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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
新米たち 5
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宿の湯は、男湯、女湯、家族風呂、混浴に分かれていた。
「おい。混浴があるぞ。エーデ」
「何か言ったかしら……?」
さんざんイヌガミに揶揄されて気が立っていたエーデの目は、鋭い。そんな視線にさらされた武道家のヤンは「いや何も」と即座に答えて率先して、男湯の暖簾をくぐった。宗教都市ロウでも大衆浴場というものは広まりつつある。まだまだ王国では珍しいが、宗教都市ロウで冒険者資格を取得した三人にとっては、勝手知ったる施設……のはずだった。
「で、でけえ……」
「マジかよ……」
男二人。ちゃちゃっと脱衣所で脱いで、前も隠さず、男湯を見回す。
広々としている……というよりも、なんかの軍事施設とか、船のドックとか連想しそうになる広さだった。
「いったいどうやってこんなに広げたんだ? めちゃくちゃ時間かかるだろ……」
「それよりあの岩だよ、岩……てか、山?」
エーデが消えた女湯の方向――つまり男湯と女湯の境には、なぜか山があった。切り立った崖である。比喩ではなく。
「すげえな、ここで覗きとかできる奴がいたら、高位冒険者だろうな」
「いや、そんな奴いたら人間じゃねえよ」
同じ頃。女湯に入ったエーデは、褐色の美しい少女に出会って、驚いていた。
銀髪に薄い胸。すらりとした肢体には傷一つない。
いったい、なんの種族かわからなかった。
(日焼けしたエルフかな……?)
尖った耳に気づき、肌の色と合わせてダークエルフかと思うものの、小さな胸から見て、ダークエルフらしくないと思い直す。
「……こんにちは」
とりあえずエーデは声をかけた。
しばらくはこの山岳都市ヘブンを拠点にし、冒険者活動を続けるつもりなのだ。すごくリラックスした様子で、この「しのびゆ」に馴染んでいる相手は、おそらく長くこの都市に住んでいる者なのだろう。
「ん?」
あごの辺りまで湯に使っていた少女は、ゆっくりと全身を浮上させた。
やはり胸は小さい。
湯の屈折によって、小さく見えていたという仮説は消滅した。
「……ん?」
エーデの視線を追い、自分の胸が見られていることに気づいたらしく、尖った声で尋ねられた。
「何?」
「あ、う……」
エーデとしては不躾な真似をした自覚があったため、とっさに返事できない。
「ふふふ……冗談よ」
先程までの殺気立った気配が鳴りを潜め、褐色の少女は笑った。
「いやあ……私も丸くなったもんだわあ、うんうん」
なぜか満足そうに一人頷いている。
「昔は、これが原因で村を飛び出したようなもんだったけど」
ぺちぺちと薄い胸を叩いていた少女は、エーデを見て微笑んだ。
「おい。混浴があるぞ。エーデ」
「何か言ったかしら……?」
さんざんイヌガミに揶揄されて気が立っていたエーデの目は、鋭い。そんな視線にさらされた武道家のヤンは「いや何も」と即座に答えて率先して、男湯の暖簾をくぐった。宗教都市ロウでも大衆浴場というものは広まりつつある。まだまだ王国では珍しいが、宗教都市ロウで冒険者資格を取得した三人にとっては、勝手知ったる施設……のはずだった。
「で、でけえ……」
「マジかよ……」
男二人。ちゃちゃっと脱衣所で脱いで、前も隠さず、男湯を見回す。
広々としている……というよりも、なんかの軍事施設とか、船のドックとか連想しそうになる広さだった。
「いったいどうやってこんなに広げたんだ? めちゃくちゃ時間かかるだろ……」
「それよりあの岩だよ、岩……てか、山?」
エーデが消えた女湯の方向――つまり男湯と女湯の境には、なぜか山があった。切り立った崖である。比喩ではなく。
「すげえな、ここで覗きとかできる奴がいたら、高位冒険者だろうな」
「いや、そんな奴いたら人間じゃねえよ」
同じ頃。女湯に入ったエーデは、褐色の美しい少女に出会って、驚いていた。
銀髪に薄い胸。すらりとした肢体には傷一つない。
いったい、なんの種族かわからなかった。
(日焼けしたエルフかな……?)
尖った耳に気づき、肌の色と合わせてダークエルフかと思うものの、小さな胸から見て、ダークエルフらしくないと思い直す。
「……こんにちは」
とりあえずエーデは声をかけた。
しばらくはこの山岳都市ヘブンを拠点にし、冒険者活動を続けるつもりなのだ。すごくリラックスした様子で、この「しのびゆ」に馴染んでいる相手は、おそらく長くこの都市に住んでいる者なのだろう。
「ん?」
あごの辺りまで湯に使っていた少女は、ゆっくりと全身を浮上させた。
やはり胸は小さい。
湯の屈折によって、小さく見えていたという仮説は消滅した。
「……ん?」
エーデの視線を追い、自分の胸が見られていることに気づいたらしく、尖った声で尋ねられた。
「何?」
「あ、う……」
エーデとしては不躾な真似をした自覚があったため、とっさに返事できない。
「ふふふ……冗談よ」
先程までの殺気立った気配が鳴りを潜め、褐色の少女は笑った。
「いやあ……私も丸くなったもんだわあ、うんうん」
なぜか満足そうに一人頷いている。
「昔は、これが原因で村を飛び出したようなもんだったけど」
ぺちぺちと薄い胸を叩いていた少女は、エーデを見て微笑んだ。
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