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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
意外な再会
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白昼夢に怯えた俺は、かつて攻略した最難関ダンジョンに向かった。
宗教都市ロウの乗合馬車の出発まで時間を潰すためだ。
水産都市エレフィンまで1人で移動する気にはなれなかった。
最難関ダンジョンの最深部までの往復を全力で行ったので、白昼夢を見ることはなかった。
ただ、なぜか最深部に焼け焦げた財宝が転がっていて驚いたが。
崩れた城門から歪に差し込む朝日に照らされながら、俺は瓦礫の山となった乗合馬車の停留所で待っていた。
することもないので、ひび割れた足元の地面を見つめていると、ふいに声をかけられた。
「こんなとこで何してんだ? 組合長から依頼を受けたって聞いたんだが……」
顔を上げると、困惑顔を浮かべた髭面の男が見えた。
この前、俺に足を引っ掛けようとしてきた冒険者に成り立てのゴロツキだった。
俺は親しげな雰囲気に混乱した。
少なくとも喧嘩を売られているわけではないだろう。
返事をせずにいると、男は名乗った。
「あぁ、そういやまだ名乗ってなかったな……イーサーだ。あと昨日は悪かった。最近冒険者になりたがる奴が多くて、ふるいにかける役割を担ってたんだ。ちなみにD級冒険者だよ、先輩」
「先輩……」
早朝の強風と白昼夢の孤独感に冷たくなっていた俺の心が、じぃんと温かくなった。
無精髭を生やした四十男が、なぜか愛おしくてたまらなくなった。
「それで、後輩はこんなところで何してるんだ?」
「質問で質問で返すなよ先輩。俺も依頼を受けたんだ。買い付け隊の護衛兼荷運びだ。知ってるのかどうか知らないが、今、宗教都市ロウにはやって来る商人がいない」
「ああ、そうらしいな」
以前、聞き込みしたらそのように聞いた。
「で、そこまで知ってる先輩なら、当然、乗合馬車が出てないってこともわかってるよな?」
「え?」
「今の宗教都市ロウには乗合馬車は来ない。すっ飛ばされてるんだ、この街だけはな」
考えてみれば当然のことだ。
無法地帯と言われている都市に、乗合馬車が来るわけがない。
気落ちした俺を気遣うように、イーサーが買い付け隊の馬車に乗ればいいと提案してきた。買い付け隊の隊長も許してくれるだろう、と。
俺は二つ返事でこれを受けた。1人で移動すると、どうしても白昼夢に苛まれてしまうのだ。
買い付け隊の集合地に向かうと、俺がイーサーに絡まれそうになった時に助けてくれたベテランのB級冒険者もいた。
イーサーの口ぶりや俺のことを伝える様子から、彼がこの隊のリーダーだとわかった。
「フウマさん! おはようございます」
どこか敬意の感じる声を発したベテランの声に、空箱や大きな袋などを積み込んでいた男たちが一斉にこちらを振り向いた。
女の姿がないのは、少しでも隊が襲われる確率を減らすためだろう。
女は略奪の対象になりやすいので、女連れだと、野盗団などに襲われる確率が高くなるのだ。
「ああ……お、おはよう」
当たり前のように挨拶されたが、こういう経験は実は初めてだった。
アレクサンダーが颯爽と肩で風を切り、その後にエリーゼとフェルノが続き、それに3歩遅れるようにして俺……という勇者パーティーを見て、俺に挨拶してくる怖いもの知らずなどいなかったのだ。
俺に挨拶するためにアレクサンダーの進行を妨げたなら、ぶん殴られるに違いなかった。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、俺はラスク。この買い付け隊のリーダーをしています」
無精髭を生やした男が多い現在の宗教都市ロウの冒険者の中で、ラスクは珍しく綺麗に髭を剃っていた。
おそらく今朝も丁寧に髭を剃ったんだろう。髪型もどことなく整っている。
俺が顎の辺りを見ていることに気づいた男は、顎を撫でながら笑った。
「あぁ、髭を剃ってるのが気になりますか? 俺はこの隊のリーダーとして、行商人や商家との交渉を任されているんです。だから身だしなみには気をつけているんですよ」
なるほど、と俺は頷いた。
意外と好意的な冒険者の視線が集まる中、ラスクが俺に近寄ってきて耳元で囁いた。
「イーサーから聞きました。馬車に同乗することは構いませんが、水産都市エレフィンまではおそらく行かないと思います。買い付けの状況次第ですが、……よろしいですか?」
「ああ、問題ない」
途中まででも白昼夢を見ないなら十分ありがたい。
ただなぜ小声で話しかけられたのかわからず困惑していると、それに気づいたらしくラスクは説明してくれた。
「例の場所の情報は、あまり一般には広めたくないんです。ありもしない希望にすがりたくなる者たちが、この街にも溢れてますからね」
気休め程度ですが、とラスクは口にした。
確かに、人の口には戸が立てられないし、おそらく大部分の者たちは「天国に至る迷宮」について知っているはずだ。
それでも、何度も話題にすれば余計に興味を引いてしまうだろう。
ましてこの街の顔となった冒険者ギルド組合長が、この件を重く受け止めていて、俺に指名依頼を出したと知れたら、いろいろな意味でまずい。
(俺が元勇者パーティーのメンバーだってことも、組合長の依頼で『天涯』に向かうってことも、黙っている必要があるかもな……)
俺は気を引き締め直した。
◇◇◇あとがき◇◇◇
むさ苦しい展開は今回だけで、次回は可愛い女の子が登場する予定です。
