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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
夜明けの空の下 4
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「…………あの……フウマさん? その……大丈夫ですか?」
心配するように、リリィが俺に声をかけてきた。
見ると、辺りにいたはずの難民たちは解散し、衛兵たちは都市長と共に移動を開始したところだった。
どうやら俺は結構長い間放心していたらしい。
(……たぶん娘に嫌われた父親ってこんな感じなんだろうな……)
「なあ、リリィ」
俺はいつになく真剣に悩んでいた。
「どうしてリノは怒ったんだろう?」
ハンカチをまた取り出したリリィは、汚れていない部分で俺の顔の血を拭った。
「……こんな姿のあなたを見て、心配しない友達なんていませんよ」
リリィの声のトーンがいつもと若干変わった。どうしてかはわからない。
「……そうか……そうだよな」
リノは、俺を心配して駆けつけて来てくれたのだ。
(なのに俺と来たら……)
リノを子供扱いして、頭を撫でてうやむやにしようとし、帰れと言ったようなものだ。
怒るのも無理はない。
「リノさんっていう方とは、どういう関係なんですか?」
「リノは……」
思わず詰まった。
……シノビノサト村の住人が適切だろうか?
もしアレクサンダーたちについて聞かれたのなら、俺は「元仲間」だと答える。
だが、リノについては、まだ俺の中ではっきりとした答えが出ていなかった。
とりあえず本心を語った。
「……なんとしても助けたい相手、かな?」
大切な人なんですね、という俯きがちなリリィの呟きは、爆音によって途切れた。
腹の底に響くような音は港から。そして連鎖するように爆音がさらに聞こえてくる。近くにいる者の鼓膜が破れそうなほどの大音量だ。
叫びが次々に上がり、一人の男の声が俺の耳朶を打った。
「船に積んだ大砲用の火薬が、どうやら引火したらしい!」
今まで火薬に火がついていなかったのは奇跡だろう。それとも火薬庫だけは、燃え移らないように魔法的に壁を強化したりしていたのだろうか。
どちらにせよ、リノが心配だ。
「リリィ、予定変更だ! ――俺は港に行く! リリィは今から伝える『天涯』と苔の化け物の詳細を冒険者ギルドに伝えてくれ! そしてなんとしても協力を取り付けて、難民たちに危害が及ばないようにしてほしい!」
「はい。任されました」
俺はリリィに『天涯』の情報を伝えた。
そしてすぐさま走り出そうとした俺の袖を、リリィが掴む。
振り向くと、リリィは俺に顔を寄せた。
あまりにも顔をまっすぐ近づけてくるので身構えてしまった。
「フウマさん――」
炎に揺れる青い瞳。そのあまりの真剣さに、俺は息を呑んで返事ができなかった。
「ちゃんとリノさんと仲直りしてください。……でないと、いろいろと私としても……その……困るので…………」
何がどうリリィに関わるのかわからず戸惑う。
(二人とも面識はないはずだよな?)
共通の知り合いは、せいぜい俺くらいだ。
俺は疑問を表に出さず頷いた。今はそれよりも爆発音の発生源に向かうべき。そしてリノを助け、オゥバァやセーレアと協力すべきだ。
騒動を起こしている連中の目的まではわからないが――
(――止める)
それだけは確実だった。俺は今度こそ駆け出した。
炎に照らされる人波に見えなくなるリリィの背中に、俺は一瞬だけ目を向けた。
(リリィも無事でいてくれよ……!)
心配するように、リリィが俺に声をかけてきた。
見ると、辺りにいたはずの難民たちは解散し、衛兵たちは都市長と共に移動を開始したところだった。
どうやら俺は結構長い間放心していたらしい。
(……たぶん娘に嫌われた父親ってこんな感じなんだろうな……)
「なあ、リリィ」
俺はいつになく真剣に悩んでいた。
「どうしてリノは怒ったんだろう?」
ハンカチをまた取り出したリリィは、汚れていない部分で俺の顔の血を拭った。
「……こんな姿のあなたを見て、心配しない友達なんていませんよ」
リリィの声のトーンがいつもと若干変わった。どうしてかはわからない。
「……そうか……そうだよな」
リノは、俺を心配して駆けつけて来てくれたのだ。
(なのに俺と来たら……)
リノを子供扱いして、頭を撫でてうやむやにしようとし、帰れと言ったようなものだ。
怒るのも無理はない。
「リノさんっていう方とは、どういう関係なんですか?」
「リノは……」
思わず詰まった。
……シノビノサト村の住人が適切だろうか?
もしアレクサンダーたちについて聞かれたのなら、俺は「元仲間」だと答える。
だが、リノについては、まだ俺の中ではっきりとした答えが出ていなかった。
とりあえず本心を語った。
「……なんとしても助けたい相手、かな?」
大切な人なんですね、という俯きがちなリリィの呟きは、爆音によって途切れた。
腹の底に響くような音は港から。そして連鎖するように爆音がさらに聞こえてくる。近くにいる者の鼓膜が破れそうなほどの大音量だ。
叫びが次々に上がり、一人の男の声が俺の耳朶を打った。
「船に積んだ大砲用の火薬が、どうやら引火したらしい!」
今まで火薬に火がついていなかったのは奇跡だろう。それとも火薬庫だけは、燃え移らないように魔法的に壁を強化したりしていたのだろうか。
どちらにせよ、リノが心配だ。
「リリィ、予定変更だ! ――俺は港に行く! リリィは今から伝える『天涯』と苔の化け物の詳細を冒険者ギルドに伝えてくれ! そしてなんとしても協力を取り付けて、難民たちに危害が及ばないようにしてほしい!」
「はい。任されました」
俺はリリィに『天涯』の情報を伝えた。
そしてすぐさま走り出そうとした俺の袖を、リリィが掴む。
振り向くと、リリィは俺に顔を寄せた。
あまりにも顔をまっすぐ近づけてくるので身構えてしまった。
「フウマさん――」
炎に揺れる青い瞳。そのあまりの真剣さに、俺は息を呑んで返事ができなかった。
「ちゃんとリノさんと仲直りしてください。……でないと、いろいろと私としても……その……困るので…………」
何がどうリリィに関わるのかわからず戸惑う。
(二人とも面識はないはずだよな?)
共通の知り合いは、せいぜい俺くらいだ。
俺は疑問を表に出さず頷いた。今はそれよりも爆発音の発生源に向かうべき。そしてリノを助け、オゥバァやセーレアと協力すべきだ。
騒動を起こしている連中の目的まではわからないが――
(――止める)
それだけは確実だった。俺は今度こそ駆け出した。
炎に照らされる人波に見えなくなるリリィの背中に、俺は一瞬だけ目を向けた。
(リリィも無事でいてくれよ……!)
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