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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

とりとめのない薄闇のような不安

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 夜。自宅である村長宅の寝室の敷布団の上、俺は仰向けに寝たまま手をまっすぐに天井に伸ばした。
 暗視スキルを持っていても、暗闇は昼間より暗い。指先の辺りは闇に沈んだように見え、ぼやけて感じられた。

「あれで……よかったのかな?」

 眠れない。
 昼間は皆の手前、ある程度自信満々に今後の方針を語った。
 リザードマンたちとの水田開発。稲作によって米の収穫量を増やし、余剰分をドワーフに提供する酒とする。ドワーフの技術力、リザードマンや魔族の労働力。その上、ハイエルフの助力も少なからず期待してもいいだろうし、シノビノサト村には「ちぃと」という特別な力を持っていた曽祖父の遺産とでもいうべき「知識」もある。

 それでも……考えれば考えるほど不安になるのだ。

(条件は……いい)

 たぶん村を出る前に想定していた以上だろう。
 もちろん、あの天雷の塔もどきを破壊しないという結論は大きく違う。それでも、魔族領の者たちは、人間領で暮らす人間と他種族のようにいがみ合うような関係性ではなさそうだというのは大きい。

 湿地帯が広々とした水田に変わり、一面の緑に変わるイメージが湧く。それも鮮明に。
 楽しそうに酒を酌み交わすドワーフたちの姿だって想像できる。日本酒とドワーフの火酒を飲み比べる彼らの姿が。
 魔族やハイエルフやシノビノサト村の住人の姿だって…………。

 でも。
 不安なのだ。

(ジッチャンもこんな気持ちだったのかな……?)

 指導者という立ち場に就いたゆえの孤独。

(リノに相談しようか?)

 なんとも情けない話だが、こんな話をできそうな相手が他にいない。
 オゥバァは、たぶん茶化さず静かに聞いてくれるが、一時間話しても「ふうぅん……」というなんともいえない感想だけ残して去っていきそうな気がする。
 セーレアはたぶん茶化す。

 村人や俺が移住せた者たちは、「あなたの判断に従います」と話も聞かず言いそうだった。

(いや。ちゃんと今後の話もしたから、話も聞かず、というわけではないか……。昼間の話で問題ないと判断したと言われたら、俺が反論することは何もない)

 俺自身が提案したことなのだから。

 こんなふうにぐちぐちと悩んでいると、いったい自分が何を悩んでいるのかさえわからなくなった。

 なぜか襖の向こうに小さな気配がした。
 一瞬リノかと思ったが、どうやらイヌガミらしい。

「イヌガミか?」

「はっ! その通りであります!」

 イヌガミが前足で器用に襖を開けて入ってきた。




◇◇◇あとがき◇◇◇

いつも『最難関ダンジョン』をお読みくださり、ありがとうございます。

この度、ガンガンONLINE様の「テキストネーム限定! マンガ原作者オーディション」にて準グランプリを賜ることができました。

寸評に「神隠し」や「妖怪」などの単語があることからお気づきのとおり、「和」のテイストが感じられる異世界ファンタジーです。どうやら私は「シノビ」とか「妖怪」とか「和」の要素を取り入れた異世界ファンタジーが好きなようです。

準グランプリには「読切掲載権」があります。『最難関ダンジョン』が好きな方には、特に楽しんでいただける漫画になるのではないかな、と考えております。

これからもよろしくお願いします。
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