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魔法は○○!?

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『さぁ!続きましては!侯爵令嬢のディーオ・アンジェロ!』

 そのアナウンスと共に、私は歩き出した。


   ウヲォォオオオオォオォオ!!


 一歩会場へ出れば、観客席からの声の圧が容赦なく私を叩いた。
 その圧を感じながらも、私は一歩一歩確実に踏みしめて会場の中央へと進む。
 中央付近まで来ると、私は観客席へ軽く手を降る。それと同時に声援も一層圧を増した。

「久しぶり。ディーオ」

 声援にも勝る。だが、決して大きな声ではなく、凛として耳に通る声が私を呼ぶ声が聞こえ、私はそちらに目をやる。

「‥‥‥うわぁ」

 私は目をやった瞬間にそう口に出してしまった。だって、しょうがないじゃないか。


 目の前に百人に迫るほどの人間が、ゲームキャラを筆頭にし立っているのだから。


 私は今すぐにでも回れ右をして帰りたい衝動を抑え、優雅にお辞儀をした。今は敵とはいえ、相手は一国の王子と貴族達だ。最低限の礼儀はわきまえよう。

「ご無沙汰しております。王太子殿下」
「‥‥‥もう、名前で呼んではくれないのだね」

 前にも、こんなやり取りをしたような気もあるが気にしないておこう。
 私は許しもでてないが顔を上げ、敵の顔を一人一人確認していく。

「‥‥‥伯爵から冒険者まで‥色々な人達を集めましたね」

 パッと見ただけで、顔を知った貴族や騎士達。姿から分かる冒険者達が色々いた。よくもまあここまで集められものだ。呆れを通り越して、関心の心が出てきたぞ。

「まぁ、頑張ったからね」

 苦笑いをしながらそう言ったアインハイトを殴らなかった私を褒めて欲しい。そして、私は今猛烈にこう言いたい。
 その頑張りを、何故違うことに使えなかったのか‥‥と。
 ゲームキャラ達が本気を出せば、今すぐにでも国が動くぐらいの事が起こせるはずだ。別にそれぐらいのことをしろという訳でもないが、それでも何か出来たはずだ。

「ははは!恐れて言葉も出てこないか!哀れだな!」

 そう言ってきたのは、ずっとアインハイトの横に立っていたリッターだった。
 リッターは前と変わらず、ふんぞり返った様子でこちらを睨んでいる。
 別に何もしないっての‥‥そっちから手を出してきたら話は別だけどね。

「‥‥そうですか。まぁ、さっさと始めましょうか」
「ちょ、ちょっと待て!」

 私がリッター達に背を向け、審判者に始める合図を頼もうとすると、リッターから呼び止められた。めんどくさいと思いながらも、ちゃんと表面では笑顔を作り振り向く。

「どうされました?貴方様の性格なら、すぐにでも試合を始めたいと思うのですけれど」

 嫌味を込めてそう言うと、リッターは少しだけ「うっ」と言って下がった。

「‥‥‥はぁー。用がないのなら始めましょうか。審判者!お願いします!」

『おぉ!?ディーオ・アンジェロ様はやる気満々のようだ!それではアンジェロ様の要望もあった所で、試合を開始します!』

  キーン

 大勢の声が飛び交う中でもよく聞こえてきたのは、金属を叩く音だった。

   ウヲォォオオオオォオォオ!!

 一気に冒険者達が攻め込んできた。

「‥‥猪突猛進型は、一人で十分よ」

 私は剣を鞘から出して、その刀身に魔力をのせる。こうすれば、格段に剣の切れ味も良くなるし、何より剣が私に合わせて軽くなり、まるで元々私の体の一部だったように自在に操れるのだ。
 といっても、今私が持っている剣は刃がついておらず、それに加えて女性でも振れるように軽く作られている。

「うをぉぉお!」

 まずは中年の男性冒険者が来た。剣は大剣で上から振り下ろしてくる
 私はそれを後ろに少し下がって避け、男性の剣を持っている両手を叩く。すると、男性は手が痺れたようで大剣を手から離してしまった。私はその隙に男性の腹を剣で叩き斬る。
 叩き斬ると言っても刃がついていないので、男性が倒れるだけで終わった。

