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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
頼もしい味方たち
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シノビノサト村がある魔の山を下山したリノとセーレア、オゥバァの3人は今後のことを相談した。
「野盗を襲おう」
セーレアが真っ先に意見を述べた。
リノはいきなりの発言にキョトンとした。自分が世間の常識に疎いせいかと思って、長い時を生きるダークエルフのオゥバァに視線を向けたが、オゥバァも目をまん丸にしていた。
どうやら常識がないのは目の前の青髪の女であるようだった。
「どうして?」
オゥバァの問いに、セーレアはさも当然という様子で答えた。
「一番嫌いだから」
「嫌いだから襲うの?」
「文句ある」
「んー…………ないね」
オゥバァはあっさりと頷いた。
「ま、待ってください!」
心強い仲間を得たと思っていたリノだったが、山を下りた途端にフウマを追うという目的が暗礁に乗り上げそうだった。
「――わ、私たちの目的は、フウマを追い、そして彼と合流することでしょう?」
「そうだったわね」というオゥバァの適当な相づちにこけそうになる。
だが、セーレアの方は真剣な表情で答えた。
「――だから、野盗を襲うのよ」
「ですからなんでですか?」
頭痛を抑えるように幼い少女は額を押さえた。
その様子はどこか馴染んでいて、かつて魔王として君臨していた頃にも似たようなことがあったのかもしれない。
「野盗は悪い奴らよ」
「知ってます」
「私の母を襲ったわ」
「そうなんですか……あれ? なんか違いませんか?」
「幼い頃の数年間ずっと恨んでたから、未だに『野盗』って単語を聞くだけで、怒りが再燃するの」
「…………そ、そうなんですか……」
若干引き気味にリノは答えたが、それからセーレアが語った話は筋が通っていた。
目的地である『天涯』――その最寄りの都市である水産都市エレフィンまでは、かなりの距離がある。
リノやセーレアの体力を考えると、馬車を利用するしかない。
「だけど、宗教都市ロウの現状を思い出してよ」
「……あ」
セーレアの言葉にリノは納得した。
脳裏には、あの半ば崩壊した都市の姿が蘇る。
かつての宗教都市ロウには、何本もの乗合馬車が乗り入れていた。もちろん、水産都市エレフィン行きのものだってあっただろう。
「おそらく今は走ってないわよ」
「それは間違いありません」
リノは頷いた。フウマと一緒に宗教都市ロウに着くまでに近隣の村々で聞いて回ったのだ。都市の現状を。
商魂逞しい行商人でさえ遠回りして避けるというのに、乗合馬車だけ走っているわけがない。
「じゃあ、フウマはどうやって移動してるんですか?」
「案外、あの箱入り息子は、宗教都市ロウの朝一番の乗合馬車を待ってるかもね」
そうセーレアは答えたが、顔に冗談と書いてあった。
いくら抜けたところのあるフウマでも、そこまでではあるまい。
瓦礫の山となった乗合馬車の停車場で馬車を待つ姿を思い浮かべたリノは、首を振る。非常にシュールな光景だった。
「で、どうやって移動するかというと、馬車を買って、自分で馬を操るのよ。幸い私は御者もできる」
セーレアはそう言ったものの、
「でも馬車を買うお金なんてないでしょ? だから野盗たちが悪いことして貯めたお金を私たちが有効利用するってわけよ」
なるほど、とリノは頷いた。
確かに、シノビノサト村にも「急がば回れ」という諺が伝わっている。
気持ち的には今すぐ走ってフウマを追いたいが、それよりも馬車を手に入れた方が効果的だろう。そもそも本気で移動するフウマに、徒歩のリノとセーレアでは引き離されるばかりだ。
(……そもそもフウマの移動速度を考えたら、馬車より走った方が早いです。馬車なんか使わないでしょう)
そんなことも思いつかないほど自分が焦っていると気づいた。
「では、セーレアの作戦で行きましょう!」
リノの号令のもと、街道に出て、野盗を襲うことにした。幸いほとんど武装もしていない女三人に見えるので、きっと野盗から出てきてくれることだろう。
「あはははは……! 燃えろぉ……! 燃えろぉおお……!!」
