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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
リリィ 17
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海の家。
浜辺に建てられた平屋の飲食店の名だ。
その店内の奥に、俺とリリィは座った。
露出のやたらと多い店員に注文した後、リリィは俺に顔を寄せた。
「尾行は……ありませんでしたよね?」
念のため確認してくるとは……。
自分の能力に自信がないというより、手に入った情報がよほどのものだったのだろう。
「ああ。尾行はない」
「……よかった」
「だが――」
リリィの緩みかけた表情が、再び引き締まった。
「妙な視線を感じた。黒ずくめとリリィが戦っている時に」
「妙な? もしかして黒ずくめの仲間でしょうか?」
「わからん」
正直に答えた。
姿は見たが、さすがにそれだけじゃ何もわからないからな。
「あんな目立つ黒ずくめをしてくれていたら楽だったんだが……二箇所にいた連中はどっちも一般人っぽい服装だった。片方はごく普通の冒険者や旅人といった感じ。もう片方は、こっちに住む連中がよく着ている薄着だ」
「なるほど。じゃあ、全然関係ない者たちという可能性も……」
「ああ。なくはない」
リリィも考え込んだ。
……正直考えるのは苦手だ。
そもそもリリィほどいろいろな知識を持ってないし、こういう経験も少ないからな。
なので、とりあえずリリィに質問してみた。
「リリィはどう思うんだ?」
「フウマさんが妙な視線と思ったのはどうしてですか?」
なかなかいい質問だな。
「妙と思ったのは……微塵も恐怖を感じていないようだったからだ。あれは冷静な観察者の目だ。他の民衆は怯えていたからな」
剣を振り回し、あげくに危険性が認識されている白い粉がばらまかれたのだ。
あんな状況でまったく怯えてない連中なんて明らかにおかしい。
「確かに、怪しいですね」
「黒ずくめでないだけで、どっちかは黒ずくめの仲間だろうな。ただ、二箇所にいた連中……それぞれ二人組だったんだが、あれはそれぞれ別の勢力かもな」
「どうしてそう思うんですか?」
リリィは驚いた顔をした。
先程までの情報だけで推理を組み立てるのは無理だと感じていたのかもしれない。
「結構な手練れが、わざわざ監視の目を一箇所に集めるというのも不自然に思えてな……」
「確かに」
リリィは大きく頷いた。
「おっしゃる通り、監視の目をを増やせば精度が上がる分、見つかりやすくなります。人員も無駄になりますし。……手練れをそれだけ揃えられる連中が、そんなことを見落とすのは不自然。となれば、別の組織である可能性が高い」
「後は俺の勘なんだが、雰囲気が違った。冒険者っぽい連中は王国史情報室っぽい印象だった」
「なるほど! ありえる話です。さすがですね! 王国史情報室と接触したのは、つい最近だっていうのに、その雰囲気まで理解するなんて……!」
「お、おう……え……いや、その……そう言われても困るんだが……」
俺は頭をかいた。
俺の知っている「裏の組織」ってやつが、王国史情報室しかなかったからだけなんだが……。
例えとして、王国史情報室を引き合いに出しただけだ。
まあ、別に間違っているわけではないが……。
本当に王国史情報室の可能性が高いとも思う。
こんなところにあんな秘密組織がいくつもあるとは思えないしな……。
「それでリリィ」
「はい」
「例の黒ずくめと『天国粉』の関係ってのはなんなんだ?」
「もうお気づきだと思いますけど、『天国粉』を広めているのが奴らなんです」
「ああ。大量に持ってたもんな」
とすると……。
「じゃあ、連中が『天国粉』を作っているのかな?」
「可能性は高いかと」
ふうむ。
『天国粉』を売っていた老婆の話によれば、あれの材料の一部は「別の大陸から仕入れた薬」らしい。
なら、奴が港に忍び込んでいた理由にもなる。
「……とはいえ、さすがに情報が足りないな。もっと情報収集すべきなんだろうか……」
「その判断はフウマさんにお任せします。ただ黒ずくめの連中は相当の手練れです。私やフウマさんだからどうにか追いつけましたが、普通は無理です」
「だろうな」
一般の衛兵クラスでどうこうなる相手とは思えない。
「捕まえるのが難しく、捕まりそうになるとすぐに自害するので……情報が全然集まってないんです」
「つまり、情報収集を進めてもあまり意味はないってことか」
