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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

食べられなかった白身と黄身ではない卵

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 それなりに高所に移動した時。
 また「若様ー! 若様ー!」というイヌガミの呼び声が聞こえてきた。

「はいはい。今行くよ」

 ぞんざいに答えたのは、また天然の炭酸水のようなハズレを引かされるような予感がしたからだ。

「鳥の巣であります!」

 イヌガミが頭上を前足で差す。
 ここからでは、鳥の巣は見えないが、白い鳥が何十羽も飛び交っていることから巣があると予想できた。

「卵を食べるチャンスであります!」

「その発想はなかった」

 ただ眺めるだけだった俺は、イヌガミの発案に従って、崖を上って、巣へと辿り着いた。
 鳥たちは俺たちを見て、攻撃してきたりはしなかった。何羽か飛び立ったが、そのまま座り込んでいるものもいる。

「卵か……」

 確かに様々な料理のレパートリーに使える。
 近くの卵を握った瞬間、村で育てている鶏の卵よりも薄かったらしく、簡単に割れてしまった。

(中身がこぼれる……!)

 そう焦ったが、確かにこぼれそうになったが、中身は白身と黄身ではなく――。

「…………なあ、イヌガミ……これ……食べるか?」

 本当は割った俺が食べるべきなのかもしれないが……食べる気にはならない中身だった。
 ぷるぷるしたグロテスクな中身から顔をそらし、イヌガミに差し出す。

(卵として食べるタイミングが遅すぎたようだ……)

 一部の地域では、この段階の卵を食べるそうだが、俺には到底食べることは不可能だった。

「いただくであります!」

 イヌガミは獣らしく、躊躇なく食べた。

 ……ムシャ……コリコリ……。

 生卵を食べた時には絶対に出ない硬質な音が混じる。

「ごちそうさまでした若様! 歯応えがあって最高でした!」

 イヌガミが合掌した。
 俺も、手を合わせた。手を合わせる意味を今更ながら感じた。なんとなく卵イコール白身と黄身の食材と思っていた。だが、あれはもともとああいうものなのだ。村で定期的に手渡される養鶏場の卵とはまったく違ったので、衝撃を受けた。

 俺はあちこちの巣にある卵を見回した。

「……なるほど。こうしてよく見れば新しそうな卵もあれば、古そうな卵もあるな」

 たぶん白っぽい綺麗な卵が新しい卵だろう。先程の卵は改めて考えると結構汚れていた。

 また、俺とイヌガミはドワーフ捜索に戻った。
 それからしばらくして、前日では見つけられなかったドワーフを一人ついに見つけることができた。
 なぜかわからないが、彼らは高所に隠れるように住んでいるようだった。
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