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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
温泉!
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「ドワーフが見つからない……」
山脈と一口にいっても、その距離や面積は広大だ。
ドワーフを探し回るのは多少骨が折れるだろうが、それでも自分の視力と気配感知スキルならば、それほど時間はかからないだろうと思い込んでいた。
だが、日暮れに差し掛かろうとしているのに、ドワーフはまだ見つからないでいた。
「イヌガミ。ドワーフがどこにいそうかわからないか?」
「ドワーフの臭いを知っていれば追えるであります!」
自信たっぷりにイヌガミが答えた。
「そうだよなぁ……といっても、臭いなんてわからないし……」
最大の誤算は、ドワーフがわかりやすく村などを作っていなさそうなことだ。
ドワーフが山脈に住んでいるというのは割と有名な話で、村を作る程度の人数がいるのはほぼ間違いない。
しかし、いざ山脈に来てみれば獣道ばかりで、大勢が行き来したような道に出ることはない。ついでにいえば、看板の類もなかった。
これが人間領なら街道はあるし、町への道を示した看板も立ててあることが多い。
これだけ歩いて何もないということは、ドワーフは隠れ住んでいる可能性が高かった。
「……ん? なんだこの臭い?」
山や森などは様々な臭いがする。だが、今嗅いだ臭いは無視できないほど特徴的なものだった。
しかも、村で嗅いだことがあるような……。
「食べ物の匂いではないであります」
俺とイヌガミは臭いのする方向に歩き出した。
卵が腐ったような臭い。
これはもしや……。
「おお!」
池のような場所が、薄暗くなってもわかるほど湯気を立てていた。
「――温泉だあ!」
俺とイヌガミは、湯気を上げる池に駆け寄った。
俺は池に指をつけてみる。
間違いなく温泉だった。
「熱すぎるな……けど」
俺は近くを見回し、斜面を流れ落ちる滝に目をとめた。
「使えるな……」
体も服もギシギシとした感触があって気持ち悪い。海水に濡れるとこんなことになるなんて知らなかった。村でも川でよく泳いでいたのでその感覚でいたが、塩分の影響だろうが、予想外だった。
「温泉でありますな! 入りましょう!」
「ああ! そうしようイヌガミ!」
急ぐ旅だが、俺たちは使節のようなものだ。きちんと身だしなみを整えるべきだろう――などと言い訳をしつつ、温泉に入るために全力で頭を働かせる。
曾祖父や祖父も皆、温泉に目がなかったという。たぶん血なのだろう、温泉好きは。
「俺はまずこの温泉を岩で囲うから、イヌガミは滝の水がここに流れ込むようにしてくれ。あまり大量に流れ込まないようにしてくれよ」
「ははっ! 〈変化〉を許可してくださいますか?」
「もちろんだ」
イヌガミは上位竜に〈変化〉すると、前足の爪を一本立てて器用に、溝を掘っていった。イヌガミも村の温泉を知っている。あっちでは竹を半分に割って、そこを水が流れるようにしていた。そして傾斜をつけることで逆流することを防いでいた。
イヌガミはちゃんと温泉に近づくにつれて、徐々に溝が深くなるようにして、滝の冷たい水が温泉に流れ込むように調節していた。
俺の方も、岩を適当に持ち上げて、温泉の周りに並べるだけなので楽勝だった。
(お互い頭脳労働に向いてないなー……けど、肉体労働には向いてるな)
温泉が完成すると、俺は手早く服を脱いだ。
イヌガミは行儀良く岩場に座って、俺が入る準備を整えるまで待っていた。
「じゃ、入ろうか、イヌガミ!」
「ははっ! 旅の醍醐味ですな、若様!」
湯加減はイヌガミが確かめていたので大丈夫だろうと思っていたが、予想通りいい塩梅だった。
片足ずつ入ろうとしていたが、我慢できずにずぶりと浸かる。そのまま頭まで入ってごしごしと洗った。
海水のせいでずっと髪がずっと変な感じだったのだ。
ついでに岩場に脱いであった服も取って、お湯で洗う。
「湯船で服を洗ってもいいのでありますか?」
イヌガミにすごく常識的なことを言われてびっくりしつつ答えた。
「ここの温泉はいいんだ。どうせ俺たちしかいないからな」
「では、泳いでも?」
そうか。イヌガミは村の温泉で、泳いだりしちゃ駄目だって言われてたから、さっきの質問をしたのかも。
「いいよ」
イヌガミが犬かきを始めた。筏を押す時のような感じではなく、気持ちよさそうにゆっくりと泳いでいる。
「……二十人くらいは余裕で入れるな」
拡張工事をすれば、もっと入れるだろう。
「桶と脱衣所、衝立なんかあるともっと便利だな」
洗濯を終えた服を岩の上に置いた。
あとで木の枝にでも干そうかな。
