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15.吐露

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 震える体に、ヴァンテルの手が伸ばされる。
 背中に手が回り、胸の中に抱き込まれる。ヴァンテルの胸の中は温かかった。

「……アルベルト様、申し訳ありません」

 思い詰めたような、小さな謝罪の言葉がこぼれた。

「私の最大の罪は、貴方にご病気を告げたことです。欲に負けて、全てを話してしまった。貴方が衝撃を受けることはわかっていたのに、自分を抑えられなかった」
「お前が気に病むことはない。幼い頃から何度も言われてきたことだ。それが代々続いていたものだったとわかって、驚きはしたが。……それだけだ」


「……貴方が優しい方だと、わかっていたのに」
「え?」
「何もかも飲み込んで、たった一人で歩こうとすると知っていたのに」
「……クリス?」

 ヴァンテルは、右手の指先で私の顎を取り、上を向かせた。
 優しい口づけが降ってきた。
 私の目の端から頬骨に。顎まで伝うものを追いかけるように。

「貴方はこんなに素直な方なのに、心とは裏腹な言葉を仰る」
「そんなことはない……」

「人の口は嘘をつきます。私も人のことは言えませんが。でも、心は正直です。殿下、心と体は繋がっているのです」

 優しい声が聞こえて、口づけは続く。
 瞳から溢れるものを止めようと思っても、少しも止まらない。
 後から後から溢れてきて、目の前にいるはずのヴァンテルの姿がぼやけて、よく見えない。

「……貴方をお慕いしております。アルベルト様」


『クリス、明日も会いたい』
『私もです、アルベルト様』

 あたたかな春の陽射しの中で笑っていたのは誰だ?
 互いに手を取り、寄り添い合っていたのは?

 目の前に、一面の白い世界が現れる。どこまでもどこまでも続く雪。
 吹きすさぶ風で何も見えなくなり、天も地も一つに溶け合っていく。
 自分以外、何もいない。
 雪に体を包まれても、溶けあえるわけではない。世界の中に、たった一人だ。
 白い闇の中にうずくまって、やがて力尽きて倒れていく。


 ──さびしい。
 寂しい。
 クリス。

 目の奥が熱くなって、耳の脇に幾筋も涙が伝い落ちる。
 耐えきれず、喉の奥から言葉がほとばしった。


 ──嫌だ。

「クリス! ひとりは……いやだ。お前が、いないのは!」

 ヴァンテルは、私を強く強く抱きしめた。

「……ええ、アルベルト様。もう、一人になどさせません」

 私の耳元で、あやすように話しかける。
 髪を撫で、額に口づけ、腕の中にしっかりと囲い込む。
 長い指が私の目の縁の涙をすくい、瞼にも口づけを落とす。

「クリスと……いっしょに、いたい」
「例え嫌だと仰っても、一緒におります。貴方のおそばから、離れません」

 何も言えないまま、胸の中で泣いた。
 涙が驚くほど溢れて、ヴァンテルの服が涙でぐっしょりと濡れてしまう。謝って体を離すと、もう一度腕の中に抱きしめられた。

 一緒にいてもいいのか、と小さく問えば、私が一緒にいたいのです、と応える。
 鳥籠の中だぞ、と言えば、二人きりですね、と微笑む。

 顔を上げれば唇に、俯けば髪に、口づけが幾つも降ってくる。

「何があっても、貴方と共におります。アルベルト様」
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