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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

リノの存在

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 リノは上手く説明できない。
 けれど、自分が不和を招く元になる可能性があるということだけはよく理解していた。だからこそ、流浪の身となっていたのだ。
 祭り上げられ、魔族領の戦力を糾合し、人間領へと戦争を仕掛けることさえも可能だろう。
 人が「勇者」を祭り上げるように、「魔王」もまた祭り上げられる存在なのだ。

 あのアレクサンダーが、ああいう人物であるにも関わらず、様々な大組織が手を貸したように、リノが年端のいかない子供の姿であろうとも、力を貸す者たちも数多く現れるだろう。

 これから力をつける魔族領。
 これまでの人間たちに辱められ、貶められた怒りと憎悪。

 今は笑い合う目の前の彼らが、杯ではなく、剣を、皿ではなく、盾を取る日が来ないとも限らない。

 ふいに、そう思ったのだ。

 そうして、出したリノの結論は、驚くほど単純であっさりとしたものだった。

(――去ろう)

 ただそれだけだ。

 ここに自分はいてはいけない。

 フウマやセーレア、オゥバァなどのそばにもいない方がいい。そんなふうに思ったのだ。

 リノは自分のその感情や考えを上手く説明することはできなかった。

 だから、見つめてくる真摯な二人の視線に、ただ薄く笑って、嘘を吐いた。

「いえ。なんでもありません」

 セーレアとオゥバァは明らかに納得がいっていない様子だったが、ただ顔を見合わせただけで、それ以上無理に聞こうとはしてこなかった。



 俺がイノシシを持って宴会場に戻ると、なぜか深刻そうな顔をしたセーレアとオゥバァが呼んできた。
 手招きされて、誰もいない通路についていく。

「ねえ、リノちゃんの様子が……」

 俺は二人から、つい先程のリノとのやり取りを聞いた。

「なんだかさ……私がダークエルフの里を出る時の様子に似てて、それで心配で……」

「ふぅん」

 俺は頷いた。

「たぶん、そのオゥバァの勘当たってるよ。さすがオゥバァとセーレアだな。リノの様子がおかしいことに気づくだけじゃなくて、どういう行動に出るか予想できるなんて」

「はぁっ!? なんで、アンタは余裕なのよ!」

 心配そうな顔をしていたセーレアが、逆ギレしてきた。

「いや。リノの生い立ちというか、在り方を考えたら、この場にいない方がいいって思うのも当然かと思ってさ」

「そ……そりゃそうかもしれないけど……」

 セーレアは言いよどむ。
 リノが察したように、セーレアもこれからの力をつけていく魔族領にリノがいることの危険性を認識しているということだろう。
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