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第60話 ブルックス・ゴル・フリードマンとアルフィ・ホープスの密会 3
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「勇者という者の存在について、お主はどう聞いておる?」
「勇者は、魔王を倒せる唯一の存在で、天与ランクはS+。あまりにも高すぎる天与ランクゆえに、ただ一人しか存在しない者といった程度です」
「そうじゃ。……勇者ルヴィア以前にも、最高位の天与S+――つまり勇者のクラスを授かった者がおった」
「まさか……」
急に痛ましげな表情に変わった目の前の8歳児を見て、フリードマンは微笑んだ。
(……優しい……優しすぎるくらいじゃな……)
先程までは、敵かどうか判断するかのような厳しい視線だったのに、今は子を失った親を気遣うような視線に変化している。
「昔の話だ。遠いな……」
「……えぇ」
「……一人娘は、やはりルヴィアと同じく10歳で戦場に立った。そして当然のように亡くなった。当時のワシは、宮廷魔術師としての仕事もあったし、教授になったばかりでたくさんの教え子を導いておる最中だった……いや、言い訳じゃな。老人の昔話は、言い訳が増えるから長くなるんじゃ。……簡潔に言おう。ワシは、世間のことをよぉく知ってる気でいた、愚かもんじゃよ」
机の上で手を組み、天井を見上げる。
「確かに、当時からワシは優秀であった。研究者と王宮にいる貴族との生活を両立させていた。神代言語学に関していえば最先端を走り、王宮にいるため教授達の中では抜きんでた広い視野と豊富な情報を持っておった。各国の情勢や魔王軍の動向とかな」
じゃが、とブルックス・ゴル・フリードマンは天井から幼い少年に視線を戻す。
「目の前にいる娘のことは見ていなかった。……ワシが、深く娘を愛し、妻を愛していたと知ったのは、娘が戦場で倒れて帰らぬ人となり、それを知った妻が首を吊っているのを見た晩が初めてだった。……目の前にあるものさえ見えぬ愚か者に相応しい結末だった。……それからワシは死に場所を探した。……それがバベルじゃ」
「まさか、『バベル第20階層踏破者』のあなたがバベルに挑んだ理由って……」
「そうじゃ。死ぬつもりじゃったんじゃよ。……だいたい、おかしいと思わなんだか? 王国が精鋭を集めても調査が困難な場所に、たった1人で挑むなぞ、ただの頭のおかしな変人じゃよ」
フリードマンの軽い笑い声だけが研究室に響く。
アルフィ・ホープスは、何か言おうと口を開きかけたが、口を閉じた。続きを促すような視線を送ってきたのでフリードマンは話を続けた。
「……あとは知っての通りじゃ。ワシは、文字通り死ぬ気で挑み、生還し、また死ぬ気で挑み、そんな生活を繰り返した。……気づけば、10年くらい経っとった」
「どうして、生きようと思ったんですか?」
「いい質問じゃな。なぜワシがもう死ぬつもりがないとわかった?」
「そんなの目を見ればわかります」
「くくっ。……ミザエル並みじゃな。お主も相当変人じゃ……」
「まぁ、そうですよ。僕、さっき言いかけたんですけど、魔王討伐を目指してるんです。フリードマン様よりは常識的なつもりですから『たった1人で』って条件をつけるつもりはないです」
「それは、また……なんとも……」
驚かせるつもりが、驚かされてしまった。
(これは……いかんのう……)
頭をかく。
自分が目の前の8歳児を幼い少年と見られなくなったことを悟る。
「……ワシのことは、フリードマンさんでいい」
「いいんですかっ!? 確か、ティエラ姉ちゃんでも『フリードマン様』って呼んでましたよね? ……それに、国内外で凄い名声が高いらしいし……」
「じゃから、公式の場などでは、様付けにしてもらおう。そのほうがお互い面倒が少ない。……そうじゃろ?」
クククという老人の笑い声と、アハハという8歳児の笑い声が重なる。
「ワシはお主をホープスと呼ぼう」
「ホープス……」
(聡いこの子は、ティエラのことはファーストネームで呼ぶのに、ホープスと呼ぶ意味に気づいたらしいな……)
「つまり、対等だと?」
「お互い難題に挑む者同士じゃ。どうじゃ? ワシがバベル全100階層を攻略するのと、ホープスが魔王を討伐するのとどっちが早いか競争するというのは?」