「くそ!この野郎!!」
「女性に向かっては頂けないわね」

 次に来たのは若い男性冒険者だった。獲物は普通の剣。
 男性の剣は、確実に私に当たるように横の腹辺りに当たるように来た。これでは、しゃがんでも頭に当たるし、後ろに避けても距離が足らず剣先が腹を掠めてしまうだろう。
 だが、心配いらない。
 私は風の身体強化をしており体が軽い。それを利用して、ジャンプをして男性の剣を避けた。

「な!」

 そのまま突っ込んでくる男性の頭に剣を当てて、こちらもノックアウト。
 そうやって次々に冒険者を相手にしていくが、同じように冒険者達がノックアウトしていく。そんな中だった。

「油断するんじゃないわよ!」

 急に現れた女性の冒険者が、普通の剣とサブウェポンとして、足にセットした小型のナイフと共に現れた。
 上から降ってくる剣を横に滑るように移動することで避け、体制をすぐに立て直すと女性に向かって剣を最初の男性のように腹に叩き込む。

「っ!」

 それを何とかやり過ごした女性は、かなりの冒険者だと思う。先程の冒険者達とは違う。
 私は一旦距離をとるために土煙の中に姿を隠す。

『馬鹿な人。自分から視界を悪くするなんて』

 土煙に紛れた瞬間に、どこからか女性の声が聞こえてきた。周りを見るが土煙で視界が悪いせいか、全く姿を捉えられない。

「こっちよ」
「っ!」

 後ろから急に現れた女性は、全身黒でナイフを持っていた。‥‥いや、よく見ると違うことが分かる。あれはクナイだ。
 私は瞬時に頭を前の方に体ごと倒してクナイを避けた。体制を整える頃には女性の姿はなく、ただの土煙の視界だった。

『ふふふ。あれを避けるなんて凄いわね。並の冒険者だったら、あれで死んでるわよ?』

 女性の声は周りに響くように聞こえる。周りを警戒して気配を探っても、全く分からない。こうなれば、土煙から出るしかない。

『そうはさせないわよ?』
「キャ!」

 私が走り出すと、すぐに私がしようとすることがバレたのか、頬を殴られる感覚と共に私は行く手を阻まれた。
 少しだけ傷む頬に回復ヒールをかけながら、私はどうするか考える。考えて考えて、答えが出た。

「‥‥風圧でどうにかする!は!」
『「きゃぁあ!」』「うをぉぉおお!」

 別に風魔法という訳でもないので、
 多くの声とともに、私を囲っていた土煙がすぐに晴れた。周りを見ると、先程戦った冒険者やまだ戦っていない冒険者。それに加えて何人かの騎士達が壁に激突してノックアウトしていた。
 ざっとたっている人数を数えてみたら、最初より三分の一程減っていた。
 誰が残っているのか確認すると、騎士は最初の半分。冒険者が三分の一。王宮魔法使いもよく見れば混じっていたようで、こちらを尊敬の眼差しで見ている。面倒なことになりそう。

「‥‥‥本当に色々な方をお集めになったのね」
「まぁ、君の戦うならこれくらいしなきゃでしょ。これでも私は不安なんですけどね‥‥‥『氷よ。我と共にあれ。《氷の散弾アイス・ショット》』」

 ルーエが詠唱したかと思うと、私の真上に魔方陣と共に多くの氷柱が現れた。
 私はそれをなんなく避ける。

「ちょっと。危ないじゃない。もし怪我したらどうするのよ」

 先程風圧で周りの人間を吹き飛ばしていたおかげで魔法の範囲内に私以外いないが、もしいたら中傷ではすまない攻撃だった。
 余裕で避けた私に驚きの視線と呆れの視線が突き刺さる。十中八九呆れの視線はルルンだろう。