ひと仕事終えた俺は、湯船に肩まで浸かりながら星空を見上げた。
「ふぅ……」
夜空に溶ける白いため息が、幻想的だった。
山脈と一口にいっても、その距離や面積は広大だ。
ドワーフを探し回るのは多少骨が折れるだろうが、それでも自分の視力と気配感知スキルならば、それほど時間はかからないだろうと思い込んでいた。
だが、日暮れに差し掛かろうとしているのに、ドワーフはまだ見つからないでいた。
「イヌガミ。ドワーフがどこにいそうかわからないか?」
「ドワーフの臭いを知っていれば追えるであります!」
自信たっぷりにイヌガミが答えた。
「そうだよなぁ……といっても、臭いなんてわからないし……」
最大の誤算は、ドワーフがわかりやすく村などを作っていなさそうなことだ。
ドワーフが山脈に住んでいるというのは割と有名な話で、村を作る程度の人数がいるのはほぼ間違いない。
しかし、いざ山脈に来てみれば獣道ばかりで、大勢が行き来したような道に出ることはない。ついでにいえば、看板の類もなかった。
これが人間領なら街道はあるし、町への道を示した看板も立ててあることが多い。
これだけ歩いて何もないということは、ドワーフは隠れ住んでいる可能性が高かった。
「……ん? なんだこの臭い?」
山や森などは様々な臭いがする。だが、今嗅いだ臭いは無視できないほど特徴的なものだった。
しかも、村で嗅いだことがあるような……。
「食べ物の匂いではないであります」
俺とイヌガミは臭いのする方向に歩き出した。
卵が腐ったような臭い。
これはもしや……。
「おお!」
池のような場所が、薄暗くなってもわかるほど湯気を立てていた。
「――温泉だあ!」
俺とイヌガミは、湯気を上げる池に駆け寄った。
俺は池に指をつけてみる。
間違いなく温泉だった。
「熱すぎるな……けど」
俺は近くを見回し、斜面を流れ落ちる滝に目をとめた。
「使えるな……」
体も服もギシギシとした感触があって気持ち悪い。海水に濡れるとこんなことになるなんて知らなかった。村でも川でよく泳いでいたのでその感覚でいたが、塩分の影響だろうが、予想外だった。
「温泉でありますな! 入りましょう!」
「ああ! そうしようイヌガミ!」
急ぐ旅だが、俺たちは使節のようなものだ。きちんと身だしなみを整えるべきだろう――などと言い訳をしつつ、温泉に入るために全力で頭を働かせる。
曾祖父や祖父も皆、温泉に目がなかったという。たぶん血なのだろう、温泉好きは。
「俺はまずこの温泉を岩で囲うから、イヌガミは滝の水がここに流れ込むようにしてくれ。あまり大量に流れ込まないようにしてくれよ」
「ははっ! 〈変化〉を許可してくださいますか?」
「もちろんだ」
イヌガミは上位竜に〈変化〉すると、前足の爪を一本立てて器用に、溝を掘っていった。イヌガミも村の温泉を知っている。あっちでは竹を半分に割って、そこを水が流れるようにしていた。そして傾斜をつけることで逆流することを防いでいた。
イヌガミはちゃんと温泉に近づくにつれて、徐々に溝が深くなるようにして、滝の冷たい水が温泉に流れ込むように調節していた。
俺の方も、岩を適当に持ち上げて、温泉の周りに並べるだけなので楽勝だった。
(お互い頭脳労働に向いてないなー……けど、肉体労働には向いてるな)
温泉が完成すると、俺は手早く服を脱いだ。
イヌガミは行儀良く岩場に座って、俺が入る準備を整えるまで待っていた。
「じゃ、入ろうか、イヌガミ!」
「ははっ! 旅の醍醐味ですな、若様!」
湯加減はイヌガミが確かめていたので大丈夫だろうと思っていたが、予想通りいい塩梅だった。
片足ずつ入ろうとしていたが、我慢できずにずぶりと浸かる。そのまま頭まで入ってごしごしと洗った。
海水のせいでずっと髪がずっと変な感じだったのだ。
ついでに岩場に脱いであった服も取って、お湯で洗う。
「湯船で服を洗ってもいいのでありますか?」
イヌガミにすごく常識的なことを言われてびっくりしつつ答えた。
「ここの温泉はいいんだ。どうせ俺たちしかいないからな」
「では、泳いでも?」
そうか。イヌガミは村の温泉で、泳いだりしちゃ駄目だって言われてたから、さっきの質問をしたのかも。
「いいよ」
イヌガミが犬かきを始めた。筏を押す時のような感じではなく、気持ちよさそうにゆっくりと泳いでいる。
「……二十人くらいは余裕で入れるな」
拡張工事をすれば、もっと入れるだろう。
「桶と脱衣所、衝立なんかあるともっと便利だな」
洗濯を終えた服を岩の上に置いた。
あとで木の枝にでも干そうかな。
ひと仕事終えた俺は、湯船に肩まで浸かりながら星空を見上げた。
「ふぅ……」
夜空に溶ける白いため息が、幻想的だった。
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