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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

リリィ 9

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夕焼け色の世界の中、俺がリリィの双子の妹たちを連れて買い付け隊のもとに戻ると、ちょっとした騒動になった。

リリィが突然、双子に向かって駆け出し、泣きながら抱きついたのだ。

「ミーシャ! ローシャ!」

リリィが愛しそうに名を呼ぶと、そばかすいっぱいの金髪の双子――ミーシャとローシャも、俺の肩から下りて、駆け出しながら同時に嬉しそうに叫んだ。

「――お姉ちゃんっ!」

ミーシャとローシャの顔はリリィと似ていない。
けれど、泣き顔はそっくりだった。

(血が繋がってなくても、やっぱ姉妹なんだな……)

俺は、先程まで双子を担いでいた肩を回した。

スキルを使用したので、長時間運ばれた双子の体にもダメージは残っていないはずだ。

ただ、最初はきゃあきゃあはしゃいでいた双子たちが、途中から何も言わなくなったのが少し気になった。

双子は一軒家に軟禁されていたが、心身共に異常がないことは確認済みだ。

(もしかして馬に乗った追っ手をまいた時に少しばかり本気で走ったのがいけなかったのかな……?)

追っ手の乗馬技術も馬もなかなかのものだったので、かなりの速度で走ったのだ。

再会を喜ぶ3人を邪魔しないように、そっと俺のそばに寄ってきたラスクが、俺にだけ聞こえる声で囁いた。

「やっぱ、事情持ちでしたか……」

「気づいてたのか?」

「いえ。……さすがにフウマさんのように、細かな事情はわかりませんでしたし、正直半々くらいかな、と。それで、もしもの時に対応しやすいように、俺とフウマさんがいる馬車に乗せたんです」

「なるほど」

俺は頷きながら、ラスクの的確な判断に驚いていた。

(……ほんと、凄いな)

なんで宗教都市ロウがそれなりに回っているのか不思議に思っていたが、こうした人物が頑張っているからなのかもしれない。

イーサーや他のみんなも寄ってきた。

俺は申し訳なく思い、1度頭を下げた。

「待たせてすまない。ただ……詳しい事情は話せないんだ」

〈過去見幻草〉は秘密。王国史情報室の暗部も話せない。

俺の態度を見て、イーサーは朗らかに笑った。髭面だが、笑うと子供っぽい。

「先輩は、理由もなく待たせたりしないでしょ? 言えないだけで事情があるってことくらいわかりますよ」

「イーサーの言う通りです」

ラスクの言葉に、隊商の男たちもうんうんと頷いた。

人に言えないことの1つや2つ、あの宗教都市ロウの大混乱の時に誰もが経験しているのだろう。

「上手く行ったようで良かったですね」というようなセリフを何人かにかけられて、救われた気持ちになった。

(世の中を動かしているのは、なにも王家や王国史情報室のような連中だけじゃないんだ……)

冒険者は信じられないほどブラックな仕事だ。

中でも、ラスクのような中間管理職は大変だろう。

けど――。

ラスクが満足そうに何度も頷きながら、姉妹を見ているのを見て、俺はなんとなく、ラスクが過酷な仕事を続けている理由がわかった気がした。 

買い付け隊の野営地には、いい匂いをさせながら、夕飯の支度のための煙が上がっている。

夕日を見上げると、アイリーンの肖像画を見上げた時のことを思い出した。

いつもより夕陽が目に染みて、眩しい気がした。
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