「地位を争ったり、名声を競い合ったりするより楽しそうですね。いいですよ! 乗りました!」
「勇者は、魔王を倒せる唯一の存在で、天与ランクはS+。あまりにも高すぎる天与ランクゆえに、ただ一人しか存在しない者といった程度です」
「そうじゃ。……勇者ルヴィア以前にも、最高位の天与S+――つまり勇者のクラスを授かった者がおった」
「まさか……」
急に痛ましげな表情に変わった目の前の8歳児を見て、フリードマンは微笑んだ。
(……優しい……優しすぎるくらいじゃな……)
先程までは、敵かどうか判断するかのような厳しい視線だったのに、今は子を失った親を気遣うような視線に変化している。
「昔の話だ。遠いな……」
「……えぇ」
「……一人娘は、やはりルヴィアと同じく10歳で戦場に立った。そして当然のように亡くなった。当時のワシは、宮廷魔術師としての仕事もあったし、教授になったばかりでたくさんの教え子を導いておる最中だった……いや、言い訳じゃな。老人の昔話は、言い訳が増えるから長くなるんじゃ。……簡潔に言おう。ワシは、世間のことをよぉく知ってる気でいた、愚かもんじゃよ」
机の上で手を組み、天井を見上げる。
「確かに、当時からワシは優秀であった。研究者と王宮にいる貴族との生活を両立させていた。神代言語学に関していえば最先端を走り、王宮にいるため教授達の中では抜きんでた広い視野と豊富な情報を持っておった。各国の情勢や魔王軍の動向とかな」
じゃが、とブルックス・ゴル・フリードマンは天井から幼い少年に視線を戻す。
「目の前にいる娘のことは見ていなかった。……ワシが、深く娘を愛し、妻を愛していたと知ったのは、娘が戦場で倒れて帰らぬ人となり、それを知った妻が首を吊っているのを見た晩が初めてだった。……目の前にあるものさえ見えぬ愚か者に相応しい結末だった。……それからワシは死に場所を探した。……それがバベルじゃ」
「まさか、『バベル第20階層踏破者』のあなたがバベルに挑んだ理由って……」
「そうじゃ。死ぬつもりじゃったんじゃよ。……だいたい、おかしいと思わなんだか? 王国が精鋭を集めても調査が困難な場所に、たった1人で挑むなぞ、ただの頭のおかしな変人じゃよ」
フリードマンの軽い笑い声だけが研究室に響く。
アルフィ・ホープスは、何か言おうと口を開きかけたが、口を閉じた。続きを促すような視線を送ってきたのでフリードマンは話を続けた。
「……あとは知っての通りじゃ。ワシは、文字通り死ぬ気で挑み、生還し、また死ぬ気で挑み、そんな生活を繰り返した。……気づけば、10年くらい経っとった」
「どうして、生きようと思ったんですか?」
「いい質問じゃな。なぜワシがもう死ぬつもりがないとわかった?」
「そんなの目を見ればわかります」
「くくっ。……ミザエル並みじゃな。お主も相当変人じゃ……」
「まぁ、そうですよ。僕、さっき言いかけたんですけど、魔王討伐を目指してるんです。フリードマン様よりは常識的なつもりですから『たった1人で』って条件をつけるつもりはないです」
「それは、また……なんとも……」
驚かせるつもりが、驚かされてしまった。
(これは……いかんのう……)
頭をかく。
自分が目の前の8歳児を幼い少年と見られなくなったことを悟る。
「……ワシのことは、フリードマンさんでいい」
「いいんですかっ!? 確か、ティエラ姉ちゃんでも『フリードマン様』って呼んでましたよね? ……それに、国内外で凄い名声が高いらしいし……」
「じゃから、公式の場などでは、様付けにしてもらおう。そのほうがお互い面倒が少ない。……そうじゃろ?」
クククという老人の笑い声と、アハハという8歳児の笑い声が重なる。
「ワシはお主をホープスと呼ぼう」
「ホープス……」
(聡いこの子は、ティエラのことはファーストネームで呼ぶのに、ホープスと呼ぶ意味に気づいたらしいな……)
「つまり、対等だと?」
「お互い難題に挑む者同士じゃ。どうじゃ? ワシがバベル全100階層を攻略するのと、ホープスが魔王を討伐するのとどっちが早いか競争するというのは?」
「地位を争ったり、名声を競い合ったりするより楽しそうですね。いいですよ! 乗りました!」
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