野盗団の襲撃を予定通り受け、オゥバァが手加減して野盗の一人を逃して、アジトを見つけたのだが、そこからの展開は、リノの予想の斜め上をいっていて、額を押さえた。
何度目かわからない。
野盗団のアジト入り口では、セーレアが火を放っていた。焚き火程度の可愛らしいものではなく、大人がしゃがんで入れるほどのそれなりに大きな入口を完全に塞ぐほどの炎だ。
セーレアは、その狭い入り口の前で、炎を挟んで立ち塞がり、野盗の一味が炎と煙に耐えかねて飛び出してくると、すかさず〈水の小神〉の加護を使用した〈青乱水濁流〉を放った。
本来、青魔道士が使用できる小さな水の弾丸をばらまく〈乱水飛沫〉はこういう戦いに向かない。狙いが大雑把にしかつけられないためだ。仮に使用しても、ほとんどは入り口周辺の壁に当たるだけだろう。
だが、〈青乱水濁流〉は線。それも狙いがはっきりと定めることができるらしい。
野盗団にとってみれば、距離が無制限とも思えるような無色透明の槍が、いきなり入り口から突っ込まれるようなものだった。
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
「これは……ひどい」
柱のように突き出た岩に腰掛けて、この様子を見下ろしていたダークエルフの声が降ってくる。
オゥバァを見上げたリノは尋ねた。
「本当に囚われている人とかいないんですよね?」
「風に聞いたから間違いないわ」
「そうですか……」
思うところがないわけではないが、先を急ぎたい。
「ちくしょう! 青魔道士の癖に火なんか使いやがって……! こんなの魔道士の戦い方じゃねぇぞ!」
野盗団のボスと思しき大男が、血まみれの大きな山刀を持って飛び出し、セーレアに怒鳴った。
「「たしかに……!」」
リノとオゥバァは頷いた。セーレアは躊躇いもなく枯れ木を集めて火を放ったのだ。
野盗の大男は、たった1人で立つリノに迫った。
躊躇いなく小柄な少女の太ももに刃を突き立てようとする。
この男ならリノを人質にしながら片手で運べるだろう。逃走できないように足に怪我を負わせようとしたらしい。
「はい、そこ、まで」
いつの間にか岩から飛び降りていたオゥバァの手元で、細剣がくるりと回った。
細剣で突くのではなく、斬ることで倒された男は、驚愕に目を見開いた。
「ふぅ……やっぱ悪党退治すると気持ちいいわね!」
離れたところにいるセーレアが清々しい笑顔を浮かべて額の汗を拭っていた。
リノは何度目かの頭痛を抑えるような仕草をした。
「野盗を襲おう」
セーレアが真っ先に意見を述べた。
リノはいきなりの発言にキョトンとした。自分が世間の常識に疎いせいかと思って、長い時を生きるダークエルフのオゥバァに視線を向けたが、オゥバァも目をまん丸にしていた。
どうやら常識がないのは目の前の青髪の女であるようだった。
「どうして?」
オゥバァの問いに、セーレアはさも当然という様子で答えた。
「一番嫌いだから」
「嫌いだから襲うの?」
「文句ある」
「んー…………ないね」
オゥバァはあっさりと頷いた。
「ま、待ってください!」
心強い仲間を得たと思っていたリノだったが、山を下りた途端にフウマを追うという目的が暗礁に乗り上げそうだった。
「――わ、私たちの目的は、フウマを追い、そして彼と合流することでしょう?」
「そうだったわね」というオゥバァの適当な相づちにこけそうになる。
だが、セーレアの方は真剣な表情で答えた。
「――だから、野盗を襲うのよ」
「ですからなんでですか?」
頭痛を抑えるように幼い少女は額を押さえた。
その様子はどこか馴染んでいて、かつて魔王として君臨していた頃にも似たようなことがあったのかもしれない。
「野盗は悪い奴らよ」
「知ってます」
「私の母を襲ったわ」
「そうなんですか……あれ? なんか違いませんか?」
「幼い頃の数年間ずっと恨んでたから、未だに『野盗』って単語を聞くだけで、怒りが再燃するの」
「…………そ、そうなんですか……」
若干引き気味にリノは答えたが、それからセーレアが語った話は筋が通っていた。
目的地である『天涯』――その最寄りの都市である水産都市エレフィンまでは、かなりの距離がある。
リノやセーレアの体力を考えると、馬車を利用するしかない。
「だけど、宗教都市ロウの現状を思い出してよ」
「……あ」
セーレアの言葉にリノは納得した。
脳裏には、あの半ば崩壊した都市の姿が蘇る。
