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第Ⅲ章 王国の争い
元勇者パーティーの後日談その6――フウマの思い
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俺は、できる限り、生かそうとした。
誰を?
何を?
そんなのはわからない。
ただひたすら、目の前にいる「誰かに襲い掛かる何かを」蹴散らしたに過ぎない。
口から涎をまき散らし、目を血走らせる獣人。
すらりとした細長い指で目をえぐろうとするエルフ族。
額に生えた角で眼球を串刺しにする魔族。
「……っ!」
俺はあえて獣人やエルフ、魔族と認識せず、ただ敵――モンスターとして処理した。
「……こんな大騒ぎだ! 絶対に王家や赤魔道士組合、〈治癒神の御手教会〉が対処するに違いない」
すぐそばにいるリノに言う。
リノは忍術をわずかながら覚え、分身や〈影走り〉を使って、器用に襲い掛かってくるさまざまな者から身を守っていた。
最悪だったのは、女子供老人だからとて味方だとは限らないということだ。
女子供も、立派な奴隷だ。
リノだって元は奴隷だ。
奴隷達は、ひたすらに奴隷でない存在に牙を剥く。
奴隷かどうかなんて判断は、普通はできない。
だが彼らは、ただ服装の良い者や食生活が充実していそうな者を見つけては襲い掛かっているに過ぎない。
「まずい……このままじゃ……」
リノが口走る。
「まずい、って何がさ……」
俺の〈手刀〉が奴隷の女の首をはねた。獣人の女。栗色の髪がぼさぼさだったが、長い。きっと生前は美しかったのだろう。〈最上位職〉であるフウマの俺には、つぶさに観察できるだけの時間的猶予があった。
〈手刀〉の衝撃波で空き樽がいくつも爆散したかのようになる。
「……たぶん、心が、もたない」
「リノ……つらいなら」
「フウマのこと。……なぜ、泣いてる」
「……え?」
俺は目を手の甲でぬぐった。
涙で濡れている。
口元もついでに拭うと、吐瀉物がついた。
おいおい、と口の中でつぶやく。
どうやら俺はあまりのこの状況の気持ち悪さと罪悪感に、無意識に吐いていたらしい。あげくに泣いていたのだ。……情けない。
「絶対に、フウマ、向いてない」
「何にだよ」
「シノビにも、人殺し……にも」
「それは、誰だって、そうさ」
そううそぶく。
ここまで言われ、自分の状態を認識すればわかる。
このままだと、敵をすべて倒せても、俺の心が折れる。おそらくいかなる青魔道士の回復魔法でも癒せないような心の傷を負うことになるだろう。
(末はジッチャンみたいに、シノビノサト村にこもるかな……)
そんな想像をめぐらせる。
もしかしたらジッチャンもこうして心を折るような戦いに参加し、癒えぬ傷を負って、ただ村にこもって生活する毎日を選んだのかもしれない。
「けどさ、リノ」
俺はリノを振り向く。
「ん?」
「俺は決めたんだ。せめて最後まで、勇者達――アレクサンダーやフェルノ、エリーゼのことを見届けようって」
「…………」
「きっとこの騒動にはあの3人の誰かが絡んでる。全員かもしれないし、1人かもしれない。でもそんなことは関係ない。……俺は――」
拳を握り、近寄ってきた屈強な老いた獣人を殴り倒す。
「彼らの元パーティーメンバーなんだ」
誰を?
何を?
そんなのはわからない。
ただひたすら、目の前にいる「誰かに襲い掛かる何かを」蹴散らしたに過ぎない。
口から涎をまき散らし、目を血走らせる獣人。
すらりとした細長い指で目をえぐろうとするエルフ族。
額に生えた角で眼球を串刺しにする魔族。
「……っ!」
俺はあえて獣人やエルフ、魔族と認識せず、ただ敵――モンスターとして処理した。
「……こんな大騒ぎだ! 絶対に王家や赤魔道士組合、〈治癒神の御手教会〉が対処するに違いない」
すぐそばにいるリノに言う。
リノは忍術をわずかながら覚え、分身や〈影走り〉を使って、器用に襲い掛かってくるさまざまな者から身を守っていた。
最悪だったのは、女子供老人だからとて味方だとは限らないということだ。
女子供も、立派な奴隷だ。
リノだって元は奴隷だ。
奴隷達は、ひたすらに奴隷でない存在に牙を剥く。
奴隷かどうかなんて判断は、普通はできない。
だが彼らは、ただ服装の良い者や食生活が充実していそうな者を見つけては襲い掛かっているに過ぎない。
「まずい……このままじゃ……」
リノが口走る。
「まずい、って何がさ……」
俺の〈手刀〉が奴隷の女の首をはねた。獣人の女。栗色の髪がぼさぼさだったが、長い。きっと生前は美しかったのだろう。〈最上位職〉であるフウマの俺には、つぶさに観察できるだけの時間的猶予があった。
〈手刀〉の衝撃波で空き樽がいくつも爆散したかのようになる。
「……たぶん、心が、もたない」
「リノ……つらいなら」
「フウマのこと。……なぜ、泣いてる」
「……え?」
俺は目を手の甲でぬぐった。
涙で濡れている。
口元もついでに拭うと、吐瀉物がついた。
おいおい、と口の中でつぶやく。
どうやら俺はあまりのこの状況の気持ち悪さと罪悪感に、無意識に吐いていたらしい。あげくに泣いていたのだ。……情けない。
「絶対に、フウマ、向いてない」
「何にだよ」
「シノビにも、人殺し……にも」
「それは、誰だって、そうさ」
そううそぶく。
ここまで言われ、自分の状態を認識すればわかる。
このままだと、敵をすべて倒せても、俺の心が折れる。おそらくいかなる青魔道士の回復魔法でも癒せないような心の傷を負うことになるだろう。
(末はジッチャンみたいに、シノビノサト村にこもるかな……)
そんな想像をめぐらせる。
もしかしたらジッチャンもこうして心を折るような戦いに参加し、癒えぬ傷を負って、ただ村にこもって生活する毎日を選んだのかもしれない。
「けどさ、リノ」
俺はリノを振り向く。
「ん?」
「俺は決めたんだ。せめて最後まで、勇者達――アレクサンダーやフェルノ、エリーゼのことを見届けようって」
「…………」
「きっとこの騒動にはあの3人の誰かが絡んでる。全員かもしれないし、1人かもしれない。でもそんなことは関係ない。……俺は――」
拳を握り、近寄ってきた屈強な老いた獣人を殴り倒す。
「彼らの元パーティーメンバーなんだ」
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