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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
宗教都市ロウ再訪
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――冒険者ギルド組合長の執務室を訪れる少し前――。
組合長に指名依頼を受けた俺は、リノと共に久しぶりに宗教都市ロウの城門をくぐった。
崩落や大火災などにより、都市機能をほとんど停止した街には、いまだに4分の1ほどの人口が住み着いている様子だった。
あくまで大通りを眺めた印象なので、これより少ないかもしれない。
「4分の3も死んだとは考えづらいから、たぶん移住者が大勢出たんだろうな」
冒険者ギルドに向かって歩みを進める俺の呟きに、隣を歩くリノが考え込んでから答えた。
「……たぶん奴隷や身寄りのない人が残ってる」
言われてみると、通りで見かけるのは魔族や獣人、エルフが多い。
以前は、人間種の中にそうした異種族が交じっている印象だったが、今は各種族が同じくらいいるように見えた。
「行商人が迂回するだの、無法地帯になってるだの、悪い噂ばかり散々聞いてきて、正直リノをシノビノサト村に置いて来ようかと思ったが、連れていても問題なさそうだな」
きゅっと手を握られた。
隣を見下ろすと、小柄な少女が俺の手を握っているのが見えた。
「――だめ」
「わかってるよ」
リノは過保護だった。
詳しくは知らないが、魔王だったのだから、俺より年上のはずだ。それとも魔王とはそういう存在ではないのだろうか。
幼い外見の少女から見ても、いまだに俺は不安定に見えるらしい。
「しかし組合長からの呼び出しなんて、久しぶりだな……」
俺の言葉に、リノが視線を送ってくる。
促すような青い瞳に従い、少し重くなった口を開く。
「……以前呼ばれた時は…………勇者パーティーへの加入依頼だったんだ」
勇者アレクサンダーと癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノ。彼ら3人のパーティーに加入して欲しいという依頼だった。
神話の時代から冒険者は4人パーティーで行動するというのが一般的だ。
3人だけというチームも少なくないが、たいていは4人。2人はまずなく、5人以上はあり得ない。
その理由は知らないが、かつて魔王を討伐した治癒神を含む至高神たちも4柱でパーティーを組んでいたそうだ。それが有名な神話として残っている。
無言で歩く俺たちに変な視線を送ってくる者もいないし、絡んでくる者もいない。
おかげでゆっくりと物思いに耽ったり、市街戦後の街を観察したりできた。
倒壊した家屋や瓦礫は、まだ完全に撤去されていないし、商店は潰れたままで露天商ばかりだ。
行商人が荷馬車ごと落っこちそうな大穴だって通りのど真ん中に空いたままだ。
この様子を見る限り、王家や他の大組織が復興に手を貸している様子はない。
王家や〈教会〉の支部などはいったい何してるんだろう、という気分になる。
通りには物乞いだっているし、怪我をしている者だっている。
だが――。
「意外と平穏だよな」
カツアゲのような真似をする者もなく、かっぱらいも見かけない。
むしろ以前の方が暴行現場を見かけたような気がする。
「みんな仲良し」
リノの言葉に頷く。
最大の理由は、奴隷たちに対する理不尽な迫害を見かけなくなったせいだろう。
今も魔族と獣人の少年が、人間と一緒になって瓦礫に太い木の棒を差し込み、撤去しようとしている。
冒険者ギルドに向かう俺とリノは、そんな珍しい光景を眺めながら歩いた。
「種族に関係なく肩を寄せ合って暮らしていけるのは、シノビノサト村くらいかと思ってたがな」
シノビノサト村も、エルフや獣人、魔族の元奴隷たち20人ほどと、ドワーフたち数人が住み着いている。
やっとの思いで瓦礫を撤去した魔族の少年が、ツノの生えた額の汗を拭い、
「こうして協力し合えるなんて、天国みたいだ」
とぽつりと呟いた。
そのセリフがいやに耳に残った。
組合長に指名依頼を受けた俺は、リノと共に久しぶりに宗教都市ロウの城門をくぐった。
崩落や大火災などにより、都市機能をほとんど停止した街には、いまだに4分の1ほどの人口が住み着いている様子だった。
あくまで大通りを眺めた印象なので、これより少ないかもしれない。
「4分の3も死んだとは考えづらいから、たぶん移住者が大勢出たんだろうな」
冒険者ギルドに向かって歩みを進める俺の呟きに、隣を歩くリノが考え込んでから答えた。
「……たぶん奴隷や身寄りのない人が残ってる」
言われてみると、通りで見かけるのは魔族や獣人、エルフが多い。
以前は、人間種の中にそうした異種族が交じっている印象だったが、今は各種族が同じくらいいるように見えた。
「行商人が迂回するだの、無法地帯になってるだの、悪い噂ばかり散々聞いてきて、正直リノをシノビノサト村に置いて来ようかと思ったが、連れていても問題なさそうだな」
きゅっと手を握られた。
隣を見下ろすと、小柄な少女が俺の手を握っているのが見えた。
「――だめ」
「わかってるよ」
リノは過保護だった。
詳しくは知らないが、魔王だったのだから、俺より年上のはずだ。それとも魔王とはそういう存在ではないのだろうか。
幼い外見の少女から見ても、いまだに俺は不安定に見えるらしい。
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俺の言葉に、リノが視線を送ってくる。
促すような青い瞳に従い、少し重くなった口を開く。
「……以前呼ばれた時は…………勇者パーティーへの加入依頼だったんだ」
勇者アレクサンダーと癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノ。彼ら3人のパーティーに加入して欲しいという依頼だった。
神話の時代から冒険者は4人パーティーで行動するというのが一般的だ。
3人だけというチームも少なくないが、たいていは4人。2人はまずなく、5人以上はあり得ない。
その理由は知らないが、かつて魔王を討伐した治癒神を含む至高神たちも4柱でパーティーを組んでいたそうだ。それが有名な神話として残っている。
無言で歩く俺たちに変な視線を送ってくる者もいないし、絡んでくる者もいない。
おかげでゆっくりと物思いに耽ったり、市街戦後の街を観察したりできた。
倒壊した家屋や瓦礫は、まだ完全に撤去されていないし、商店は潰れたままで露天商ばかりだ。
行商人が荷馬車ごと落っこちそうな大穴だって通りのど真ん中に空いたままだ。
この様子を見る限り、王家や他の大組織が復興に手を貸している様子はない。
王家や〈教会〉の支部などはいったい何してるんだろう、という気分になる。
通りには物乞いだっているし、怪我をしている者だっている。
だが――。
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むしろ以前の方が暴行現場を見かけたような気がする。
「みんな仲良し」
リノの言葉に頷く。
最大の理由は、奴隷たちに対する理不尽な迫害を見かけなくなったせいだろう。
今も魔族と獣人の少年が、人間と一緒になって瓦礫に太い木の棒を差し込み、撤去しようとしている。
冒険者ギルドに向かう俺とリノは、そんな珍しい光景を眺めながら歩いた。
「種族に関係なく肩を寄せ合って暮らしていけるのは、シノビノサト村くらいかと思ってたがな」
シノビノサト村も、エルフや獣人、魔族の元奴隷たち20人ほどと、ドワーフたち数人が住み着いている。
やっとの思いで瓦礫を撤去した魔族の少年が、ツノの生えた額の汗を拭い、
「こうして協力し合えるなんて、天国みたいだ」
とぽつりと呟いた。
そのセリフがいやに耳に残った。
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