季節は流れる〜十人十色〜

桜吹雪と車椅子

ほら、あなた。
綺麗な桜ですよ。

20年ほど前に子供達と一緒にお花見しましたよね。
楽しかったわぁ。

孫が大きくなったら、また家族揃ってお花見したいですね。

え？何ですか？
あぁ、喉が渇きましたか。

はい、暖かいお茶ですよ。

車椅子、しんどくないですか？
寒くはないですか？

…そんな悲しい事言わないでください。
孫が大きくなるまで、元気でいなければ。

孫の結婚式までは生きたいですね。

ほら、桜吹雪。
綺麗ですよ。
ふふ、あなたの髪の毛に桜の花びらが。
とりますね。

…えぇ。
そうですよ、今、満開です。
あの時の花見をした時の様にすごく桜が咲きほこって、胸を締め付けるくらい綺麗な光景が広がっていますよ。

…あなたも感じますか？
……

よかった。

泣かないでください。
私があなたの目となり手足となります。

生きてください。
私の為にも。

最後の桜だなんて言わないで…。

あなたの事を今までもこれからも愛していますから…。