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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その30――アイリーン女王のバスタイム

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アイリーンにとって、入浴は最高の楽しみの1つだった。

全体的に薄汚いシノビノサト村にあって、温泉と呼ばれる入浴施設だけは、彼女も認めていたものだ。

(……それにしても……)

あまりの自分の才覚に、彼女は全身が総毛だつ思いだった。

1度は辺境というのも生ぬるい、最果ての魔境にまで追い込まれた。

だがジッチャンとも村長とも呼ばれる老人に、彼女はすぐさま取り入ることに成功した。

――彼は、殺したくなかったのだ。

外見は愛らしい少女でしかないアイリーン。

まだ幼く、彼女の年齢は偶然、そのシノビノサト村の村長の孫と同い年だったのだ。

そして彼女は、暗殺されたということになり、シノビノサト村に連れていってもらえた。

シノビノサト村での日々は彼女にとっては地獄だった。

王宮のきらびやかな生活水準から、一気に農村クラスにまで叩き落されたのだ。

村長に教えられた臥薪嘗胆という言葉を毎日実践しているような思いだった。

柔らかい子羊の肉が、キメラの魔物の肉に変わり。
美しい水源から汲み上げられる湧き水が、ただの井戸水に変わった。

「その上、馬鹿なガキにまとわりつかれるし……」

――「友人がいないんだ。……友達になってくれないか?」

そういわれた瞬間、アイリーンはすぐさま返事した。相手は村長のたった1人の家族、可愛い孫なのだ。

王家同様世襲制らしいこの村では、ゆくゆくは村長になるだろう。

その後、彼に

時にはそれは友人としての忠告という体裁を取り、時には男女の違いというものとして。

フウマは、幼かった。

悪い意味で聡明すぎた。アイリーンの語る「正しい友達同士の関係」というものを信じるようになっていったのだ。

友達は彼女しかいない。

そのうえ王宮でさんざん海千山千の大人たちにもまれてきた彼女から見れば、目の前にいるのは赤子同然の無垢な子供だったのだ。

「予想通り、彼はシノビノサト村を飛び出しても、まともな友人などできなかった」

いつだったか嬉しそうに手紙を寄越した時は笑った。

手紙に書かれたエピソードはほんの2、3だったが、彼が「村を出た自分の初めての友達」と呼ぶアレクサンダーやエリーゼ、フェルノらが、彼のことを友達などとは微塵も思っていないことは明白だったから。

「ク、クハハハハ……。おっと……」

つい笑い声を浴室で上げてしまった。

反響した音は意外に響く。

聞き耳を立てて告げ口するようなメイドはそばには置いていないが、新女王としての体裁がある。

「……おもしろい、っていえば、あのフェルノさんもそうですね」

現在、王宮の地下の拷問室で、特別待遇を受けている女のことを思い出す。
彼女は、王家の一流の拷問官たちによって、王家が秘蔵している拷問器具の数々を味わっていた。

無論、アイリーンは、のフウマのために、フェルノに復讐をしてやっているつもりはない。

ただの息抜きだ。

「ふぅ……堅苦しい王宮の勤めも、大変ですものね」

風呂から上がったら、ちょっとだけ地下の拷問室に足を運ぼうとアイリーンは思う。今晩は爪を剥がし終えた足の裏をゆっくりと……こんがりと焼いている最中のはずだった。

王宮には数は少ないが癒し手もいる。フェルノはあと10年や20年は死ねないだろう。もっともアイリーンが飽きれば、赤魔道士組合に払い下げるつもりだったが。

「まさか、競りになって、赤魔道士組合があそこまで値段を吊り上げるなんてね。奴隷1匹の値段にしては高すぎだったけど、……まぁ、仕方ないわね」

今回アイリーンが王宮内での地位を劇的に向上させる役に立った宗教都市ロウの大暴動と崩壊、そしてアイリーン率いる騎士団による鎮圧。

その大混乱の首謀者としてエリーゼの名が真っ先に上がり、当然元仲間のフェルノの名も首謀者の一味として上がったのだ。

(ケチってその辺の安い奴隷を買って拷問してバレたら事ですものね)

その点フェルノは完璧だった。

彼女をいくら拷問し、仮に反アイリーン派の貴族たちに追及されても、痛ましい事件の究明のための一言で済む。なにより自分はあの現場に居合わせ、大活躍した英雄なのだ。

(民衆の英雄にして、女王……あぁ! なんてすばらしいの!)

自らの滑らかな肢体を自分で抱きしめる。
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