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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その26――初恋ふたたび

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「俺は! 俺様はっ!!」

アレクサンダーの息が上がってきた。

口角泡を飛ばし、切れ切れになる息でも、彼の叫び――心からの絶叫は止まらない。

フェルノはその姿を通りの角の物陰に隠れてみているうちに、どうしようもない感情の激流が襲ってきた。

アレクサンダーをどうして好きだったのか。

外見がいいから?

勇者だから?

違う。

そうだ。

どっちも正しい。

けど、1番の理由は、このわけのわからない心音ビートのせいだ。

彼を見ているとわけもなく、胸が高鳴り、下半身がうずくことがある。

それがフェルノがアレクサンダーに股を開いた理由だった。
別に、赤魔道士組合の最高幹部の1人を父親に持つフェルノは、将来が約束されていたのだ。その明るい未来を愚かにも失ったのは、アレクサンダーにそそのかされて、神代マジックアイテムという秘法を赤魔道士組合から盗むことに手を貸すことになったせいだった。

けど、今このとき、フェルノはそんないざこざを忘れた。
過去のいざこざなど、どうでもいいと思えた……!

1歩、物陰から姿を現す。ほぼ全身が露わになる。

この1歩は、死に向かって何千歩も進むことに匹敵する。

この場には、次々に、魔族――
獣族――
エルフ族――
人間族――
異なる種族が顔をのぞかせ、
そのうえ元奴隷だったり、貴族の尖兵だったり、立場が違うのだ。

立場が違うという表現は生ぬるいかもしれない。の者達が集まったといえる。

だが――――。

「俺は――俺のためにィ……ハァハァ……ハァッ……戦って……ぐっ……戦ってんだよぉ! てめぇは、なんのために戦ってんだ! この黒髪の糞野郎っ!!」

アレクサンダーが罵倒を叫ぶとともに振り下ろした剣は、柔らかく、優しく、優雅とさえいえる手つきで、横に流された。

地面を、ガツン、と力いっぱい叩き、痺れに顔をしかめるアレクサンダー。

対して、フウマはほとんどその場から動かず、曖昧な笑みを浮かべたままだった。

(……どうして、殺さないのかな?)

疑問が湧いたが、フェルノはかつてシノビノサト村を襲った時に、自分もアレクサンダーも命が助かったことを思い出した。
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