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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
リザードマンたちの食料事情
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「――つまり、こちらにいるリザードマン十一人で、全員なんですか?」
俺がリザードマンたちに「他に仲間はいるんですか」と尋ねると、鰐の皮を袈裟懸けにしているリザードマンが答えてくれたのだが、予想外の返答にまた問い返してしまった。
「はい、その通りです。全員です」
どうやら鰐の皮を袈裟懸けにしているリザードマンがこの集団のリーダーらしい。そういえば他の者たちは何も上半身に身につけていなかった。
ついさっきまで俺はリザードマンのことを「匹」でカウントしていた。「モンスターではない」と思っていても、「人と同じ」とまでは思っていなかったのだ。
だが、こうして綺麗な沢に足をつけて、岩に腰掛けて話していると、人間そのものに思えた。
彼らは当然だが、心があり、感情があるのだ。その上、理性的だった。
「俺はリザードマンについて詳しくないのですが……それって普通のことなんですか?」
脳裏に、四人家族で活動していた魔族が浮かんだ。だからこその質問だった。
「どういう意味でしょうか?」
「つまり、集落とか作って、数十人とか数百人とかで暮らすことはないのかと……」
俺の質問に、一緒に話を聞いていたリザードマンたちは俯いた。
どうやら事情があるらしい。
「わっかっさっまー!」
喜びの声を上げて、イヌガミが跳ねるように走って戻ってきた。
綺麗だった沢が、泥だらけのイヌガミが入ったことで濁る。
その口元には、一匹の魚がいた。
細長い体をくねくねとしている。
(魚くわえたまましゃべるとか器用な奴だな)
「魚を捕まえたであります!」
「「「「おおお!!」」」」
俺が反応するより早く、リザードマンたちが驚きの声を上げ、立ち上がった。
岩に立て掛けてあった槍を全員が握っていた。
それを見て、獲物を奪われると思ったらしいイヌガミが、沢から岩に上がり、俺の背後に隠れた。
戦おうとしないのは、口を開くと魚を落っことしてしまうからだろう。
「どこでその魚を!?」
リザードマンの質問にイヌガミは返事しなかったので、俺が代わりに尋ねた。すると「ここから結構離れた沼地であります!」と答えた。
それを聞いて、リザードマンたちはイヌガミの示した方向に一斉に走り出そうとした。
だが、「これが最後の一匹であります」というイヌガミのセリフに、リザードマンたちの動きが止まった。
どうやら相当リザードマンは困窮しているらしい。
「その……不躾な質問かもしれませんが……食料がないんですか?」
「ええ。その通りです」
リザードマンたちはまた腰を下ろした。
ただその動きはのっそりとしており、どれほどイヌガミの持ってきた魚に期待していたか伝わってきた。
イヌガミに視線を向けると、魚を取られると直感したらしく、すぐさまどっかに走っていった。
俺はイヌガミに頼んであの魚をリザードマンたちにあげようと思ったのだが。
まあ、どっちにしろ一匹では足りないよな。
「……えっと、いくつかお聞きしたいんですが」
「はい。なんでも聞いてください。……どうやらこの辺りの沼沢地にはもう魚はいないようです。ずっと立ちっぱなしだったので、次の狩り場を探して移動するまで、ちょうど良い休憩になります。ハハハ……」
(リザードマンでも苦笑するんだ)
しゃべればしゃべるほどリザードマンが人間臭く見えてきた。見た目は二足歩行になったトカゲみたいなのに。
「ああ、そういえば……先ほどの質問ですが」
「ええ」
「我らリザードマンも集落を作ることはあったそうです」
「過去形……ですか」
「ええ。……もう長い間、我らは定住していません」
「理由はやはり……」
「そういうことです」
魚のいない沼沢地にリザードマンと一緒に目を向ける。
「そういえば、お名前を伺っても?」
俺は、鰐の皮を袈裟懸けにしているリザードマンに尋ねた。
「リーダーと呼ばれております」
「リーダー……」
オネエチャンとイモウトと名乗った魔族の少女が蘇る。
おそらくリザードマンたちもたった十一人。「おい、お前」とか「なあ、あんた」とかで事足りるのだろう。ただリーダーだけはリーダーと呼んだ方がわかりやすいから、便宜的にそうしているようだ。
(つまり、名前がないのか……)
食料がないだけでなく、名前もない。そして家や村もない。
(ないない尽くしだな……)
魔族領は過酷だと聞いていたが、遥かに想像を超えていた。
人間領とは比較にならない。
(ついでにいえば、魔族たちが人間領に侵攻してこない理由もわかったな)
そんな余力などどこにもないのだろう。