「ルーエの攻撃を避けるなんて‥‥‥‥いや!きっとまぐれだ!ルーエ!もう一度だ!」

 リッターがそう言うと、周りの人は動き出してまた私に剣を向ける。
 結論を言おう。

 何度やっても無駄だ。

 さっき避けたのは本当に余裕だった。余裕だった。
 まず一つめ。ルーエの魔法は詠唱をだいぶ端折っているとはいえ、をする。
 詠唱している間に対策を練ればいい話だ。
 二つめ。ルーエの詠唱はかなり不完全な様子だった。
 氷柱を出現させる時、魔法陣の端っこが少しボヤけていた。あれは一歩間違えば暴走する前兆だ。

「‥‥ルーエ様。次の詠唱省略は、オススメしません。あなたにはまだ無理です」
「っ!‥‥‥うるさい!お前に何がわかる!『極寒の氷よ!我へ力を!そなたの力はあらゆるものを凍らせる!《氷牢獄》!!』」

 私の周りを氷が囲っていく。
 私の周りを氷が囲い終える間際に見えたのは、ルーエが魔力が足らずに体を酷使している姿だった。

「‥‥‥この世界はバカばっかり。《炎結界》《氷刃乱舞》」

 私は完全に閉じ切った氷の中で、そう唱えた。すると、次の瞬間にはルーエの魔法は綺麗さっぱり消えていた。
 説明しましょう。まず、《炎結界》で自身の周りを炎で守ります。次に《氷刃乱舞》で《氷牢獄》の氷を全て削ります。削った氷は全て《炎結界》によって溶けてなくなります。以上!

「な!わ、私の‥‥氷牢獄が‥‥」
「ルーエ君!」

 ルーエが魔力不足で倒れた。そこに素早くアンジェヒロインが近寄る。そのまま何故かこの状況下で膝枕に移るアンジェは、すごいと純粋に思うよ。
 良かったね~ルーエ。惚れてる女に膝枕してもらって。起きたら顔真っ赤にしてお礼言っときな。

「チッ!お前卑怯だぞ!魔法を使うなど‥‥卑怯だぞ!!」
「‥‥はぁ?」

 リッターのいきなりの抗議に、私は素で返してしまった。だって、『魔法は卑怯だ』って言ったんだよ?そっちだって使った魔法を、正々堂々と「」って言ったんだよ?素で返さずにいられるかっての。

「‥‥そっちも魔法使ったじゃない。それに、私は一人。そっちは百は超える人数で試合してるのよ?魔法が卑怯はないでしょ」
「う、うるさい!卑怯だと言ったら卑怯なんだ!」
「「そうだ!そうだ!」」

 リッターの理不尽な抗議に正論で返したら、子供のダダっ子のような答えが返ってきた。それにノるのはディアマンとリーブルだ。
 双子はアンジェと一緒にルーエの近くにいる。
 いや、正確にはアンジェの近くにいる。と言ったほうがいいかな?

「僕らはアンジェを守るために!」
「魔法を使うの!」
「でも君は自分のために!」
「魔法を使ってるでしょ!」
「「全然違うの!」」

 どういう理論だよ。
 そうツッコミたいのを我慢して、手に持つ剣を客席へと投げた。投げた先はルルンがいる場所なので、けが人はいないだろう。

「ははは!ついに剣を投げ出したな!降参か!」

 リッターが高笑いをしながら私を指さしてくる。
 ディアマンとリーブルはニコニコ笑顔でアンジェを守っている。
 周りの皆不本意そうな顔。
 皆何か勘違いをしてませんか?

 ‥‥‥誰が降参と言いました?

 ルルンが、客席から何やら叫びながら説教をしているのが聞こえるが、私はそれを無視する。

「‥‥誰が降参すると言いました?」
「はははは‥は?」

 私の声が聞こえなかったのか、リッターは首をかしげてこちらを見てくる。周りの皆もおとぼけ顔だ。
 はぁー。ここまで頭が悪いとはこの国大丈夫?

「バカなあなた達に特別に教えてあげましょう。

 

 そういう意味ですよ」
「な‥な‥な」

 私の言葉に挑発された敵の皆さんは、見事に顔をこれでもかと真っ赤にした。

「‥‥さぁ、始めましょう?私の実験台になってね?」
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