上 下
60 / 72

第60話 ブルックス・ゴル・フリードマンとアルフィ・ホープスの密会 3

しおりを挟む
「勇者という者の存在について、お主はどう聞いておる?」

「勇者は、魔王を倒せる唯一の存在で、天与ギフトランクはS+。あまりにも高すぎる天与ギフトランクゆえに、ただ一人しか存在しない者といった程度です」

「そうじゃ。……勇者ルヴィア以前にも、最高位の天与ギフトS+――つまり勇者のクラスを授かった者がおった」

「まさか……」

急に痛ましげな表情に変わった目の前の8歳児を見て、フリードマンは微笑んだ。

(……優しい……優しすぎるくらいじゃな……)

先程までは、敵かどうか判断するかのような厳しい視線だったのに、今は子を失った親を気遣うような視線に変化している。

「昔の話だ。遠いな……」

「……えぇ」

「……一人娘は、やはりルヴィアと同じく10歳で戦場に立った。そして当然のように亡くなった。当時のワシは、宮廷魔術師としての仕事もあったし、教授になったばかりでたくさんの教え子を導いておる最中だった……いや、言い訳じゃな。老人の昔話は、言い訳が増えるから長くなるんじゃ。……簡潔に言おう。ワシは、世間のことをよぉく知ってる気でいた、愚かもんじゃよ」

机の上で手を組み、天井を見上げる。

「確かに、当時からワシは優秀であった。研究者と王宮にいる貴族との生活を両立させていた。神代言語学に関していえば最先端を走り、王宮にいるため教授達の中では抜きんでた広い視野と豊富な情報を持っておった。各国の情勢や魔王軍の動向とかな」

じゃが、とブルックス・ゴル・フリードマンは天井から幼い少年に視線を戻す。

「目の前にいる娘のことは見ていなかった。……ワシが、深く娘を愛し、妻を愛していたと知ったのは、娘が戦場で倒れて帰らぬ人となり、それを知った妻が首を吊っているのを見た晩が初めてだった。……目の前にあるものさえ見えぬ愚か者に相応しい結末だった。……それからワシは死に場所を探した。……それがバベルじゃ」

「まさか、『バベル第20階層踏破者』のあなたがバベルに挑んだ理由って……」

「そうじゃ。死ぬつもりじゃったんじゃよ。……だいたい、おかしいと思わなんだか? 王国が精鋭を集めても調査が困難な場所に、たった1人で挑むなぞ、ただの頭のおかしな変人じゃよ」

フリードマンの軽い笑い声だけが研究室に響く。

アルフィ・ホープスは、何か言おうと口を開きかけたが、口を閉じた。続きを促すような視線を送ってきたのでフリードマンは話を続けた。

「……あとは知っての通りじゃ。ワシは、文字通り、生還し、また、そんな生活を繰り返した。……気づけば、10年くらい経っとった」

「どうして、生きようと思ったんですか?」

「いい質問じゃな。なぜワシがもう死ぬつもりがないとわかった?」

「そんなの目を見ればわかります」

「くくっ。……ミザエル並みじゃな。お主も相当変人じゃ……」

「まぁ、そうですよ。僕、さっき言いかけたんですけど、魔王討伐を目指してるんです。フリードマン様よりは常識的なつもりですから『たった1人で』って条件をつけるつもりはないです」

「それは、また……なんとも……」

驚かせるつもりが、驚かされてしまった。

(これは……いかんのう……)

頭をかく。

自分が目の前の8歳児を幼い少年と見られなくなったことを悟る。

「……ワシのことは、フリードマンさんでいい」

「いいんですかっ!? 確か、ティエラ姉ちゃんでも『フリードマン様』って呼んでましたよね? ……それに、国内外で凄い名声が高いらしいし……」

「じゃから、公式の場などでは、様付けにしてもらおう。そのほうがお互い面倒が少ない。……そうじゃろ?」

クククという老人の笑い声と、アハハという8歳児の笑い声が重なる。

「ワシはお主をホープスと呼ぼう」

「ホープス……」

(聡いこの子は、ティエラのことはファーストネームで呼ぶのに、ホープスと呼ぶ意味に気づいたらしいな……)

「つまり、対等だと?」

「お互い難題に挑む者同士じゃ。どうじゃ? ワシがバベル全100階層を攻略するのと、ホープスが魔王を討伐するのとどっちが早いか競争するというのは?」

「地位を争ったり、名声を競い合ったりするより楽しそうですね。いいですよ! 乗りました!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

転生国主興国記

hinomoto
ファンタジー
四十歳回った独身で病気持ち、仕事なし。 そんな男も死んで第二の人生が始まる! 「記憶あるよね?」

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~

影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。 けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。 けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

処理中です...