118 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
リリィ 12
しおりを挟む
「やっと田園都市ヨポーツクに着きますね、フウマさん!」
馬車の中、喜び勇んで告げてくるラスクに、
「そうだねー」
と俺は答えた。
……棒読みになってしまった。
昨日の内に、田園都市ヨポーツクと往復したことは、王国史情報室を実質解体したことを告げた際に、リリィだけには伝えてあった。
前の座席に座るリリィは、少し白い目を俺に向けてきた。
ちなみにイーサーは、リリィのそばにいたいと駄々をこねた双子を見かねて、席を譲ってあげていた。
リリィたち3人は、やや窮屈そうだったが、2人乗りの席に並んで腰掛けている。
必然的に隣に座っているラスクと俺の距離は近い。
ラスクのいい笑顔を見ながら、俺は礼を言った。
「わざわざ田園都市ヨポーツクまで乗せてきてくれてありがとう」
田園都市ヨポーツクは農作物の栽培などが盛んだ。
だからといってここまで遠出をしなくても、もっと近場の農村などを回って買い付けることだってできたはずだ。
わざわざここまで来てくれたのは……。
「いえいえ。この田園都市ヨポーツクからは、例の場所までの直通が出てますから」
例の場所とは、俺の目的地である水産都市エレフィンのことだ。
リリィの妹たちがいるので、伏せたのだろう。
リリィは俺の目的地について元々知っていた。
伊達にスパイなどしていないのだろう。
状況から推察したのか、イーサー辺りがうっかり漏らしたのか、おそらく前者だろうが、事情を大体把握していたらしい。
「あの……」
リリィは、白いミニスカートの上でぎゅっと拳を握り、俺に話しかけてきた。
「足手まといかもしれませんが、私もフウマさんの目的のために連れていってもらえませんか? これでもいろいろと役に立つと思います!」
彼女の感謝は本物のようだった。
だが、姉と別れると知った2人は口々に言い募った。
「大丈夫だよ、お姉。フウマさんなら」
「うん……フウマさんなら……」
「だよね……」
なぜか途中から遠い目になる2人。
そんな妹たちに戸惑った様子だったが、リリィは我慢ならないようだった。
「私はフウマさんにご恩があります!」
「でも妹さんたちが……」
「それは、ラスクさんにお願いしたいのです。宗教都市ロウまで妹たちを連れていってもらえませんか?」
「え? 宗教都市ロウに?」
ラスクは驚いた顔を浮かべた。
そりゃそうだろう。
人口流出はあっても、流入はあり得ない。
それが現状だったのだ。
「私は、……妹たちが完全に安全だと思えるようになるまで匿いたいんです。それには、法も秩序も、情報網も、ほとんど壊滅している都市の方がいいんです」
王国史情報室は遅かれ早かれ解体されるだろうが、それまでの間、妹たちの安全を確保したいらしかった。
ラスクも、リリィの事情をなんとなく察しているので黙って聞いている。
「私たち3人がどこか大きな街に移動したり、住み着いたりするよりは、よほどいいと思って」
「それは……」
ラスクは思案顔になる。
確かに、姉妹3人で移動するのも危険なら、若い女だけで暮らすというのも危険だ。
魔法兵であるリリィは、魔道士として魔法も使える上に、剣も多少は扱えるようだ。
〈最下位職〉の中では、かなり強い部類に入るだろう。
だが逆にいえば、〈最下位職〉の域を出ていない。
一般的な戦闘職10人くらいに襲われれば、ひとたまりもないだろう。
ラスクやイーサーのような信用できる男たちと妹たちを一緒に行動させたいという気持ちはよくわかった。
「ラスク。事情は話せないけど、彼女の妹たちを預かってあげて欲しい。組合長なら悪いようにしないはずだ」
俺の口添えもあり、ラスクは頷いてくれた。
ほっと安心した様子のリリィは、俺の方を向いた。
「では、ご一緒してもよろしいですか?」
断る、という言葉が喉元まで出かかったが、一人旅の寂しさと白昼夢の件が脳裏をよぎった。
「好きにしたらいい」
そう答えたものの、俺は付け足した。
「ただし、最終目的の場所は危険だから、そこからは俺1人で行く」
馬車の中、喜び勇んで告げてくるラスクに、
「そうだねー」
と俺は答えた。
……棒読みになってしまった。
昨日の内に、田園都市ヨポーツクと往復したことは、王国史情報室を実質解体したことを告げた際に、リリィだけには伝えてあった。
前の座席に座るリリィは、少し白い目を俺に向けてきた。
ちなみにイーサーは、リリィのそばにいたいと駄々をこねた双子を見かねて、席を譲ってあげていた。
リリィたち3人は、やや窮屈そうだったが、2人乗りの席に並んで腰掛けている。
必然的に隣に座っているラスクと俺の距離は近い。
ラスクのいい笑顔を見ながら、俺は礼を言った。
「わざわざ田園都市ヨポーツクまで乗せてきてくれてありがとう」
田園都市ヨポーツクは農作物の栽培などが盛んだ。
だからといってここまで遠出をしなくても、もっと近場の農村などを回って買い付けることだってできたはずだ。
わざわざここまで来てくれたのは……。
「いえいえ。この田園都市ヨポーツクからは、例の場所までの直通が出てますから」
例の場所とは、俺の目的地である水産都市エレフィンのことだ。
リリィの妹たちがいるので、伏せたのだろう。
リリィは俺の目的地について元々知っていた。
伊達にスパイなどしていないのだろう。
状況から推察したのか、イーサー辺りがうっかり漏らしたのか、おそらく前者だろうが、事情を大体把握していたらしい。
「あの……」
リリィは、白いミニスカートの上でぎゅっと拳を握り、俺に話しかけてきた。
「足手まといかもしれませんが、私もフウマさんの目的のために連れていってもらえませんか? これでもいろいろと役に立つと思います!」
彼女の感謝は本物のようだった。
だが、姉と別れると知った2人は口々に言い募った。
「大丈夫だよ、お姉。フウマさんなら」
「うん……フウマさんなら……」
「だよね……」
なぜか途中から遠い目になる2人。
