動くようになってきていた。痺れが取れた手を、ゆっくりと握っては開く。意識と感覚が結びつくのがわかり、今度は手首を動かした。腕をそろそろと上げた後、なんとか寝返りを打とうと試みたが無理だった。
 もう一度と思った瞬間、ガチャと音が聞こえた。あれは扉の鍵を開ける音だ。咄嗟に目をつぶって力を抜いた。

 部屋の中に入ってくる足音が聞こえる。

 ……二人。

「まだ目覚めないのか」
「本来なら二度とお目覚めにならない量を処方致しました」
「だが、解毒剤を飲ませただろう?」
「少々お時間が経ってからです。どの程度回復されるかは、わかりかねます」

 ……この声は。それに解毒剤?

 寝台の脇に人が立つ気配がした。顔を覆っていた髪が耳元に流され、頬に指先が触れる。

「……生きてはいるようだな」
「夜にも確認は致しました。引き続きご容態を見ませんと」
「任せる」

 頬から手が離れ自分を見つめている気配がした。息を殺していると寝台から遠ざかっていく。扉を開ける音と共に、主従の会話が聞こえてきた。

「目覚めたなら、水と食事を与えよ」
「かしこまりました」

 部屋から二人が出て行く気配がする。
 私は小さく息を吐いた。

 ……今のはトベルクだ。一緒に居たのは、あの時の侍従だろうか。

 どういうことだ。殺そうとした人間を、なぜ生かそうとする? 何か利用価値があるというのだろうか。

 冷汗をかき、気力が抜けていく。こんな時はひたすら動かずに目をつぶる。眠ろうと眠るまいと、それしか回復の見込みはないのだ。すると、わずかに甘い香りがした。どこから流れてくるのだろう。懐かしい香り……。いつのまにか、うとうとと微睡まどろんでいた。
 
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