このままリザードマンにしろ、魔族にしろ、過酷な土地に放置するだけで、勝手に数を減らしていくことだろう。
(治癒神の五百年の計画、か――)
魔族を滅ぼすという発言は、本当に数百年後の現在、達成しそうになっているようだった。
俺がリザードマンたちに「他に仲間はいるんですか」と尋ねると、鰐の皮を袈裟懸けにしているリザードマンが答えてくれたのだが、予想外の返答にまた問い返してしまった。
「はい、その通りです。全員です」
どうやら鰐の皮を袈裟懸けにしているリザードマンがこの集団のリーダーらしい。そういえば他の者たちは何も上半身に身につけていなかった。
ついさっきまで俺はリザードマンのことを「匹」でカウントしていた。「モンスターではない」と思っていても、「人と同じ」とまでは思っていなかったのだ。
だが、こうして綺麗な沢に足をつけて、岩に腰掛けて話していると、人間そのものに思えた。
彼らは当然だが、心があり、感情があるのだ。その上、理性的だった。
「俺はリザードマンについて詳しくないのですが……それって普通のことなんですか?」
脳裏に、四人家族で活動していた魔族が浮かんだ。だからこその質問だった。
「どういう意味でしょうか?」
「つまり、集落とか作って、数十人とか数百人とかで暮らすことはないのかと……」
俺の質問に、一緒に話を聞いていたリザードマンたちは俯いた。
どうやら事情があるらしい。
「わっかっさっまー!」
喜びの声を上げて、イヌガミが跳ねるように走って戻ってきた。
綺麗だった沢が、泥だらけのイヌガミが入ったことで濁る。
その口元には、一匹の魚がいた。
細長い体をくねくねとしている。
(魚くわえたまましゃべるとか器用な奴だな)
「魚を捕まえたであります!」
「「「「おおお!!」」」」
俺が反応するより早く、リザードマンたちが驚きの声を上げ、立ち上がった。
岩に立て掛けてあった槍を全員が握っていた。
それを見て、獲物を奪われると思ったらしいイヌガミが、沢から岩に上がり、俺の背後に隠れた。
戦おうとしないのは、口を開くと魚を落っことしてしまうからだろう。
「どこでその魚を!?」
リザードマンの質問にイヌガミは返事しなかったので、俺が代わりに尋ねた。すると「ここから結構離れた沼地であります!」と答えた。
それを聞いて、リザードマンたちはイヌガミの示した方向に一斉に走り出そうとした。
だが、「これが最後の一匹であります」というイヌガミのセリフに、リザードマンたちの動きが止まった。
どうやら相当リザードマンは困窮しているらしい。
「その……不躾な質問かもしれませんが……食料がないんですか?」
「ええ。その通りです」
リザードマンたちはまた腰を下ろした。
ただその動きはのっそりとしており、どれほどイヌガミの持ってきた魚に期待していたか伝わってきた。
イヌガミに視線を向けると、魚を取られると直感したらしく、すぐさまどっかに走っていった。
俺はイヌガミに頼んであの魚をリザードマンたちにあげようと思ったのだが。
まあ、どっちにしろ一匹では足りないよな。
「……えっと、いくつかお聞きしたいんですが」
「はい。なんでも聞いてください。……どうやらこの辺りの沼沢地にはもう魚はいないようです。ずっと立ちっぱなしだったので、次の狩り場を探して移動するまで、ちょうど良い休憩になります。ハハハ……」
(リザードマンでも苦笑するんだ)
しゃべればしゃべるほどリザードマンが人間臭く見えてきた。見た目は二足歩行になったトカゲみたいなのに。
「ああ、そういえば……先ほどの質問ですが」
「ええ」
「我らリザードマンも集落を作ることはあったそうです」
「過去形……ですか」
「ええ。……もう長い間、我らは定住していません」
「理由はやはり……」
「そういうことです」
魚のいない沼沢地にリザードマンと一緒に目を向ける。
「そういえば、お名前を伺っても?」
俺は、鰐の皮を袈裟懸けにしているリザードマンに尋ねた。
「リーダーと呼ばれております」
「リーダー……」
オネエチャンとイモウトと名乗った魔族の少女が蘇る。
おそらくリザードマンたちもたった十一人。「おい、お前」とか「なあ、あんた」とかで事足りるのだろう。ただリーダーだけはリーダーと呼んだ方がわかりやすいから、便宜的にそうしているようだ。
(つまり、名前がないのか……)
食料がないだけでなく、名前もない。そして家や村もない。
(ないない尽くしだな……)
魔族領は過酷だと聞いていたが、遥かに想像を超えていた。
人間領とは比較にならない。
(ついでにいえば、魔族たちが人間領に侵攻してこない理由もわかったな)
そんな余力などどこにもないのだろう。
このままリザードマンにしろ、魔族にしろ、過酷な土地に放置するだけで、勝手に数を減らしていくことだろう。
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