そんな妹たちに戸惑った様子だったが、リリィは我慢ならないようだった。
「私はフウマさんにご恩があります!」
「でも妹さんたちが……」
「それは、ラスクさんにお願いしたいのです。宗教都市ロウまで妹たちを連れていってもらえませんか?」
「え? 宗教都市ロウに?」
ラスクは驚いた顔を浮かべた。
そりゃそうだろう。
人口流出はあっても、流入はあり得ない。
それが現状だったのだ。
「私は、……妹たちが完全に安全だと思えるようになるまで匿いたいんです。それには、法も秩序も、情報網も、ほとんど壊滅している都市の方がいいんです」
王国史情報室は遅かれ早かれ解体されるだろうが、それまでの間、妹たちの安全を確保したいらしかった。
ラスクも、リリィの事情をなんとなく察しているので黙って聞いている。
「私たち3人がどこか大きな街に移動したり、住み着いたりするよりは、よほどいいと思って」
「それは……」
ラスクは思案顔になる。
確かに、姉妹3人で移動するのも危険なら、若い女だけで暮らすというのも危険だ。
魔法兵であるリリィは、魔道士として魔法も使える上に、剣も多少は扱えるようだ。
〈最下位職〉の中では、かなり強い部類に入るだろう。
だが逆にいえば、〈最下位職〉の域を出ていない。
一般的な戦闘職10人くらいに襲われれば、ひとたまりもないだろう。
ラスクやイーサーのような信用できる男たちと妹たちを一緒に行動させたいという気持ちはよくわかった。
「ラスク。事情は話せないけど、彼女の妹たちを預かってあげて欲しい。組合長なら悪いようにしないはずだ」
俺の口添えもあり、ラスクは頷いてくれた。
ほっと安心した様子のリリィは、俺の方を向いた。
「では、ご一緒してもよろしいですか?」
断る、という言葉が喉元まで出かかったが、一人旅の寂しさと白昼夢の件が脳裏をよぎった。
「好きにしたらいい」
そう答えたものの、俺は付け足した。
「ただし、最終目的の場所は危険だから、そこからは俺1人で行く」
0
お気に入りに追加
4,184
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします
鬱沢色素
ファンタジー
底辺負け組アルフは勇者エリオットに虐げられており、幼馴染みも寝取られてしまう。
しかし【みんな俺より弱くなる】というスキルを使って、みんなに復讐することにした。
「俺を虐げてきた勇者パーティーのみんなを、人生ド底辺に堕としてやる!」
手始めにアルフは弱くなった勇者をボコボコにする。
その後、勇者はデコピン一発でやられたり、聖剣が重くて使えなくなったり、女達から徐々に煙たがられたり——と着実に底辺に堕ちていった。
今ここに血で彩られた復讐劇がはじまる。
題名に★マークが付いてるのは、勇者パーティー視点で彼等が底辺に堕ちていくまでの様を描いています
※小説家になろう様でも先行で連載しております。
登録者0人の底辺配信者だった俺が、魔界で配信を始めてみたら人気者になった件
タバスコ
ファンタジー
【毎日投稿中!】
ここは、名声値が絶対的な地位を定める世界。
自分の目を通してさまざまな光景を配信することにより、ファンを得ていくことに人々は奔走していた。
主人公のヴァリアンは容姿端麗、長身で筋肉質。そして、数ランク格上の魔物ですら討伐してしまうほど戦闘能力も優れていた。
一見勝ち組のヴァリアンだが、名声値は最低のGランク。その訳は、彼のスキルの見た目にあった。
【異形化】。魔物に変化できるそのスキルは、人間が見るにはあまりに醜かった。
その醜さ故に臨時パーティーを組んだ女冒険者たちに見捨てられてしまい、挙げ句の果てには冤罪により、犯罪者として魔界へ追放されることに。
人間界よりも数倍過酷だと言われる魔界に追放され軽く絶望するヴァリアンだが、何故か魔界では彼のスキルが人気で……?
名声値が上昇したことで変化できる魔物が増え、どんどんできることが多くなっていく。
戦闘はパーティーメンバーなどいらぬほど多彩に。
スライムを利用したクリーニング屋で金と感謝を稼ぎ、剛毛で悩む令嬢には脱毛の呪いで永久脱毛!
さらには、呪いを反転させる力で王の髪をフサフサに?
多彩な能力で名声と信頼を得る!
人間界では友達すらいなかったヴァリアンの逆転劇が始まる。
※9話までしか載せてませんでしたが消しちゃったので再投稿します
勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。
カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。
伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。
深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。
しかし。
お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。
伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。
その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。
一方で。
愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。
死へのタイムリミットまでは、あと72時間。
マモル追放をなげいても、もう遅かった。
マモルは、手にした最強の『力』を使い。
人助けや、死神助けをしながら。
10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。
これは、過去の復讐に燃える男が。
死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。
結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。