「書籍版のウリ その2」を近況ボードにて公開しました。
ちなみに今回は分割せずに済みました。
宗教都市ロウの乗合馬車の出発まで時間を潰すためだ。
水産都市エレフィンまで1人で移動する気にはなれなかった。
最難関ダンジョンの最深部までの往復を全力で行ったので、白昼夢を見ることはなかった。
ただ、なぜか最深部に焼け焦げた財宝が転がっていて驚いたが。
崩れた城門から歪に差し込む朝日に照らされながら、俺は瓦礫の山となった乗合馬車の停留所で待っていた。
することもないので、ひび割れた足元の地面を見つめていると、ふいに声をかけられた。
「こんなとこで何してんだ? 組合長から依頼を受けたって聞いたんだが……」
顔を上げると、困惑顔を浮かべた髭面の男が見えた。
この前、俺に足を引っ掛けようとしてきた冒険者に成り立てのゴロツキだった。
俺は親しげな雰囲気に混乱した。
少なくとも喧嘩を売られているわけではないだろう。
返事をせずにいると、男は名乗った。
「あぁ、そういやまだ名乗ってなかったな……イーサーだ。あと昨日は悪かった。最近冒険者になりたがる奴が多くて、ふるいにかける役割を担ってたんだ。ちなみにD級冒険者だよ、先輩」
「先輩……」
早朝の強風と白昼夢の孤独感に冷たくなっていた俺の心が、じぃんと温かくなった。
無精髭を生やした四十男が、なぜか愛おしくてたまらなくなった。
「それで、後輩はこんなところで何してるんだ?」
「質問で質問で返すなよ先輩。俺も依頼を受けたんだ。買い付け隊の護衛兼荷運びだ。知ってるのかどうか知らないが、今、宗教都市ロウにはやって来る商人がいない」
「ああ、そうらしいな」
以前、聞き込みしたらそのように聞いた。
「で、そこまで知ってる先輩なら、当然、乗合馬車が出てないってこともわかってるよな?」
「え?」
「今の宗教都市ロウには乗合馬車は来ない。すっ飛ばされてるんだ、この街だけはな」
考えてみれば当然のことだ。
無法地帯と言われている都市に、乗合馬車が来るわけがない。
気落ちした俺を気遣うように、イーサーが買い付け隊の馬車に乗ればいいと提案してきた。買い付け隊の隊長も許してくれるだろう、と。
俺は二つ返事でこれを受けた。1人で移動すると、どうしても白昼夢に苛まれてしまうのだ。
買い付け隊の集合地に向かうと、俺がイーサーに絡まれそうになった時に助けてくれたベテランのB級冒険者もいた。
イーサーの口ぶりや俺のことを伝える様子から、彼がこの隊のリーダーだとわかった。
「フウマさん! おはようございます」
どこか敬意の感じる声を発したベテランの声に、空箱や大きな袋などを積み込んでいた男たちが一斉にこちらを振り向いた。
女の姿がないのは、少しでも隊が襲われる確率を減らすためだろう。
女は略奪の対象になりやすいので、女連れだと、野盗団などに襲われる確率が高くなるのだ。
「ああ……お、おはよう」
当たり前のように挨拶されたが、こういう経験は実は初めてだった。
アレクサンダーが颯爽と肩で風を切り、その後にエリーゼとフェルノが続き、それに3歩遅れるようにして俺……という勇者パーティーを見て、俺に挨拶してくる怖いもの知らずなどいなかったのだ。
俺に挨拶するためにアレクサンダーの進行を妨げたなら、ぶん殴られるに違いなかった。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、俺はラスク。この買い付け隊のリーダーをしています」
無精髭を生やした男が多い現在の宗教都市ロウの冒険者の中で、ラスクは珍しく綺麗に髭を剃っていた。
おそらく今朝も丁寧に髭を剃ったんだろう。髪型もどことなく整っている。
俺が顎の辺りを見ていることに気づいた男は、顎を撫でながら笑った。
「あぁ、髭を剃ってるのが気になりますか? 俺はこの隊のリーダーとして、行商人や商家との交渉を任されているんです。だから身だしなみには気をつけているんですよ」
なるほど、と俺は頷いた。
意外と好意的な冒険者の視線が集まる中、ラスクが俺に近寄ってきて耳元で囁いた。
「イーサーから聞きました。馬車に同乗することは構いませんが、水産都市エレフィンまではおそらく行かないと思います。買い付けの状況次第ですが、……よろしいですか?」
「ああ、問題ない」
途中まででも白昼夢を見ないなら十分ありがたい。
ただなぜ小声で話しかけられたのかわからず困惑していると、それに気づいたらしくラスクは説明してくれた。
「例の場所の情報は、あまり一般には広めたくないんです。ありもしない希望にすがりたくなる者たちが、この街にも溢れてますからね」
気休め程度ですが、とラスクは口にした。
確かに、人の口には戸が立てられないし、おそらく大部分の者たちは「天国に至る迷宮」について知っているはずだ。
それでも、何度も話題にすれば余計に興味を引いてしまうだろう。
ましてこの街の顔となった冒険者ギルド組合長が、この件を重く受け止めていて、俺に指名依頼を出したと知れたら、いろいろな意味でまずい。
(俺が元勇者パーティーのメンバーだってことも、組合長の依頼で『天涯』に向かうってことも、黙っている必要があるかもな……)
俺は気を引き締め直した。
◇◇◇あとがき◇◇◇
むさ苦しい展開は今回だけで、次回は可愛い女の子が登場する予定です。
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ちなみに今回は分割せずに済みました。
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