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第Ⅲ章 王国の争い

後日談

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良くも悪くも、魔境などと呼ばれる山中でも、ジッチャンを含む村のみんなは皆強く、これまで死者は出なかった。老衰で死ぬ者も十数年の人生の内で見たことはなかった。

自分自身傷を負ったのは、もう記憶さえも残らない遠い昔の話。
生まれた時から曽祖父の力を継いでいたため、傷ついたことなどなかったのだ。

「……だから、失敗したんだ」

竜の墓は2つ増えた。その新たに増えた墓を前に、かつて雷電や紫電がしていたように、日がな一日立ち続けるということを繰り返していた。

ジッチャンの墓や被害に遭った村人の墓にも参っていたが、ここにいることの方が長い。

ジッチャンや村人たちは、ある意味戦うことを生業としてきた者たちだ。外敵と戦って死ぬのも定めと受け入れているところがあった。

だが、俺の預かりとなっていた竜の子供たちは違う。傷つきまともに飛ぶこともできなかった紫電が死んだのは、間違いなく自分のせいだった。

しばらく立ち尽くしているとセーレアがやってきた。回復魔法が使える彼女は、村でも重宝がられていて忙しそうだった。そのため話すのは久々だ。

「あなたのお祖父さんのこと、正直苦手だったわ。……冒険者ギルドのサブマスターみたいな目をしていたもの。……何かを犠牲にして何かを手に入れることに一切の躊躇の感じられない冷徹な目を……」

こんな時にジッチャンの悪口なんか聞きたくなかった。

「……だからさ、きっと自分の命さえも、道具みたいに思ってたんじゃないかな? ……あなたを成長する糧になるなら、この老骨も惜しくない……みたいなさ」

あり得る話だ。

というか今思えば、いくらあの勇者相手とはいえ、ジッチャンはあっさりと死に過ぎた。
唯一の肉親の死が、何らかのきっかけになればいいとでも思っていたのだろうか。

ワアァアアア……、と。
今のこの村にしては珍しい歓声が上がった。
死者が出たための沈鬱な空気を吹き飛ばすほどの歓声だ。

「……アイリーン」

村人たちに囲まれたアイリーンがまっすぐこちらに向かってきていた。

その姿は美しい。

初めてこの村に来た時に身につけていた高価な衣服を上手くキメラの皮などで繋ぎ合わせて、大人の体になったアイリーンにも合うようにしてあった。

「サブマスターから話が来ました。第二王女は、自らが強引に推していた勇者が失墜したことで一気に勢力を失っています。私は今からシノビノサト村の一村人としてではなく、第一王女として政治の場にて戦うことにします」

「……そっか――いや、そうですか」

言い直す俺に、生真面目な顔をしていたアイリーンがやっと昔のような笑みを見せてくれた。

「大丈夫。……別にもう会えなくなるわけじゃない」

それにね、とアイリーンは別れを惜しむかのように俺の手を握り、

「ここで暮らした思い出がなくなるわけでもないから」

「あぁ」

「もし、また政治の世界で敗れるようなことがあったら、この村に戻って来るわ」

そんなことを言うアイリーンだったが、その表情には不退転の決意がみなぎっていた。おそらく第二王女が暗殺者を差し向けたとしても、戦う決意を持っているのだろう。

「アイリーン……元気で」

「えぇ」

おそらく俺とアイリーンの人生が交わることは今後ないだろう。

俺は最後にアイリーンと軽く抱擁を交わした。



「リノ……体の具合はどうだ?」

「可もなく不可もなしです」

かつてのリノより流暢に話してくれるようになったのに、その言葉には熱が薄い気がした。

「そうか? 無理やり神代マジックアイテムの核を取り出したからな……」

凄腕の青魔道士がいたからこそできた無茶な芸当だ。
リノの体内にあった2つの珠は取り出された。俺による外科的な手術によって。

「お腹すきました」

「神代マジックアイテムは腹が減らないんじゃなかったのか?」

そうちゃかすと、リノは恨みがましい目をベッドの上から向けてきた。

「もう神代マジックアイテムじゃなくなりましたから」

「そうだったな」と余裕の笑みを浮かべる俺に、リノは攻勢に出た。

「誰かさんに体の奥を触られて痛い思いをしたおかげですね。初めての痛みでした」

「ちょっと卑猥じゃないかな、その表現……」

どぎまぎした俺の言葉に、リノは声を上げて朗らかに笑った。




◇◇◇あとがき◇◇◇

次回、最終話です。
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