上 下
125 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

リリィ 19

しおりを挟む
 リリィの案内で、『天涯』の入り口を目指す途中、

「――そう私こそが……ラインハルトだ!」

 難民キャンプにできた広場で、なぜか剣士風の若者が、そう名乗りを上げていた。

「なんだ? ……」

 あれは? と続けようとした俺の声は、

「「「うおぉおおお!」」」

 という聴衆である難民たちの歓声にかき消された。
 難民の数は数百はいるだろう。
 みんな熱に浮かされたような顔を浮かべている。

 ラインハルトと名乗った若者は、台の上に立っているらしく難民たちの頭越しにもよく顔が見えた。

「私こそが『天涯』を攻略する勇者だ!!」

 勇者? こいつがそうなのか……。

 改めてラインハルトを見る。
 優美な外見だな。その一方、瞳は意志が強そうで印象的だった。
 アレクサンダーに似ているのは短めの金髪というところだけ。

「それにしてもラインハルトというのか……」

 俺は思わず呟いた。

 てっきり亡くなったアレクサンダーの名を騙っているのかと思ったが……。
 死人の名を騙るほど悪い奴というわけではないらしい。
 ちょっとだけ評価を改めるべきかもな。

 うぉおおおお! とまたも歓声が上がった。
 歓声がある程度静まった頃、ラインハルトは顔に汗を浮かべてまで叫ぶ。

「――私は必ず、財宝『天国』を見つけてみせる! そして……皆で共に『天国』に行こう!!」

 ……ん?
 ふと先程の発言に、何か引っかかった。

 なんだ? 何に違和感を覚えたんだ?

「「「うぉおおおおおおおおおおお!!」」」

 最高潮を迎えた歓声に、俺の感じたかすかな違和感はかき消されてしまった。

 まあ、いい……それよりも――。

 俺はラインハルトに〈ステータス開示オープン〉のスキルを使った。

 まさか本当に勇者ってことはないよな?
 まるでおとぎ話に出てくる高潔な勇者そのものに見えた。

 だが――。

(……所詮おとぎ話は、おとぎ話だったわけか……)

 俺は、リリィの肩を指先で叩いた。
 振り向いたリリィに、指先で元来た道を示す。

 もう聞く必要はないという俺の意思が伝わったらしく、リリィは俺の後についてきた。

「どうでしたか?」

 リリィがそう尋ねるってことは、やはり彼女も勇者らしいと思ったんだろうな。

 王国の暗部で活躍したスパイである彼女でさえ見抜けないということは、相当なもんだ。

 だが、〈ステータス開示オープン〉のスキルは非情だ。

「……ラインハルトのステータスには、はっきりと『称号:偽勇者』の記載があった。偽勇者で間違いない。ついでにいえば、職業は農民だそうだ」

「……そう……ですか……」

 リリィは、まだラインハルトに声援を送っている難民たちを振り返り、やるせなさそうな表情を浮かべた。
 俺も似たような気分だ。

 正直、難民たちのことを思えば、ラインハルトが本物の勇者であった方が良かっただろう。

 ――とはいえ、仕事は仕事だ。

「俺はラインハルトに直接会って話をつけてくる」

「すぐですか?」

「いや。できれば二人きりの時がいい」

 ラインハルトの演説が終わったらしく、大勢の聴衆がラインハルトに詰めかけている。
 ラインハルトは聴衆たちに爽やかな笑顔で応じている。

「……となると、夜遅くになりそうですね」

「ああ。あの分だと取り巻きが常にいると思った方がいい」
 
 リリィが一瞬、ラインハルトに鋭い視線を向けた。

「それと、お気づきですか? フウマさん」

「何がだ?」

「先程の演説……おかしなところがあったことに」

「おかしな?」

 そういえば、どこかで引っかかった。

「……確か『天国』に関して……」

「その通りです。ラインハルトは財宝『天国』を場所として発言していました。『皆で共にに行こう』と言っていましたから」

「そうか」

 俺もやっと違和感の正体に気づいた。

「リリィの言う通り不自然だな。『天涯』からの生還者がいないせいで、『天国』が物なのか場所なのかもはっきりしていないはず……なのに、場所と断言していた。つまり――」

「――『天涯』の関係者の可能性が高い」

「だな。……とりあえず目的の半分――偽勇者パーティーの件を今夜にでも片付けてくる。リリィは宿で待っていてくれ」

「わかりました。吉報を宿で待ってますね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

レベル1の最強転生者 ~勇者パーティーを追放された錬金鍛冶師は、スキルで武器が作り放題なので、盾使いの竜姫と最強の無双神器を作ることにした~

サイダーボウイ
ファンタジー
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」 勇者にそう吐き捨てられたエルハルトはダンジョンの最下層で置き去りにされてしまう。 エルハルトは錬金鍛冶師だ。 この世界での生産職は一切レベルが上がらないため、エルハルトはパーティーのメンバーから長い間不遇な扱いを受けてきた。 だが、彼らは知らなかった。 エルハルトが前世では魔王を最速で倒した最強の転生者であるということを。 女神のたっての願いによりエルハルトはこの世界に転生してやって来たのだ。 その目的は一つ。 現地の勇者が魔王を倒せるように手助けをすること。 もちろん勇者はこのことに気付いていない。 エルハルトはこれまであえて実力を隠し、影で彼らに恩恵を与えていたのである。 そんなことも知らない勇者一行は、エルハルトを追放したことにより、これまで当たり前にできていたことができなくなってしまう。 やがてパーティーは分裂し、勇者は徐々に落ちぶれていくことに。 一方のエルハルトはというと、さくっとダンジョンを脱出した後で盾使いの竜姫と出会う。 「マスター。ようやくお逢いすることができました」  800年間自分を待ち続けていたという竜姫と主従契約を結んだエルハルトは、勇者がちゃんと魔王を倒せるようにと最強の神器作りを目指すことになる。 これは、自分を追放した勇者のために善意で行動を続けていくうちに、先々で出会うヒロインたちから好かれまくり、いつの間にか評価と名声を得てしまう最強転生者の物語である。

【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する

花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。 俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。 だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。 アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。 絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。 そんな俺に一筋の光明が差し込む。 夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。 今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!! ★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。 ※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。