話が一段落ついた頃、ちょうど店員が料理と飲み物を運んできた。
「よし。とりあえずメシにしよう」
「はい」
リリィは微笑んだ。
浜辺に建てられた平屋の飲食店の名だ。
その店内の奥に、俺とリリィは座った。
露出のやたらと多い店員に注文した後、リリィは俺に顔を寄せた。
「尾行は……ありませんでしたよね?」
念のため確認してくるとは……。
自分の能力に自信がないというより、手に入った情報がよほどのものだったのだろう。
「ああ。尾行はない」
「……よかった」
「だが――」
リリィの緩みかけた表情が、再び引き締まった。
「妙な視線を感じた。黒ずくめとリリィが戦っている時に」
「妙な? もしかして黒ずくめの仲間でしょうか?」
「わからん」
正直に答えた。
姿は見たが、さすがにそれだけじゃ何もわからないからな。
「あんな目立つ黒ずくめをしてくれていたら楽だったんだが……二箇所にいた連中はどっちも一般人っぽい服装だった。片方はごく普通の冒険者や旅人といった感じ。もう片方は、こっちに住む連中がよく着ている薄着だ」
「なるほど。じゃあ、全然関係ない者たちという可能性も……」
「ああ。なくはない」
リリィも考え込んだ。
……正直考えるのは苦手だ。
そもそもリリィほどいろいろな知識を持ってないし、こういう経験も少ないからな。
なので、とりあえずリリィに質問してみた。
「リリィはどう思うんだ?」
「フウマさんが妙な視線と思ったのはどうしてですか?」
なかなかいい質問だな。
「妙と思ったのは……微塵も恐怖を感じていないようだったからだ。あれは冷静な観察者の目だ。他の民衆は怯えていたからな」
剣を振り回し、あげくに危険性が認識されている白い粉がばらまかれたのだ。
あんな状況でまったく怯えてない連中なんて明らかにおかしい。
「確かに、怪しいですね」
「黒ずくめでないだけで、どっちかは黒ずくめの仲間だろうな。ただ、二箇所にいた連中……それぞれ二人組だったんだが、あれはそれぞれ別の勢力かもな」
「どうしてそう思うんですか?」
リリィは驚いた顔をした。
先程までの情報だけで推理を組み立てるのは無理だと感じていたのかもしれない。
「結構な手練れが、わざわざ監視の目を一箇所に集めるというのも不自然に思えてな……」
「確かに」
リリィは大きく頷いた。
「おっしゃる通り、監視の目をを増やせば精度が上がる分、見つかりやすくなります。人員も無駄になりますし。……手練れをそれだけ揃えられる連中が、そんなことを見落とすのは不自然。となれば、別の組織である可能性が高い」
「後は俺の勘なんだが、雰囲気が違った。冒険者っぽい連中は王国史情報室っぽい印象だった」
「なるほど! ありえる話です。さすがですね! 王国史情報室と接触したのは、つい最近だっていうのに、その雰囲気まで理解するなんて……!」
「お、おう……え……いや、その……そう言われても困るんだが……」
俺は頭をかいた。
俺の知っている「裏の組織」ってやつが、王国史情報室しかなかったからだけなんだが……。
例えとして、王国史情報室を引き合いに出しただけだ。
まあ、別に間違っているわけではないが……。
本当に王国史情報室の可能性が高いとも思う。
こんなところにあんな秘密組織がいくつもあるとは思えないしな……。
「それでリリィ」
「はい」
「例の黒ずくめと『天国粉』の関係ってのはなんなんだ?」
「もうお気づきだと思いますけど、『天国粉』を広めているのが奴らなんです」
「ああ。大量に持ってたもんな」
とすると……。
「じゃあ、連中が『天国粉』を作っているのかな?」
「可能性は高いかと」
ふうむ。
『天国粉』を売っていた老婆の話によれば、あれの材料の一部は「別の大陸から仕入れた薬」らしい。
なら、奴が港に忍び込んでいた理由にもなる。
「……とはいえ、さすがに情報が足りないな。もっと情報収集すべきなんだろうか……」
「その判断はフウマさんにお任せします。ただ黒ずくめの連中は相当の手練れです。私やフウマさんだからどうにか追いつけましたが、普通は無理です」
「だろうな」
一般の衛兵クラスでどうこうなる相手とは思えない。
「捕まえるのが難しく、捕まりそうになるとすぐに自害するので……情報が全然集まってないんです」
「つまり、情報収集を進めてもあまり意味はないってことか」
話が一段落ついた頃、ちょうど店員が料理と飲み物を運んできた。
「よし。とりあえずメシにしよう」
「はい」
リリィは微笑んだ。
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