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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
不完全な問い
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「ただ、それは理性的とはいえないですよね」俺は自嘲気味につぶやいた。「もっとちゃんと考えないと……」
「『真剣に考えて』と言いましたが、そういうふうに考える必要はありませんよ」
ハイエルフは左手の人差し指を一本立てた。
そして、右手の人差し指を立てて、近づけていく。
「もし残ったのが、その悪い人間と、あなた以外の種族の者なら、害される可能性さえあります」
「いくらなんでも、それは低い可能性なのでは?」
筏の上で、食料もない。気力だって湧かないだろうし、喧嘩など非効率的なことをするとは思えない。
「確かに確率は低いですが『理性を黙らせる』だけの理屈になるのではないですか?」
ハイエルフが何を言いたいのかわかった。
心情的にはそんな人間に食料を渡したくない。でもそれは公平じゃない。そう悩むなら、もっともらしい理屈をつければいいじゃないかと言っているのだ。
それは悪魔の囁きのようにも思えたが、どこか正しいようにも感じられた。
悩んだ俺は、別の回答を模索した。
「じゃあ、俺と人間を除く三種族で食料を分け――いや、それだと昼間で二日間食べていない魔族が確実に死にますね」
「いいえ。その条件だとリザードマンも確実に死にます」
「え? なんでですか?」
「実はリザードマンは、他の四者とは比べものにならないほど大きな体をしていたのです。そして、当然ながらたくさんの食料を食べないと肉体を維持できないのです」
「つまり、一人分と言いつつも、そのリザードマンにとっては物足りない分量ってことですか」
「そういうことです」
俺は何度目かになる注釈に、溜息を吐いた。
「……そんなの最初に言ってくれないとわからないじゃないですか」
やや声を荒げてしまったのも仕方ないだろう。
真剣に答えろ、と言いつつも、質問が不完全なのだ。条件が違えば当然結論が変わる。一番最初に、乗っている人間は悪い犯罪者、リザードマンは大柄、魔族は二日間食べていないなどと知っていれば、結論も変わってくる。
「だからこそ、質問することは大切なのです」
「そりゃそうですよ」当たり前のセリフに反射的に返した後、俺は気づいた。「――これってそういうことですか?」
やっとハイエルフがなんのために話し合いを長々と続けているかわかりかけてきた。
「『真剣に考えて』と言いましたが、そういうふうに考える必要はありませんよ」
ハイエルフは左手の人差し指を一本立てた。
そして、右手の人差し指を立てて、近づけていく。
「もし残ったのが、その悪い人間と、あなた以外の種族の者なら、害される可能性さえあります」
「いくらなんでも、それは低い可能性なのでは?」
筏の上で、食料もない。気力だって湧かないだろうし、喧嘩など非効率的なことをするとは思えない。
「確かに確率は低いですが『理性を黙らせる』だけの理屈になるのではないですか?」
ハイエルフが何を言いたいのかわかった。
心情的にはそんな人間に食料を渡したくない。でもそれは公平じゃない。そう悩むなら、もっともらしい理屈をつければいいじゃないかと言っているのだ。
それは悪魔の囁きのようにも思えたが、どこか正しいようにも感じられた。
悩んだ俺は、別の回答を模索した。
「じゃあ、俺と人間を除く三種族で食料を分け――いや、それだと昼間で二日間食べていない魔族が確実に死にますね」
「いいえ。その条件だとリザードマンも確実に死にます」
「え? なんでですか?」
「実はリザードマンは、他の四者とは比べものにならないほど大きな体をしていたのです。そして、当然ながらたくさんの食料を食べないと肉体を維持できないのです」
「つまり、一人分と言いつつも、そのリザードマンにとっては物足りない分量ってことですか」
「そういうことです」
俺は何度目かになる注釈に、溜息を吐いた。
「……そんなの最初に言ってくれないとわからないじゃないですか」
やや声を荒げてしまったのも仕方ないだろう。
真剣に答えろ、と言いつつも、質問が不完全なのだ。条件が違えば当然結論が変わる。一番最初に、乗っている人間は悪い犯罪者、リザードマンは大柄、魔族は二日間食べていないなどと知っていれば、結論も変わってくる。
「だからこそ、質問することは大切なのです」
「そりゃそうですよ」当たり前のセリフに反射的に返した後、俺は気づいた。「――これってそういうことですか?」
やっとハイエルフがなんのために話し合いを長々と続けているかわかりかけてきた。
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