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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
ハイエルフの戸惑い
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「その通りです。食料はあなたの持ち物でした」
ハイエルフからの予想通りの回答に、俺は「なるほど」と軽く頷いた。
「じゃあ、やっぱり結論は変わりませんよ。食料を人数分に分けます」
「それでは、誰一人として助からないとしてもですか?」
「もし残りの一人分の食料を誰か一人が食べれば必ず助かるんですか?」
「助かる可能性は飛躍的に高まる、とだけお答えしましょう。少なくとも五等分してしまえば、海しか見えない状況では確実に全滅します」
(それはつまり――見殺しと変わらないってことか)
思考がやっと働き始める。
考えの起点を一個手に入れた気がした。
俺の最初に出した「五等分」という結論は、一見「平等」で「平和的」で「優しい答え」のような気がする。
けど、もし現実にそのような決断を下せば、それは自分を殺す自殺であり、残りの四人を殺す他殺であるともいえるかもしれないのだ。
少なくとも「一人は救える可能性」を手放すことになる。
悩み続けた俺は、ふとハイエルフが気になって顔を上げた。
視線が交わると、慈しむようにハイエルフは微笑んでいた。
なんとなく照れて下を向くと、椅子の上で丸くなって眠っているイヌガミが目に入る。イビキをかかずに眠っているのは、俺の思考の邪魔をしないためだろう。相変わらず器用な忍犬だ。
「じゃあ、一人分の食料を半分ずつにして、二人に食べさせるのは?」
「一人がすべて食べるよりは生き残る確率は低くなりますが、二人とも助かる可能性もあります」
「それって昼間のことなんですか?」
「え?」ハイエルフは初めて戸惑ったような声を上げた。「昼間?」
「はい。旅の途中で筏に乗ったんですが、筏の上では海からの照り返しの影響で、暑いし、喉が渇きやすくなるんです。もし昼間なら先程の『食料を半分ずつにする』というのは自殺行為かもしれません。逆に夜間なら、生き残れる確率も結構高い気がするんです。……そういえば、『食料』とだけ言ってますけど、飲み水とかどうなんですかね? あと海流とか」
きょとんとしたハイエルフは、やがて元の表情に戻った。
「そうですか……筏に乗るとそういうことがあるんですね」
ハイエルフからの予想通りの回答に、俺は「なるほど」と軽く頷いた。
「じゃあ、やっぱり結論は変わりませんよ。食料を人数分に分けます」
「それでは、誰一人として助からないとしてもですか?」
「もし残りの一人分の食料を誰か一人が食べれば必ず助かるんですか?」
「助かる可能性は飛躍的に高まる、とだけお答えしましょう。少なくとも五等分してしまえば、海しか見えない状況では確実に全滅します」
(それはつまり――見殺しと変わらないってことか)
思考がやっと働き始める。
考えの起点を一個手に入れた気がした。
俺の最初に出した「五等分」という結論は、一見「平等」で「平和的」で「優しい答え」のような気がする。
けど、もし現実にそのような決断を下せば、それは自分を殺す自殺であり、残りの四人を殺す他殺であるともいえるかもしれないのだ。
少なくとも「一人は救える可能性」を手放すことになる。
悩み続けた俺は、ふとハイエルフが気になって顔を上げた。
視線が交わると、慈しむようにハイエルフは微笑んでいた。
なんとなく照れて下を向くと、椅子の上で丸くなって眠っているイヌガミが目に入る。イビキをかかずに眠っているのは、俺の思考の邪魔をしないためだろう。相変わらず器用な忍犬だ。
「じゃあ、一人分の食料を半分ずつにして、二人に食べさせるのは?」
「一人がすべて食べるよりは生き残る確率は低くなりますが、二人とも助かる可能性もあります」
「それって昼間のことなんですか?」
「え?」ハイエルフは初めて戸惑ったような声を上げた。「昼間?」
「はい。旅の途中で筏に乗ったんですが、筏の上では海からの照り返しの影響で、暑いし、喉が渇きやすくなるんです。もし昼間なら先程の『食料を半分ずつにする』というのは自殺行為かもしれません。逆に夜間なら、生き残れる確率も結構高い気がするんです。……そういえば、『食料』とだけ言ってますけど、飲み水とかどうなんですかね? あと海流とか」
きょとんとしたハイエルフは、やがて元の表情に戻った。
「そうですか……筏に乗るとそういうことがあるんですね」
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