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「ごきげんよう!!ディーオ・アンジェロ様はいらっしゃいますか!?」

 朝のHRを待っていると、急に教室の扉が勢いよく開き、クラスメイトの目線が全てそちらに向く。

「ぶ、ブランシュ様?」

 扉を勢いよく開いたのは、プロテッツィオーネ王国の第1王女の【ブランシュ・ロワ・プロテッツィオーネ】だった。

【ブランシュ・ロワ・プロテッツィオーネ】女 プロテッツィオーネ王国 第1王女
 白銀の髪に、どこまでも澄みわたるような蒼い瞳。肌は、大事に手入れされていることがわかるほどの美しさ。
 年齢は18歳。身長は174。ソレイユ学園の高等部3年生。
 『LOVEtheHERO~アイトの光~』では、アインハイトのルートにしか出てこなくて、アインハイトにふさわしいか、アンジェにわざと試練を出して、最後は認めるという、兄弟思いのいい姉だ。
 緑魔法の使い手で、武術が魔法よりたけている。
 専門武器は槍だ。
 ディーオとは、幼馴染だが、実の姉妹のように仲がいい。

「ブランシュ様?どうなさいました?」

 私は席を立ち、まだ教室で入口でキョロキョロと私を探す、ブランシュのそばに行く。
 ブランシュは、私より背が高くてスタイル抜群の女性だ。ディーオも、負けず劣らずの美人さんのはずなのだが、今は私が入っているからか、ブランシュの方が万倍も美しく感じてしまい、少しだけ気が引けてしまう。
 

「ディーオ?私のことは、昔のように姉と言っていいのよ?」
「光栄なことですが、そうはいきません。ならば、そう呼んでも許されますが‥‥それはですか?ブランシュ様」

 少し、悲しげにそう言ったブランシュの申し出は、本当に光栄なことなのだが、血も繋がっていない私が、王族のブランシュを『ブランシュ姉様』なんて呼べば、大騒ぎになってしまう。
 例えるならば、全世界のニュースの話題になるぐらいの大騒ぎだ。
 まだ、幼く物事がよくわかっていない子供ならば、そう呼んでも別に強く咎められたりしないのだが、今では物心もつき、そんなことをしてはいけない年齢だ。

「もう!命令なんかじゃないわ。 よ!もう、ディーオに私がなんてするはずな‥‥……あぁ!そんなことを言いに来たわけじゃないわ!」

 ブランシュは本来の目的を思い出したのか、優しい目をして私と話していたのに、手を打ったと思うと、目が鋭くなり怒ったような雰囲気に変わる。
 周りの生徒が、息を飲む音が聞こえ、心の中で「ごめん!私のせいだよね!?ごめんなさい!!」と謝っておく。

「用事‥‥とはなんですか?」

 私は、できるだけ動揺を悟られないように、落ち着いて返す。
 前世だったら、今頃めちゃくちゃ動揺してたかもしれない雰囲気に、それよりも、転生してきた時の衝撃が大きすぎて、ちょっとやそっとじゃうろたえなくなった私の精神メンタルは、どこまで成長するのかわからない。
 ついでに、ポーカーフェイスもうまくなった。


が知らない小娘と一緒に仲睦ましく歩いていたのよ!?これはどういうことなの!?しかも、夏休み中、あの子ったらその小娘を連れて王宮のパーティーに出ていたのよ!?ディーオはいないしどうなってるの!?」


 ブランシュの言葉に、教室ないが再度ざわつき始めた。
 ちなみに『アイト』とは、アインハイトの愛称だ。昔、『アインハイト』が長くて疲れると言ったブランシュ様が、そう呼ぶようになったのが始まりだ。
 色んなところから、「嘘‥‥」とか「王宮のパーティーに他の女性と?」とか聞こえてくる。
 私も、内心ではすごく驚いている。だって、王宮のパーティーなんて知らないもの。
 私の元に来た手紙は、怪しいもの以外は全て私が最初に見ていて、その中にパーティーのお誘いの手紙も確かにあった。だがしかし、私の元に手紙は、一切来ていない。
 そして、ブランシュが言うには、ブランシュも私に手紙を出したらしいが、私の元にはブランシュからの手紙も一切来ていなかった。

「前はすぐに返事が来ていたのき、いつまで経っても返事は届かなし、アイトは知らない小娘と一緒にいるしで、私何が何だかわからなくてここに来たの!…………何があったの?姉様に話して?あなた一人で悩まないでいいのよ」

 そう言いながら、ブランシュは私のことをギュッと抱きしめる。
 確かに、驚きもしたし一人でこれまで考えてきたが、それは、転生の事実など誰も信じるはずがないからで、それを苦に思ったことはまだ無い。逆に冷静な判断ができると自信があるほど、ものすごく落ち着いている。

「‥‥ブランシュ様?」
「ん?どうしましたの?」

 数秒たっても離してくれないので、私が声をかけると、ブランシュは心配そうな顔をして、私の顔を覗き込んできた。
 その顔に、少しだけウッと下唇を噛みたくなるが、今はそれところでは無い。


