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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
リリィ 12
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「やっと田園都市ヨポーツクに着きますね、フウマさん!」
馬車の中、喜び勇んで告げてくるラスクに、
「そうだねー」
と俺は答えた。
……棒読みになってしまった。
昨日の内に、田園都市ヨポーツクと往復したことは、王国史情報室を実質解体したことを告げた際に、リリィだけには伝えてあった。
前の座席に座るリリィは、少し白い目を俺に向けてきた。
ちなみにイーサーは、リリィのそばにいたいと駄々をこねた双子を見かねて、席を譲ってあげていた。
リリィたち3人は、やや窮屈そうだったが、2人乗りの席に並んで腰掛けている。
必然的に隣に座っているラスクと俺の距離は近い。
ラスクのいい笑顔を見ながら、俺は礼を言った。
「わざわざ田園都市ヨポーツクまで乗せてきてくれてありがとう」
田園都市ヨポーツクは農作物の栽培などが盛んだ。
だからといってここまで遠出をしなくても、もっと近場の農村などを回って買い付けることだってできたはずだ。
わざわざここまで来てくれたのは……。
「いえいえ。この田園都市ヨポーツクからは、例の場所までの直通が出てますから」
例の場所とは、俺の目的地である水産都市エレフィンのことだ。
リリィの妹たちがいるので、伏せたのだろう。
リリィは俺の目的地について元々知っていた。
伊達にスパイなどしていないのだろう。
状況から推察したのか、イーサー辺りがうっかり漏らしたのか、おそらく前者だろうが、事情を大体把握していたらしい。
「あの……」
リリィは、白いミニスカートの上でぎゅっと拳を握り、俺に話しかけてきた。
「足手まといかもしれませんが、私もフウマさんの目的のために連れていってもらえませんか? これでもいろいろと役に立つと思います!」
彼女の感謝は本物のようだった。
だが、姉と別れると知った2人は口々に言い募った。
「大丈夫だよ、お姉。フウマさんなら」
「うん……フウマさんなら……」
「だよね……」
なぜか途中から遠い目になる2人。
そんな妹たちに戸惑った様子だったが、リリィは我慢ならないようだった。
「私はフウマさんにご恩があります!」
「でも妹さんたちが……」
「それは、ラスクさんにお願いしたいのです。宗教都市ロウまで妹たちを連れていってもらえませんか?」
「え? 宗教都市ロウに?」
ラスクは驚いた顔を浮かべた。
そりゃそうだろう。
人口流出はあっても、流入はあり得ない。
それが現状だったのだ。
「私は、……妹たちが完全に安全だと思えるようになるまで匿いたいんです。それには、法も秩序も、情報網も、ほとんど壊滅している都市の方がいいんです」
王国史情報室は遅かれ早かれ解体されるだろうが、それまでの間、妹たちの安全を確保したいらしかった。
ラスクも、リリィの事情をなんとなく察しているので黙って聞いている。
「私たち3人がどこか大きな街に移動したり、住み着いたりするよりは、よほどいいと思って」
「それは……」
ラスクは思案顔になる。
確かに、姉妹3人で移動するのも危険なら、若い女だけで暮らすというのも危険だ。
魔法兵であるリリィは、魔道士として魔法も使える上に、剣も多少は扱えるようだ。
〈最下位職〉の中では、かなり強い部類に入るだろう。
だが逆にいえば、〈最下位職〉の域を出ていない。
一般的な戦闘職10人くらいに襲われれば、ひとたまりもないだろう。
ラスクやイーサーのような信用できる男たちと妹たちを一緒に行動させたいという気持ちはよくわかった。
「ラスク。事情は話せないけど、彼女の妹たちを預かってあげて欲しい。組合長なら悪いようにしないはずだ」
俺の口添えもあり、ラスクは頷いてくれた。
ほっと安心した様子のリリィは、俺の方を向いた。
「では、ご一緒してもよろしいですか?」
断る、という言葉が喉元まで出かかったが、一人旅の寂しさと白昼夢の件が脳裏をよぎった。
