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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

リリィ 11

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「お祝いだー!」

どこかでそんなふうに叫ぶ男の声が聞こえた。

振り返って確かめると髭面の男――イーサーだった。

俺が「何やってるんだろう?」と見つめていると、ラスクが声をかけてきた。

「秘蔵していた肉を振る舞うことを許可したんですよ。リリィさんの妹さんたちの救出のお祝いとして」

言われてみると、どこからともなく肉を取り出す男たちがいた。

なるほど。

俺も秘蔵していた――決して死蔵していたわけではない――シノビノサト村の周囲にいるモンスター、キメラの燻製肉を取り出した。

せっかくなので一緒に焼いてもらった。

熱々のステーキが2枚の皿にこんもり盛られた。

近づいて肩越しに覗き込んできたリリィに、俺は皿の1つを差し出した。

「さぁ、お食べ、リリィ。とっても美味しいよ」

「……は、はぁ」

俺の雰囲気がいつもとちょっと違うので、リリィは怪訝そうに生返事をし、こちらが差し出した謎の肉を受け取った。

リリィは、俺が双子の妹たちを助けたことで、非常に感謝していた。

あのあと抱きつかれたが、そんな感謝よりも、俺はどうしてもこの肉の感想が聞きたくて仕方なかった。

なにせシノビノサト村に移住した奴隷たちは、最初に俺が解体現場に連れて行ったのを見せたせいか、まったくこの肉には手をつけようとしなかったのだ。

よほど1つの肉体にライオンと山羊と毒蛇の頭部があるキメラが、3つの首筋から血を流して血抜きされている姿が衝撃的だったらしい。

移住者たちは皆、断ってきた。
エルフは「エルフは菜食主義者で肉を食わない」と言い、魔族は「過酷な大地で育ったせいで肉を食う習慣がない」と言い張り、獣人たちは「なんか祖先とか草食だったと思う」と虎そのものの顔の癖に言ってきた。

ついでに、オゥバァとセーレア、リノも嫌がった。

美味しいのに。

俺はずっと不満だったのだ。

決して謎の肉を差し出して食べさせ、困惑させたいと思っているわけではない。

宵、湖畔で2人並んで倒木に腰を下ろしていると、双子の妹であるローシャとミーシャが顔を出した。

「あーっ! ずるい、お姉だけお肉食べてるぅー」
「ずるいー!」

双子が似たような顔でそんなことを言う。

俺は自分用に持っていた皿を差し出す。

「え? いいんですか?」

2人が同じように驚きの言葉を述べる。

「あぁ。俺はいつでも食べられるしね。……村の周囲にたくさんいるんだ」
「へぇー、放牧でもなさってるんですか?」
「放牧? うん、放牧」

たぶん嘘ではないと思う。
この肉のもとになったのが、ただモンスターであるというだけだ。
シノビノサト村の感覚では放牧だ。

ただそのモンスターが肉食で、他のモンスターや動物だけでなく、ひょっとしたら人型の生物まで食べている可能性があるというだけだ。
人間は魔の山に近づかいので、たぶん食べられてないから大丈夫。

「味は山羊っぽいから」
「あっ、ほんとだー、山羊の味するするー」

双子の少女たちは幼いからか、王国史情報室のような暗部と深い関わりがないせいか、疑うことなく食べた。

さすがにリリィの方は俺の態度から何かを察したらしく、口にするのを躊躇していたが、えいっ、という勢いで食べた。

目をつぶってもごもごしていたが、「美味しい」と確かに呟いた。

よしっ!

俺はガッツポーズを作った。

女の子は食べないとか、若い子は嫌うとか、意味不明な言い訳を並べ立てていたに、この事実をきちんと伝えてきっと食べさせよう。

無理やりでは決してない。
もちろん、心配させられた腹いせをしようと考えているわけでもない。

「フフフ……」と不敵に笑いだした俺を見て、リリィは本気で怯えた様子で、ローシャとミーシャは可笑しそうに笑って真似し出した。




◇◇◇あとがき◇◇◇

奴隷たちのフウマへの態度が、書籍版とWeb版で異なるのは、フウマへの信仰心の有無の違いです。

次回は、美少女冒険者パーティーの話の予定です。

「書籍版のキャラクターに関するこぼれ話(ネタバレあり)」を投稿しました。
かなり長くなり、近況ボードの文字数の制限に引っかかったので、本編の上部に掲載しました。
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