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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

リリィ 13

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 田園都市ヨポーツク発、水産都市エレフィン行きの乗合馬車に揺られること2日。

 朝日とともに、俺の目に飛び込んできたのは、美しい湾の光景だった。

 黄金色に煌めく弧を描く湾の向こうに、巨大な建造物が見えた。

 おそらくあれが水産都市エレフィンだろう。

 船というものを初めて見たが、想像以上に大きい。
 大きな船以外にも、小さな船もいくつも見えた。

「……ん?」

 早朝から歩いている人を何度も見かけて俺は首を傾げた。

 最初は、散歩している人がいるのかとスルーしていたが、明らかに様子が変だった。

「なぁ、リリィ。朝っぱらから人が多くないか? それに……散歩って感じも……」

 母子が歩いている。

 母親に手を引かれている子供は、かなり疲労しているのがちらりと見ただけでもわかった。

 人に限らず、獣人に魔族、エルフまでいる。

 年齢も職業も様々で、よく見れば、点々と水産都市エレフィンの方にまで続いている。

「おそらく最難関ダンジョン『天涯』の攻略者たちですね」

「は?」

 攻略者?

 意味がわからかない。

 攻略者とは、文字通りダンジョンの攻略を目的とした者を指す。

 だが、武装もしていないし、目的地である『天涯』に到着した時点で倒れそうなほど疲労している有り様だ。

(どこからどう見ても攻略者ではなく、難民……いや、これは――)

「――巡礼者か」

 そう口にした瞬間、すとんと胸に落ちる。

 これは巡礼者の群れだ。

 水産都市エレフィンの近くにあるという『天涯』――そこに秘められた謎の『天国』への。

 ぎゅっと思わず拳を握っていた。

 大事だろうとは認識していた。
 組合長ギルドマスターから聞いていたためだ。

 だが聞くと見るとでは大違いだった。

 ふらふら歩く暗い目をした群衆を見ていて、俺は後悔した。

(馬車など使わず、さっさと自分の足で移動すべきだったか……)

 リリィと出会えたし、王国史情報室を放置していたら大変なことになっていた可能性もある。

 すべて無駄だったとは思わないが、それでも後悔を感じたのは事実だった。

 俺の後悔に関係なく、馬車は目的地である水産都市エレフィンに向かう。

 大きな船が間近に見えるかと思ったが、かなり高い壁によって遮られた。

 堤防か何かだろう。

「あー……」

 残念そうな俺の声に、リリィが朗らかな声で笑う。

「仕方ないですよ。船は宝です。非常に高価な。……それに、港に自由に出入りできるようにすると、夜間なんかに忍び込んで、船を盗んだり、密漁したりする輩が出てくるそうなんです。だから、港は厳重に管理されてるんです。一応名目は海賊に対する対策ってことになってますけどね」

「海賊なんているのか?」

「いるらしいです」

 淡々と説明したリリィだったが、彼女も高い壁の向こうにある船を見たいのか身を乗り出すようにした。

 馬車の小さな窓に俺とリリィの顔が並ぶ。

 走る馬車の扉の隙間から、かすかに潮の香りがした。




◇◇◇あとがき◇◇◇

「最難関ダンジョン」発売から一ヶ月が経ちました。
この一ヶ月間は更新頻度を増やすつもりで頑張っていて、なんとか予定通り更新できました。

これからは週1回くらいの更新になる予定です。
よろしくお願いします!
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