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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
王国史情報室の介入
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深夜。
やっとラインハルトのテントが静まり返った。
(本気で『天涯』攻略をするつもりなのかな……)
どうにもラインハルトから受ける印象はちぐはぐだ。
偽勇者パーティーのリーダーは、深夜まで自分のパーティーメンバー総勢二十名にもなる連中を集めて、喧々囂々の議論をしていた。
その中で最も激しく「最難関ダンジョン『天涯』を攻略すべきだ!」と強硬に主張していたのは、ラインハルト自身だ。
(もしあれが演技なら……俺は人間不信になるぞ)
アイリーンに数年間騙され、リリィにも騙されかけ、あげくに今信じかけているラインハルトにまで騙されたら……本当にそうなりそうだ。
(……はぁ……まあ、仕方ないな……覚悟しておこう)
騙される覚悟を決めた俺は、ラインハルトのテントの入り口に手をかけた。
「――!」
意外なことに、こんな深夜になってラインハルトが外に出ようとしてきた。
こっちは〈潜伏〉を使用しているため、向こうは気づいていないが、さすがに鉢合わせはまずい。
(もし騒がれたら面倒だ)
万が一、あの黒ずくめの連中同様にラインハルトが形振り構わず行動したら、大騒ぎになりかねない。
この周囲には、寝静まっているとはいえ数百人もの難民たちがいるのだ。
俺は適当なテントの陰に隠れた。
テントを出たラインハルトは周囲をしばらく窺った。
歩いていくぞ……。
あっちは『天涯』の方だ。
やはりラインハルトが『天涯』の関係者というリリィの予想は当たっていたのだろうか。
いや、徐々にそれていく……。
結局、ラインハルトの目的地はどうやら難民キャンプからだいぶ離れたところにある支流だとわかった。
『天涯』の入り口を覆う滝に流れ込む支流がこの辺りにはいくつもあり、森が点在しているのだ。
(なんだ……? わざわざこんなところに……)
ラインハルトの背中を見つめる。
まず胸当てを外し、上着を脱ぎ、ズボンを脱いだ。
ラインハルトは剣を収めたままの剣帯をガチャンと投げ捨てた。地面に露出した岩にでも当たったらしく、鈍い音が夜の静寂の中響き渡った。
(……なんだ……)
ラインハルトは水浴びをしようとしたのだろう。
それはわかる。
(けど、これは……)
小さく聞こえてくるのは……すすり泣きか……。
おいおい。
俺は呆れ返って声をかけるのも忘れてそんな光景を見つめる。
夜。細い川面で、半身を濡らして泣く美形の若者は絵になったが、おおよそ勇者というイメージからかけ離れていた。
(あの喧々囂々とした議論……あれはヒステリックになっていただけか……)
それも仕方ないよな。
何気なく難民キャンプの方を振り向く。
難民の数はおよそ数百。おそらくこのペースなら近いうちに千人を超すだろう。
今のところ、勇者パーティー――実際は偽者だが――が攻略すると思っているので、暴動や無茶な行動など起こしていないが、なんらかの決壊が起こるのは時間の問題だ。
『天国』が見つからずしびれを切らして難民たちが退去して最難関ダンジョンに向かうという破滅的な状況か、さらに待つために食料を半ば無理やり水産都市エレフィンから奪い取るという展開か。
……どっちにしろ、あの濡れた細い肩にそれだけの重圧がかかっていることだろう。
戸惑っている間に、俺以外の者たちが動き出したのが気配でわかった。
ただ単に散歩……というわけではないだろう。
てか、歩き方がラインハルトよりよほど玄人だ。
(……しかも、気配によるとリリィもいるか)
宿でおとなしく待っていると言っていたのに……。
王国史情報室絡みなのは間違いないだろう。ケリはついたと思ったんだけどな。
「……ラインハルト」
俺は川面に向かって歩みを進め、話しかけた。
偽勇者の件は、もうこれで終わりだ。釘を刺すだけでも十分だろう。
おそらく放置しておいても、千人近くの難民の命の重みに近いうちに耐えられなくなるのは間違いない。
何らかの事情で『天涯』を本気で攻略したがっているようだが、そっちも俺が片付けるしな。
◇◇◇あとがき◇◇◇
一昨日、「最難関ダンジョン」2巻の原稿がやっと完成しました。
出荷日は9/20(金)です。
かなりギリギリまでかかりましたが、今月下旬に店頭に並び始める予定です。
これからは時間の許す限り、WEB版と新作2作を更新していこうと思っています。
新作2作は一年程前にファンタジー小説大賞に落選した時、「絶対にリベンジしよう!」と思って書いていた作品なのですが、……残念ながらアルファポリス様から書籍化した人は参加できないそうです。問い合わせて、つい先月知りました……。
まあ、それはそれとして、心残りにならないように投稿していきたいと思います。
書籍版、WEB版、新作共々よろしくお願いいたします!
