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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

簡単な屋根づくり

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「まず、こうして切った木を、崖に立て掛けるように並べるんだ」

 俺がへし折った細い木々を、適当な崖に立て掛けるようにする。

「できる限り、間を空けないでね」

「うん」

「わかったー!」

 魔族の姉妹たちと一緒に、その作業を進めると、直角三角形の空間ができる。
 並べた細い木々を俺が手早く植物の蔦で縛った。バラバラになって倒れないように。

「あとは、草をこの屋根に敷き詰めて」

「屋根?」

「ただの木がたくさん立て掛けてあるだけー」

 そんなふうに言いながらも従ってくれる。
 やがて雨宿り程度なら十分できそうな空間ができた。

「なるほどであります! 斜面を雨水が流れ、草が水を弾いてくれるわけですな。それに十分な広さであります! さすが若様!」

 真っ先に中に入ったイヌガミはそんなことを言っている。
 とはいえ実際は、イヌガミくらいの大きさにとっては広いというだけで、大人だと立つのは難しい。

「あとは、草を適当な平べったい石に敷いて、座ればいいよ」

「ありがとうございます!」

「ありがとー!」

 魔族の姉妹のお礼に、俺は「どういたしまして」と答えて、天井を見上げた。

(話に聞いていただけだけど、上手くできてよかったな……)

 移住者の中にはいろいろな知識を持っている者がいる。
 中には、こうしたちょっとしたサバイバル技術を身につけている者もいたのだ。
 暖かい気候なので、服もそのうち乾くだろう。

「雨が降りそうなのに、洞穴や木の洞みたいなのが見つからなかったら、こうして作ればいいよ。大人がいればすぐ作れるだろうから」

「うん」

「うんー!」

 俺は雨が上がるのを待つ間に、とりあえず話を聞くことにした。

「俺はフウマ。こっちはイヌガミ」

「我は若様一の子分にして、最高の相棒であります!」

 子分にした覚えも、最高の相棒だと言ったこともないが。まあいいかとスルーする。

「私はオネエチャン!」

「私はね、イモウトー!」

「ん?」

 俺は首を傾げ、イヌガミを見る。
 イヌガミもキョトンとしている様子だ。

「それって名前なの?」

「名前?」

 姉の方に不思議そうにされてしまった。

「どうやら名前がないようでありますな」

 イヌガミはさっさと結論づけたが、俺は正直驚いた。

「名前がないと困らないのか?」

「パパとママとオネエチャンとイモウト」

 指を折りながら教えてくれる。

「なるほど……四人なら、確かに……」

 集落でも知ってたら教えてほしかったが知らないらしい。

「ちなみにパパとママは?」

「はぐれたー!」

「そうか……」

 いったいどうしたものかと悩んでいると、しばらくして大人の魔族の男女が、この三角屋根を傾けたような場所を不思議に思ったらしく、覗きに来た。

「パパ! ママ!」

「いたー!」

 魔族の姉妹が抱きついているので、おそらく捜していた両親なのだろう。
 肌の色は、結構姉妹と違う。
 魔族は大人になると、肌の色が変化しやすいのかもしれない。両親の方が、少し紫がかった肌をしていた。

「あなた方は?」

 魔族の男が、女と子供たちをかばうようにして、俺を見つめた。

「俺はフウマと申します」

 対人経験が少なかった頃と違い、今では村も大所帯だ。そんな村の村長をしているので、初対面の相手としゃべることも多少は慣れてきた。
 以前の俺なら、どもって、妙な不信感を抱かれていたかもしれない。

「我はイヌガミ! 若様の一の子分にして――」

「イヌガミ。それはもういいよ。……ところで、二三聞きたいことがあるんです。……俺たちは、自分たちの村の食料問題を解決するためにこちらに来たんです」

 まずは正直に話す。そのことが大事だと、村の運営中、少なくない失敗から学んだ。

「……食料」

 魔族の男がつぶやいた瞬間、姉妹がぐぅーとお腹を鳴らした。

「ここにはたくさんの食料……になるかもしれないものが、いくつもあります」

 男の言葉にイヌガミが反応する。

「若様! そういえば色とりどりのキノコがあって、美味しそうなのであります!」

 今すぐにでも走り出しそうなイヌガミの胴体を掴んで持ち上げる。

「ダメだ、イヌガミ。……キノコの見分けは、サバイバル知識があった移住者も難しいと言っていた。食用と毒のあるものと、似ている物が多いそうなんだ」

「そうなのでありますか! でも赤や黄色で美味しそうであります!」

「まずああいうカラフルなのは毒があることが多い。……けど、地味な見た目のキノコでも毒があったりする。舌先にのせて確認するって方法もあるけど、遅効性の毒もあるらしいんだ」

 シノビスキルに料理スキルがあればよかったのだが、そんなものはないしな。

 俺は、腹ペコ状態のイヌガミを押さえ込むのに精一杯ですぐには気づかなかったが、いつの間にか魔族の男の表情が少し和らいでいた。

「お詳しいんですね」

「ええ。まあ……」

「食料問題というのも本当のご様子ですね。……魔族領だけではないんですね、大変なのも」

 意外と親身になってくれているらしい。
 正直言えば、シノビノサト村が食料難に陥りつつあるだけで、他の村や町はそうでもない。大陸の南部は、適度に雨が降り、豊穣な大地が広がっているのだ。

(ほんと、なんでこんなに北部と南部で違うんだ?)

 まだ雨は続いている。
 今は小雨になっているが、時折、信じられないほど雨脚が強くなることもあった。

「我々も困っているんです。……食べられる物を判断することができず。……せっかくここまで来たのに……」

 どうやら魔族の家族は、ジャングルに来たのは初めてのようだった。

「一か八か、私が代表して食べてみようかと思っていたのですが……もし丸一日経っても大丈夫なようなら、家族たちにも食べさせるとか……」

「やめたほうがいいですよ! そんなの!」

 切羽詰まった様子の魔族の男を止める。

「先ほどのキノコの例なら、毒が潜伏する期間が一日以上というのも存在するという話です。……それにもっと簡単な方法があります。普通の動物が食べる物なら食べても大丈夫なそうです」

「……普通の……動物が……食べる物……?」

 魔族の男とその家族の視線がイヌガミに集まった。
 長話に飽きて俺にじゃれついてきていたイヌガミが「ん?」と首をかしげた。
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