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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
筏の食料問題
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さっき席に戻ったばかりだというのに、俺はまた立とうかと思った。
あまりにもくだらない質問に俺が答えずにいると、ハイエルフはまた繰り返した。秀麗な顔も声の抑揚もまったく変わっていない。
「あなたの目の前には崖から落ちそうになっている二人の人間がいます。父親と母親です。どちらか一方だけしか助けられないとして、どちらを助けますか?」
「くだらない」
「それがあなたの返答ですか? つまり、『くだらない』とつぶやき、父親も母親も崖から落ちるのを見殺しにするということですか?」
「くだらないと言ったのはあんたの質問に対してだ。悪行がバレて煙に巻こうとしているのかもしれないが……」
俺はそれなりに人生経験を積んだ結果、悪事が露見したり証拠を掴まれたりしたからといって、誰もが素直に白状するわけじゃないと学んでいた。むしろ、高い地位にあり、長い間そこにしがみついていた者ほど見苦しく白を切り通そうとするのだ。
――殺気を放つ。
本当はハイエルフたちをどうこうするつもりはない。せいぜいもう二度と天候制御などができないように完膚なきまでに破壊し尽くすだけだ。
それでも、混じり気のない本物の殺気をぶつけられれば、動揺し、醜態をさらすだろう。相手にとって見れば、上位竜のあぎとにいるように感じられたはずだ。
さすがのハイエルフも顔色が変わった。色白の肌に冷や汗が浮かんでいる。
「――質問に答えたください」
それでも。
ハイエルフは言い切った。その胆力に俺は感心した。
「……その質問には答えられない」
「なぜ?」
「俺は父親も母親もいない。思い出と呼べるようなものもない」
「つまり、想像できないからわからない……選べないと?」
「まあ、そんな感じだ」
どうでもいい質問だったので適当に流す。
「では、質問を変えましょう。あなたは今、筏に乗っているとします。その筏には、あなた以外にも魔族、リザードマン、ドワーフ、人間が一人ずつ乗っています。陸地は見えず、食料は一人分しかありません。皆、お腹を空かせています。――食料を分配する権利はあなたにあります。さて、あなたはどうしますか?」
その質問を聞いた瞬間、ふと違和感を覚えた。
殺気を飛ばしたのは俺の方だったはずだ。
だが、ハイエルフの方からも殺気ではないが、真剣な気迫のようなものを感じる。
それに質問に出る種族は、魔族領に関係が深い者たちで、内容は食料問題。
(これは……何かあるのか?)
俺は、次第にハイエルフの凄みのようなものに引き込まれていった。
あまりにもくだらない質問に俺が答えずにいると、ハイエルフはまた繰り返した。秀麗な顔も声の抑揚もまったく変わっていない。
「あなたの目の前には崖から落ちそうになっている二人の人間がいます。父親と母親です。どちらか一方だけしか助けられないとして、どちらを助けますか?」
「くだらない」
「それがあなたの返答ですか? つまり、『くだらない』とつぶやき、父親も母親も崖から落ちるのを見殺しにするということですか?」
「くだらないと言ったのはあんたの質問に対してだ。悪行がバレて煙に巻こうとしているのかもしれないが……」
俺はそれなりに人生経験を積んだ結果、悪事が露見したり証拠を掴まれたりしたからといって、誰もが素直に白状するわけじゃないと学んでいた。むしろ、高い地位にあり、長い間そこにしがみついていた者ほど見苦しく白を切り通そうとするのだ。
――殺気を放つ。
本当はハイエルフたちをどうこうするつもりはない。せいぜいもう二度と天候制御などができないように完膚なきまでに破壊し尽くすだけだ。
それでも、混じり気のない本物の殺気をぶつけられれば、動揺し、醜態をさらすだろう。相手にとって見れば、上位竜のあぎとにいるように感じられたはずだ。
さすがのハイエルフも顔色が変わった。色白の肌に冷や汗が浮かんでいる。
「――質問に答えたください」
それでも。
ハイエルフは言い切った。その胆力に俺は感心した。
「……その質問には答えられない」
「なぜ?」
「俺は父親も母親もいない。思い出と呼べるようなものもない」
「つまり、想像できないからわからない……選べないと?」
「まあ、そんな感じだ」
どうでもいい質問だったので適当に流す。
「では、質問を変えましょう。あなたは今、筏に乗っているとします。その筏には、あなた以外にも魔族、リザードマン、ドワーフ、人間が一人ずつ乗っています。陸地は見えず、食料は一人分しかありません。皆、お腹を空かせています。――食料を分配する権利はあなたにあります。さて、あなたはどうしますか?」
その質問を聞いた瞬間、ふと違和感を覚えた。
殺気を飛ばしたのは俺の方だったはずだ。
だが、ハイエルフの方からも殺気ではないが、真剣な気迫のようなものを感じる。
それに質問に出る種族は、魔族領に関係が深い者たちで、内容は食料問題。
(これは……何かあるのか?)
俺は、次第にハイエルフの凄みのようなものに引き込まれていった。
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