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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
イヌガミの提案
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俺は、ドワーフの長老たちに、シノビノサト村と魔族領の交易の話をした。
「――先ほど皆さんに飲んでいただいたお酒ニホーシュも、たくさん卸すことができると思います」
ドワーフの長老たちは、話半分に聞いていた様子だったが、お酒の話になると目の色が変わった。
「ほう……それはどうしてじゃ?」
「ニホーシュの主な原料は米です。リザードマンたちの住む沼沢地は、良質な水田に改良することができそうなので、米の大量生産ができると思います。そうすれば、シノビノサト村などで消費しない分の米は、すべて酒に変えることもできます」
「なるほど。そして儂らは、その酒と引き換えに、稲を作るための道具を作ったり、労働力を貸したりするわけじゃな」
「そういうことです」
手応えはあった。
もともとこの話は、異常気象によって食料生産が上手くいかない魔族領にいる者にとって悪い話じゃない。
それでも、最終的な結論が「しばらく考えさせてほしい」というものになったのは、長老らしい対応だった。
俺とイヌガミは、ドワーフの会議室を出た。
ドワーフの住み処は、ダンジョンのようなむき出しの土や岩を、木や鉄などで補強したシンプルなものだった。
天然の洞窟だけでなく、拡張したところも結構ありそうだ。
「どう思う、イヌガミ?」
俺は足元を歩く忍犬に尋ねた。
交易の話は、リザードマンたちは乗り気で、魔族たちも乗ってくれるだろう。
しかし、ドワーフたちは今の生活に多少は余裕があるからか、あまり気が進まないように見えた。
今までと違う感じに、どうしていいか俺は迷っていた。
「上手い酒をごちそうすればいいと思うであります!」
食い気ばかりのイヌガミらしいセリフだった。
「いや、それは無理だろ……」
ニホーシュは確かに好評だったし、まだ残してある。この後、ハイエルフがいるという北部に移動し、彼らがいればプレゼントするためだ。
(……他にもまだシノビノサト村の特産品を持ってるから、ここでニホーシュを使い切ってもいいが……)
「でも、もう一回宴会をしても、さっきと同じ結論にならないか?」
「同じようにすれば、同じようになるのであります!」
「うん……まあ、そうだな……」
俺の生返事に、イヌガミが少し声を大きくした。
「ですから! 同じようにしなければいいのであります!」
「ん?」
イヌガミは口下手だ。
というか、基本的に他人に対して我関せずというタイプである。長い年月そう過ごしためか、説明がおそろしく下手だった。
「どういう意味だ?」
「違うようにすれば、違う結果になるのであります!」
イヌガミの言いたいことはわからなくもない。
「例えば、ニホーシュ以外の美味い酒を用意するとかだよな?」
「はっ! その通りであります!」
だが、酒を醸造したり、ドワーフすら知らない酒を手に入れたりするのは難易度が高すぎる。というか、今からでは時間がかかり過ぎて現実的ではないだろう。
「でも、ニホーシュしかないぞ?」
「温泉があるであります!」
「あっ! そういうことか!」
イヌガミの言う「同じようにしたら」というのは、何も酒についてだけではなかったのだ。
(そうか! 「場所」か!)
俺はイヌガミに礼を言って駆け出した。
「――先ほど皆さんに飲んでいただいたお酒ニホーシュも、たくさん卸すことができると思います」
ドワーフの長老たちは、話半分に聞いていた様子だったが、お酒の話になると目の色が変わった。
「ほう……それはどうしてじゃ?」
「ニホーシュの主な原料は米です。リザードマンたちの住む沼沢地は、良質な水田に改良することができそうなので、米の大量生産ができると思います。そうすれば、シノビノサト村などで消費しない分の米は、すべて酒に変えることもできます」
「なるほど。そして儂らは、その酒と引き換えに、稲を作るための道具を作ったり、労働力を貸したりするわけじゃな」
「そういうことです」
手応えはあった。
もともとこの話は、異常気象によって食料生産が上手くいかない魔族領にいる者にとって悪い話じゃない。
それでも、最終的な結論が「しばらく考えさせてほしい」というものになったのは、長老らしい対応だった。
俺とイヌガミは、ドワーフの会議室を出た。
ドワーフの住み処は、ダンジョンのようなむき出しの土や岩を、木や鉄などで補強したシンプルなものだった。
天然の洞窟だけでなく、拡張したところも結構ありそうだ。
「どう思う、イヌガミ?」
俺は足元を歩く忍犬に尋ねた。
交易の話は、リザードマンたちは乗り気で、魔族たちも乗ってくれるだろう。
しかし、ドワーフたちは今の生活に多少は余裕があるからか、あまり気が進まないように見えた。
今までと違う感じに、どうしていいか俺は迷っていた。
「上手い酒をごちそうすればいいと思うであります!」
食い気ばかりのイヌガミらしいセリフだった。
「いや、それは無理だろ……」
ニホーシュは確かに好評だったし、まだ残してある。この後、ハイエルフがいるという北部に移動し、彼らがいればプレゼントするためだ。
(……他にもまだシノビノサト村の特産品を持ってるから、ここでニホーシュを使い切ってもいいが……)
「でも、もう一回宴会をしても、さっきと同じ結論にならないか?」
「同じようにすれば、同じようになるのであります!」
「うん……まあ、そうだな……」
俺の生返事に、イヌガミが少し声を大きくした。
「ですから! 同じようにしなければいいのであります!」
「ん?」
イヌガミは口下手だ。
というか、基本的に他人に対して我関せずというタイプである。長い年月そう過ごしためか、説明がおそろしく下手だった。
「どういう意味だ?」
「違うようにすれば、違う結果になるのであります!」
イヌガミの言いたいことはわからなくもない。
「例えば、ニホーシュ以外の美味い酒を用意するとかだよな?」
「はっ! その通りであります!」
だが、酒を醸造したり、ドワーフすら知らない酒を手に入れたりするのは難易度が高すぎる。というか、今からでは時間がかかり過ぎて現実的ではないだろう。
「でも、ニホーシュしかないぞ?」
「温泉があるであります!」
「あっ! そういうことか!」
イヌガミの言う「同じようにしたら」というのは、何も酒についてだけではなかったのだ。
(そうか! 「場所」か!)
俺はイヌガミに礼を言って駆け出した。
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