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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
その頃1階では…
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組合長と黒髪の少年たちが2階に上がると、見送った冒険者たちは、口々に噂話を始めた。
話題の中心は、当然、謎の黒髪の少年だ。
「何者なんだ?」
新人の声に、中堅の冒険者の1人が答えた。
「あの黒髪黒眼……確か元勇者パーティーの一員じゃあ……」
「勇者パーティーは3人じゃないのか?」
「……ほら、あの荷物持ちだか、盗賊だかじゃないのか……」
答えた冒険者も自信なさげだった。
他の3人が見た目や家柄などが凄かったため、ほとんど印象がないのだろう。
だが、ベテランの方は情報収集も欠かしていないせいか、かなり具体的な事情を知っていた。
「なんでも最難関ダンジョン攻略の成功報酬で揉めたらしく、パーティーを追放されたらしいぜ」
「それより俺は、勇者アレクサンダーを倒したって話さえ聞いたぞ? あれって本当なのか?」
「いや、さすがにそいつは眉唾だろう。アレクサンダーは歴代の勇者の中でも、装備品を含めれば最強クラスだったって話だ。強力な炎を操るマジックアイテムを赤魔道士組合から与えられていたって噂まであるほどだぜ」
「王家からも赤魔道士組合からも〈治癒神の御手教会〉からも手厚くもてなされていたしな。装備品も超一級品のみで構成されていた」
職業には絶対的な差がある。仮にアレクサンダーが勇者としての経験がほとんど皆無で、盗賊がベテランだったとしても、勝負にならないほどに。
その上、武装にも圧倒的な開きがあるのだ。
「〈天雷の塔〉に囚われた竜を逃した一件にも関わっていたとか……」
一時期話題になったものの、その後の都市内の大混乱のせいで、ほとんど忘れかけていた事件だ。
早口でまくし立てるように意見交換が進み、おおかた情報が出尽くして、場が落ち着いた。
それを見計らっていたかのように、元情報屋のゴロツキが発言した。冒険者になって日は浅いが、情報屋としてはそれなりに名が通っていた。
「俺の聞いた話じゃ、魔の山に住んでるって話も――」
だが、そのセリフは新人だけでなく、全員に一笑に付された。
「ハハハ! さすがにそいつは嘘だろ!」
「あんな場所に人間が住めるもんかよっ」
「いや本当だって!」
元情報屋のゴロツキは身振りを交えて説明する。
「魔の山から人が出てくるのを見た目撃者もいるし、明かりを持つ集団の目撃談も……」
「明かりって、どうせ例のキメラだろ? 尾を光らせる」
「あのキメラは同士討ちもするから、集団生活はしないんだ。だから……」
黙って話を聞いていたベテランが、おもむろに口を挟んだ。
「……もしあんな場所に住めるとしたら、村人全員が化け物か、それ以上の存在だろうぜ」
誰一人として、魔の山に隠れ里があるという話を信じない。
秘境に人が住み着くなどということは、常識的に考えてありえないことなのだ。
壁を造り、兵力を常駐させ、それでやっと暮らしていけるほど一般人はか弱い存在だというのが常識だ。
もし危険地帯にある隠れ里の話が本当なら、そこに住む村人全員が最高位冒険者のような手練ればかりということになってしまう。女も、子供も、老人もだ。
不満そうに元情報屋のゴロツキは口をつぐんだ。
大爆笑が終わると、場の空気が一気に落ち着いた。
「いったいなんの依頼なんだろうな?」
冒険者の1人がそう呟いて上を向くと、倣うように他の冒険者たちも天井を見上げた。
話題の中心は、当然、謎の黒髪の少年だ。
「何者なんだ?」
新人の声に、中堅の冒険者の1人が答えた。
「あの黒髪黒眼……確か元勇者パーティーの一員じゃあ……」
「勇者パーティーは3人じゃないのか?」
「……ほら、あの荷物持ちだか、盗賊だかじゃないのか……」
答えた冒険者も自信なさげだった。
他の3人が見た目や家柄などが凄かったため、ほとんど印象がないのだろう。
だが、ベテランの方は情報収集も欠かしていないせいか、かなり具体的な事情を知っていた。
「なんでも最難関ダンジョン攻略の成功報酬で揉めたらしく、パーティーを追放されたらしいぜ」
「それより俺は、勇者アレクサンダーを倒したって話さえ聞いたぞ? あれって本当なのか?」
「いや、さすがにそいつは眉唾だろう。アレクサンダーは歴代の勇者の中でも、装備品を含めれば最強クラスだったって話だ。強力な炎を操るマジックアイテムを赤魔道士組合から与えられていたって噂まであるほどだぜ」
「王家からも赤魔道士組合からも〈治癒神の御手教会〉からも手厚くもてなされていたしな。装備品も超一級品のみで構成されていた」
職業には絶対的な差がある。仮にアレクサンダーが勇者としての経験がほとんど皆無で、盗賊がベテランだったとしても、勝負にならないほどに。
その上、武装にも圧倒的な開きがあるのだ。
「〈天雷の塔〉に囚われた竜を逃した一件にも関わっていたとか……」
一時期話題になったものの、その後の都市内の大混乱のせいで、ほとんど忘れかけていた事件だ。
早口でまくし立てるように意見交換が進み、おおかた情報が出尽くして、場が落ち着いた。
それを見計らっていたかのように、元情報屋のゴロツキが発言した。冒険者になって日は浅いが、情報屋としてはそれなりに名が通っていた。
「俺の聞いた話じゃ、魔の山に住んでるって話も――」
だが、そのセリフは新人だけでなく、全員に一笑に付された。
「ハハハ! さすがにそいつは嘘だろ!」
「あんな場所に人間が住めるもんかよっ」
「いや本当だって!」
元情報屋のゴロツキは身振りを交えて説明する。
「魔の山から人が出てくるのを見た目撃者もいるし、明かりを持つ集団の目撃談も……」
「明かりって、どうせ例のキメラだろ? 尾を光らせる」
「あのキメラは同士討ちもするから、集団生活はしないんだ。だから……」
黙って話を聞いていたベテランが、おもむろに口を挟んだ。
「……もしあんな場所に住めるとしたら、村人全員が化け物か、それ以上の存在だろうぜ」
誰一人として、魔の山に隠れ里があるという話を信じない。
秘境に人が住み着くなどということは、常識的に考えてありえないことなのだ。
壁を造り、兵力を常駐させ、それでやっと暮らしていけるほど一般人はか弱い存在だというのが常識だ。
もし危険地帯にある隠れ里の話が本当なら、そこに住む村人全員が最高位冒険者のような手練ればかりということになってしまう。女も、子供も、老人もだ。
不満そうに元情報屋のゴロツキは口をつぐんだ。
大爆笑が終わると、場の空気が一気に落ち着いた。
「いったいなんの依頼なんだろうな?」
冒険者の1人がそう呟いて上を向くと、倣うように他の冒険者たちも天井を見上げた。
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