「私は大丈夫ですよ?こうなる事は(夏休み中で)予想できていましたもの」


 私の声は、教室内にとても響いた。
 響いたというより、ちょうど生徒達が静まった時だったから、響いてのだ。
 私の言葉を聞いた生徒達は、ピタリともののみごとに動きを止めた。ブランシュも例外ではなかったのだが、ブランシュはすぐにプルプルと震えだし、どこか怒っている感じだ。
 え?そんなにおかしなこと言った?
 確かに攻略スピードはおかしいけど、ゲーム 内容ストーリーどおり進んでるし、こうなる事は予想できたことで、攻略対象達あいつらが、それに抗えないのは当然のことなのだから、別におかしいことではない。問題があるとすれば、婚約解消をするのが、早いか遅いかの問題だけだ。
 いじめは、ゲームと違って1回もしていないから、国外追放とかはない方で見て大丈夫だと思う。てか、そうであってほしい。
 あと、他の問題といえば、王族に婚約解消されたら、もう結婚できない可能性が出てくることだが、それはできないならできないでいいと思っている。

「‥‥ディーオ‥‥‥あなたって人は‥‥」
「?はい。どうされました?」

 私は、ずっと下を向いて震えているブランシュが、だんだん心配になってきたので、したから覗き込んでみた。

「あなたって人は‥‥‥なんていい子なの~!!??私が貰ってあげたいくらいだわぁあぁぁぁあ!!」
「グェ!」

 結果。おもいっきりブランシュに抱きつかれました。
 感想。ブランシュのお胸はデカいので、窒息死しそうです。
 あれ?おかしいな~。ディーオのお胸も前世の私よりはかなりデカ目だと思うけど‥‥。あれ?おかしいな?目から汗が出てきたぞ♪

「ぷは!‥‥ブ、ブランシュ様?離してください」

 私は、ブランシュのお胸から逃げようと必死に上を向き、ブランシュに離してくれるように頼んだ。
 だが、苦しさからくる生理的な涙が、ブランシュに対して逆効果みたいだったようだ。

「は!‥‥ディーオ!なんて顔をするの!そんな顔誰にも見せられないわ!というか、私以外に見せてはダメよ!」

 結果。先程以上に力を込められて、抱きつかれました。
 感想。ヤバい。冗談抜きで窒息死しそうです!私の人生──ディーオの人生だけど──死んだ原因は、ブランシュ胸の窒息死ですか!?お胸って、凶器になるってホントだったんですね。
 私は必死にもがいたが、ブランシュは全然離れてくれない。
 それもそのはずだ。ブランシュは、力のいる武術にたけている。だけど、ディーオは力のいらない魔法にたけている。どんなに頑張っても、筋肉力量が違うから無理なのだ。魔法を使って離れることはできるが、王族に魔法を向けるなんて、それこそ国外追放or死刑級の反逆行為だからできない。
 ちくしょー!ディーオはなんで鍛えてなかったの!?令嬢たるもの、並以上の筋肉をつけといてよ!‥‥ごめんなさい。令嬢たるもの、筋肉は必要ないよね?筋肉ムキムキ令嬢なんて、皆にモテないもんね。
 でも、今は本当にヤバい。死にそうだ。絶対に顔色が青いと思う。だんだん意識が朦朧としてきたしね!?
 私が、限界をむかえそうになっているときに、奇跡が起きた。

「ん?なにか騒がしくなってきましたわね?」

 階段がある方の廊下が、騒がしくなってきたのだ。
 そちら側に気を取られたブランシュは、腕の力が弱まった。私はそこを見逃さず、ブランシュの腕の中から逃げた。

「ハァ、ハァ‥‥」

 息が上がりきっていて、まともに息が吸えない。でも、周りの様子を伺う余裕は出来た。
 教室の出入口で、侯爵令嬢と王族が騒いでいたのだ。他の国の生徒もいる中、そんなところを見せてしまったから、どんな反応をされているか気になってしまう。
 私は息を整えながら、周りの様子を見ると、ほとんどの人が私に暖かい目を向けていた。所々に、涙目で見てくる人もいる。
 なぜに?私は暖かい目をされるようなことをした?
 私はひと通り様子を確認して、ブランシュの顔を見ると、ブランシュは、令嬢らしからぬ顔をしていた。
 ハッキリ言おう。鬼が見える。背後に鬼が見えるのだ。顔は般若に近い。これは令嬢というか、女性がしていい顔ではないと思う。誰が見ても怖がる顔だ。下手すると、悪役令嬢のディーオが怒った時より怖いと思う。うん。これマジで。
 声をかけていいのか迷ったが、この顔が他の生徒に見られる前に、どうにかした方がいいと考え、私は声をかけることにした。

「あの、ブランシュ様?」
「‥‥‥よく私の前に現れることができますわね」

 ブランシュは、私の声が聞こえていないのか、こちら見ないまま、廊下側に向かい普段より数段低い声で言い放った。
 誰がいるのだろうと、私もつられて廊下を見た。

「姉上?どうしてここに?あと、先程のお言葉は、いささかおかしいかと。私が私の教室に来たら、姉上がいたのです。姉上の前に現れようとして現れたわけではありません」

 そこには、アインハイト・ロワ・プロテッツィオーネ本人がいた。
 私の現婚約者で攻略対象。プロテッツィオーネ王国の第1王子のアインハイト。他の攻略対象と、主人公のアンジェを引き連れて、教室出入り口に立っていた。
 
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