「好きにしたらいい」
そう答えたものの、俺は付け足した。
「ただし、最終目的の場所は危険だから、そこからは俺1人で行く」
馬車の中、喜び勇んで告げてくるラスクに、
「そうだねー」
と俺は答えた。
……棒読みになってしまった。
昨日の内に、田園都市ヨポーツクと往復したことは、王国史情報室を実質解体したことを告げた際に、リリィだけには伝えてあった。
前の座席に座るリリィは、少し白い目を俺に向けてきた。
ちなみにイーサーは、リリィのそばにいたいと駄々をこねた双子を見かねて、席を譲ってあげていた。
リリィたち3人は、やや窮屈そうだったが、2人乗りの席に並んで腰掛けている。
必然的に隣に座っているラスクと俺の距離は近い。
ラスクのいい笑顔を見ながら、俺は礼を言った。
「わざわざ田園都市ヨポーツクまで乗せてきてくれてありがとう」
田園都市ヨポーツクは農作物の栽培などが盛んだ。
だからといってここまで遠出をしなくても、もっと近場の農村などを回って買い付けることだってできたはずだ。
わざわざここまで来てくれたのは……。
「いえいえ。この田園都市ヨポーツクからは、例の場所までの直通が出てますから」
例の場所とは、俺の目的地である水産都市エレフィンのことだ。
リリィの妹たちがいるので、伏せたのだろう。
リリィは俺の目的地について元々知っていた。
伊達にスパイなどしていないのだろう。
状況から推察したのか、イーサー辺りがうっかり漏らしたのか、おそらく前者だろうが、事情を大体把握していたらしい。
「あの……」
リリィは、白いミニスカートの上でぎゅっと拳を握り、俺に話しかけてきた。
「足手まといかもしれませんが、私もフウマさんの目的のために連れていってもらえませんか? これでもいろいろと役に立つと思います!」
彼女の感謝は本物のようだった。
だが、姉と別れると知った2人は口々に言い募った。
「大丈夫だよ、お姉。フウマさんなら」
「うん……フウマさんなら……」
「だよね……」
なぜか途中から遠い目になる2人。
そんな妹たちに戸惑った様子だったが、リリィは我慢ならないようだった。
「私はフウマさんにご恩があります!」
「でも妹さんたちが……」
「それは、ラスクさんにお願いしたいのです。宗教都市ロウまで妹たちを連れていってもらえませんか?」
「え? 宗教都市ロウに?」
ラスクは驚いた顔を浮かべた。
そりゃそうだろう。
人口流出はあっても、流入はあり得ない。
それが現状だったのだ。
「私は、……妹たちが完全に安全だと思えるようになるまで匿いたいんです。それには、法も秩序も、情報網も、ほとんど壊滅している都市の方がいいんです」
王国史情報室は遅かれ早かれ解体されるだろうが、それまでの間、妹たちの安全を確保したいらしかった。
ラスクも、リリィの事情をなんとなく察しているので黙って聞いている。
「私たち3人がどこか大きな街に移動したり、住み着いたりするよりは、よほどいいと思って」
「それは……」
ラスクは思案顔になる。
確かに、姉妹3人で移動するのも危険なら、若い女だけで暮らすというのも危険だ。
魔法兵であるリリィは、魔道士として魔法も使える上に、剣も多少は扱えるようだ。
〈最下位職〉の中では、かなり強い部類に入るだろう。
だが逆にいえば、〈最下位職〉の域を出ていない。
一般的な戦闘職10人くらいに襲われれば、ひとたまりもないだろう。
ラスクやイーサーのような信用できる男たちと妹たちを一緒に行動させたいという気持ちはよくわかった。
「ラスク。事情は話せないけど、彼女の妹たちを預かってあげて欲しい。組合長なら悪いようにしないはずだ」
俺の口添えもあり、ラスクは頷いてくれた。
ほっと安心した様子のリリィは、俺の方を向いた。
「では、ご一緒してもよろしいですか?」
断る、という言葉が喉元まで出かかったが、一人旅の寂しさと白昼夢の件が脳裏をよぎった。
「好きにしたらいい」
そう答えたものの、俺は付け足した。
「ただし、最終目的の場所は危険だから、そこからは俺1人で行く」
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