やっとラインハルトのテントが静まり返った。
(本気で『天涯』攻略をするつもりなのかな……)
どうにもラインハルトから受ける印象はちぐはぐだ。
偽勇者パーティーのリーダーは、深夜まで自分のパーティーメンバー総勢二十名にもなる連中を集めて、喧々囂々の議論をしていた。
その中で最も激しく「最難関ダンジョン『天涯』を攻略すべきだ!」と強硬に主張していたのは、ラインハルト自身だ。
(もしあれが演技なら……俺は人間不信になるぞ)
アイリーンに数年間騙され、リリィにも騙されかけ、あげくに今信じかけているラインハルトにまで騙されたら……本当にそうなりそうだ。
(……はぁ……まあ、仕方ないな……覚悟しておこう)
騙される覚悟を決めた俺は、ラインハルトのテントの入り口に手をかけた。
「――!」
意外なことに、こんな深夜になってラインハルトが外に出ようとしてきた。
こっちは〈潜伏〉を使用しているため、向こうは気づいていないが、さすがに鉢合わせはまずい。
(もし騒がれたら面倒だ)
万が一、あの黒ずくめの連中同様にラインハルトが形振り構わず行動したら、大騒ぎになりかねない。
この周囲には、寝静まっているとはいえ数百人もの難民たちがいるのだ。
俺は適当なテントの陰に隠れた。
テントを出たラインハルトは周囲をしばらく窺った。
歩いていくぞ……。
あっちは『天涯』の方だ。
やはりラインハルトが『天涯』の関係者というリリィの予想は当たっていたのだろうか。
いや、徐々にそれていく……。
結局、ラインハルトの目的地はどうやら難民キャンプからだいぶ離れたところにある支流だとわかった。
『天涯』の入り口を覆う滝に流れ込む支流がこの辺りにはいくつもあり、森が点在しているのだ。
(なんだ……? わざわざこんなところに……)
ラインハルトの背中を見つめる。
まず胸当てを外し、上着を脱ぎ、ズボンを脱いだ。
ラインハルトは剣を収めたままの剣帯をガチャンと投げ捨てた。地面に露出した岩にでも当たったらしく、鈍い音が夜の静寂の中響き渡った。
(……なんだ……)
ラインハルトは水浴びをしようとしたのだろう。
それはわかる。
(けど、これは……)
小さく聞こえてくるのは……すすり泣きか……。
おいおい。
俺は呆れ返って声をかけるのも忘れてそんな光景を見つめる。
夜。細い川面で、半身を濡らして泣く美形の若者は絵になったが、おおよそ勇者というイメージからかけ離れていた。
(あの喧々囂々とした議論……あれはヒステリックになっていただけか……)
それも仕方ないよな。
何気なく難民キャンプの方を振り向く。
難民の数はおよそ数百。おそらくこのペースなら近いうちに千人を超すだろう。
今のところ、勇者パーティー――実際は偽者だが――が攻略すると思っているので、暴動や無茶な行動など起こしていないが、なんらかの決壊が起こるのは時間の問題だ。
『天国』が見つからずしびれを切らして難民たちが退去して最難関ダンジョンに向かうという破滅的な状況か、さらに待つために食料を半ば無理やり水産都市エレフィンから奪い取るという展開か。
……どっちにしろ、あの濡れた細い肩にそれだけの重圧がかかっていることだろう。
戸惑っている間に、俺以外の者たちが動き出したのが気配でわかった。
ただ単に散歩……というわけではないだろう。
てか、歩き方がラインハルトよりよほど玄人だ。
(……しかも、気配によるとリリィもいるか)
宿でおとなしく待っていると言っていたのに……。
王国史情報室絡みなのは間違いないだろう。ケリはついたと思ったんだけどな。
「……ラインハルト」
俺は川面に向かって歩みを進め、話しかけた。
偽勇者の件は、もうこれで終わりだ。釘を刺すだけでも十分だろう。
おそらく放置しておいても、千人近くの難民の命の重みに近いうちに耐えられなくなるのは間違いない。
何らかの事情で『天涯』を本気で攻略したがっているようだが、そっちも俺が片付けるしな。
◇◇◇あとがき◇◇◇
一昨日、「最難関ダンジョン」2巻の原稿がやっと完成しました。
出荷日は9/20(金)です。
かなりギリギリまでかかりましたが、今月下旬に店頭に並び始める予定です。
これからは時間の許す限り、WEB版と新作2作を更新していこうと思っています。
新作2作は一年程前にファンタジー小説大賞に落選した時、「絶対にリベンジしよう!」と思って書いていた作品なのですが、……残念ながらアルファポリス様から書籍化した人は参加できないそうです。問い合わせて、つい先月知りました……。
まあ、それはそれとして、心残りにならないように投稿していきたいと思います。
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