かつての宗教都市ロウには、何本もの乗合馬車が乗り入れていた。もちろん、水産都市エレフィン行きのものだってあっただろう。
「おそらく今は走ってないわよ」
「それは間違いありません」
リノは頷いた。フウマと一緒に宗教都市ロウに着くまでに近隣の村々で聞いて回ったのだ。都市の現状を。
商魂逞しい行商人でさえ遠回りして避けるというのに、乗合馬車だけ走っているわけがない。
「じゃあ、フウマはどうやって移動してるんですか?」
「案外、あの箱入り息子は、宗教都市ロウの朝一番の乗合馬車を待ってるかもね」
そうセーレアは答えたが、顔に冗談と書いてあった。
いくら抜けたところのあるフウマでも、そこまでではあるまい。
瓦礫の山となった乗合馬車の停車場で馬車を待つ姿を思い浮かべたリノは、首を振る。非常にシュールな光景だった。
「で、どうやって移動するかというと、馬車を買って、自分で馬を操るのよ。幸い私は御者もできる」
セーレアはそう言ったものの、
「でも馬車を買うお金なんてないでしょ? だから野盗たちが悪いことして貯めたお金を私たちが有効利用するってわけよ」
なるほど、とリノは頷いた。
確かに、シノビノサト村にも「急がば回れ」という諺が伝わっている。
気持ち的には今すぐ走ってフウマを追いたいが、それよりも馬車を手に入れた方が効果的だろう。そもそも本気で移動するフウマに、徒歩のリノとセーレアでは引き離されるばかりだ。
(……そもそもフウマの移動速度を考えたら、馬車より走った方が早いです。馬車なんか使わないでしょう)
そんなことも思いつかないほど自分が焦っていると気づいた。
「では、セーレアの作戦で行きましょう!」
リノの号令のもと、街道に出て、野盗を襲うことにした。幸いほとんど武装もしていない女三人に見えるので、きっと野盗から出てきてくれることだろう。
「あはははは……! 燃えろぉ……! 燃えろぉおお……!!」
野盗団の襲撃を予定通り受け、オゥバァが手加減して野盗の一人を逃して、アジトを見つけたのだが、そこからの展開は、リノの予想の斜め上をいっていて、額を押さえた。
何度目かわからない。
野盗団のアジト入り口では、セーレアが火を放っていた。焚き火程度の可愛らしいものではなく、大人がしゃがんで入れるほどのそれなりに大きな入口を完全に塞ぐほどの炎だ。
セーレアは、その狭い入り口の前で、炎を挟んで立ち塞がり、野盗の一味が炎と煙に耐えかねて飛び出してくると、すかさず〈水の小神〉の加護を使用した〈青乱水濁流〉を放った。
本来、青魔道士が使用できる小さな水の弾丸をばらまく〈乱水飛沫〉はこういう戦いに向かない。狙いが大雑把にしかつけられないためだ。仮に使用しても、ほとんどは入り口周辺の壁に当たるだけだろう。
だが、〈青乱水濁流〉は線。それも狙いがはっきりと定めることができるらしい。
野盗団にとってみれば、距離が無制限とも思えるような無色透明の槍が、いきなり入り口から突っ込まれるようなものだった。
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
「これは……ひどい」
柱のように突き出た岩に腰掛けて、この様子を見下ろしていたダークエルフの声が降ってくる。
オゥバァを見上げたリノは尋ねた。
「本当に囚われている人とかいないんですよね?」
「風に聞いたから間違いないわ」
「そうですか……」
思うところがないわけではないが、先を急ぎたい。
「ちくしょう! 青魔道士の癖に火なんか使いやがって……! こんなの魔道士の戦い方じゃねぇぞ!」
野盗団のボスと思しき大男が、血まみれの大きな山刀を持って飛び出し、セーレアに怒鳴った。
「「たしかに……!」」
リノとオゥバァは頷いた。セーレアは躊躇いもなく枯れ木を集めて火を放ったのだ。
野盗の大男は、たった1人で立つリノに迫った。
躊躇いなく小柄な少女の太ももに刃を突き立てようとする。
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「はい、そこ、まで」
いつの間にか岩から飛び降りていたオゥバァの手元で、細剣がくるりと回った。
細剣で突くのではなく、斬ることで倒された男は、驚愕に目を見開いた。
「ふぅ……やっぱ悪党退治すると気持ちいいわね!」
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