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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

新米たち 4

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「おう、働いているでありますか、青いの?」

「くっ」と拳を握った長い三つ編みをした妙齢の女が、悔しそうにイヌガミを見つめている。その手には箒が握られていて、この温泉宿「しのびゆ」の使用人のようだった。

「何度言ったらわかるの!? 私の名はセーレアだっつってんでしょ! 馬鹿犬!」

「我は木っ端な使用人ごときの名は覚えないであります!」

「覚えてなさいよ~! さっさと借金を返したら、こんな仕事辞めてやるんだから!」

 セーレアと名乗る女は、なぜか借金をして、ここで働かされているらしい。

「勝手に賭場など開いて、若様の逆鱗に触れたあげく、負けまくって借金地獄に落ちるとはダサいのであります!」

「くっ……その変な顔のあんたに言われたくないわよ! いつもベロ出しててダサいのはあんたの方よ!」

 どうやら「犬猿の仲のようだ」とラックは思ったが、口には出さない。犬がイヌガミなら、目の前の女が猿ということになってしまう。この手の青い髪の女は、意外と面倒くさいというのがラックの持論だった。
 もちろんその持論を抱くきっかけとなったのは、隣にいる幼馴染み、癒し手になりたてのエーデのせいだった。

「イヌガミさん……あの……」

 ラックは恐る恐る割って入る。

「おい、青いの。客なのである!」

「客って……」

 セーレアの瞳が、ボロボロになっている冒険者風の三人にとまる。

「そっちの青い髪の子……たぶん癒し手よね」

「は、はい。そうです」

「だったらその子に癒やしてもらえば……」

「無理なのであります。見ての通り、初心者も初心者、大方魔力切れで、戦士のガキの顔の傷さえ治してやる余裕がないのであります! その上、腹ペコで、臭いのであります!」

 またもイヌガミの「臭い」発言に、エーデを顔を真っ赤にした。
 さすがに今度はローブの臭いを人前で確かめるなどという失態はしない。

「はぁ……いいわよ。こっち来なさい。ほら! 何してるの、三人ともよ!」

「あ……いや……俺ら……」

 言いよどみ、一歩も動かない彼ら。
 その中の一人、戦士風のラックが代表して口を開く。
 どうやら三人のリーダーらしい。

「見ての通り無一文みたいなもんで、癒してもらっても金を払えないし……」

「わかってるわよ、そんなの」

 表情一つ変えずに、手招きする動作を続けるセーレア。
 それを見て、驚いた顔の三人は顔を見合わせた。

「え? あの……」

「え、あの……とか多すぎ! アンタはフウマか!」

 「いや、最近のアイツはそうでもないか……」などと三人の初心者冒険者たちにはよくわからないことをぶつぶつと癒し手らしき女は呟いた。

「ほらほら……」

 三人が近寄ると、セーレアは無造作に癒やしの力を使う。
 あまりにもあっさりと三人まとめて傷が癒えたので、驚く三人組。

「うわ……凄っ」

「マジか」

「……えぇーっ!」

 真っ先に声を上げたのは、同じ癒やしの力を扱えるエーデだった。彼女が最もセーレアの凄さを思い知った。

「こいつらを温泉につけるであります! 臭いのであります」

 驚愕から羞恥に変わったエーデたちは、イヌガミの勧めで、「しのびゆ」に入っていくことになった。
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