上 下
25 / 31
本編

23

しおりを挟む
「レ~ン!朝だぞ!起きろ~」

「ん~」

 声が聞こえる。誰だっけ。とても心地いい声だから、起きる気にもなれない。

「レ~ン‥‥‥って、まだ布団の中かよ。お前そんなに寝起き悪かったのか?」

 声がギシギシという音と共に近づいて来た。眠い私はそれを無視して眠り続ける。
 というか、頭は半起きだけど起きてる。でも、瞼が開かないんだよ~。

「おいレン~‥‥起きてくれよ」

「んんー‥‥スースー」

 揺すってくる手は暖かく、眠い私にとっては逆効果。すぐに寝息をかき始める。

「‥‥‥なぁ~‥俺、一人でご飯なんて嫌だぜ?」

 心地いい声の主が、泣きそうな声でそう言ってきた。
 ご飯?ご飯って朝ご飯?そう言えばお腹空いたかも‥‥でも眠い。

「‥‥はぁー。なら俺も寝る!少し奥いけよ。ほら」

「んん~」

 背中を押されて壁に体が当たったところで、背中の方から暖かい熱が伝わってきた。
 ‥‥気持ちいい‥‥‥猫みたい。

「んん‥‥にぇこ~‥‥‥スースー」

「ん?」

 私の思考はブラックアウトした。

  ☆★☆★☆★☆★☆★

「おい!何をしている!」[ドガン!]

 すごい音がして、私は起こされた。
 てか、この音扉壊れたんじゃね?

「ん~‥‥誰?」

「っ!まだ寝ていたのか?今何時だと思っている!もうとっくに8の鐘がなったぞ!」

 あ、『8の鐘』とは、日本で言う8時のことである。
 この世界でも一日は24時間と考えられており、1時間ごとに鐘がなる。これは田舎にはないが、王都や協会などがある街には絶対に鐘が鳴るらしい。
 ‥‥ん?8の鐘?

「っ!やば!寝坊した!早く行かなきゃ!ってん?」

 今日は朝から訓練があり、集合は6の鐘が鳴るまでに集合だ。
 私は急いで起き上がろうとする。が、何かが腰回りに引っかかり立ち上がれなかった。
 何かあると思い、横を見ると。そこにはレクターがいた。

「ぎゃあああ!なんでお前がここにいるんだよ!」

「ブフォ!」

 私が居る部屋は、前回も言ったように四人部屋。四人のうち二人は到着が遅れているようでまだおらず、実質私とレクター二人で使っている部屋。ベットは二段ベットで、私は上になった。レクターは私の下だ。
 私は二段ベットの上からレクターを蹴り落とした。下からドシンと音がしたが、どこか変なところを打ったような音は聞こえなかったので、良しとしておこう。
 え?『いやいや。心配しろよ』って?大丈夫!この世界の住人は、身体能力は低いくせに体は丈夫だから、この位で怪我はしない!

「いって~‥‥なんだよレン!蹴り落とすことは無いだろ!?」

 そう言いながら顔を下から覗かせるレクターには、傷一つ見当たらず、いつものイケメン顔だった。
 ほらな?いつものムカつくほどのイケメン顔だよ。この野郎。

「フン!勝手に布団に入ってきてたお前が悪い!てか、なんで一緒に寝てるんだよ!」

「一人でごご飯に行くのが寂しかったか!」

 畜生~。いい笑顔で言い切りやがって。そんな笑顔で言われると、つい「あ、そうだったの?ならいいや」と言ってしまいそうになるだろうが!このイケメン野郎!

「だったら俺を起こせばいい話だろ!?なんで一緒になって寝てるんだよ!」

「だって‥‥レンがあまりにも気持ちよさそうに寝てたから‥‥‥つい」

 レクターは目元だけ見せるように高さを下げ、捨てられた子犬のような目で私を見てくる。
 っ~!だからその目やめろっての!レクターみたいな清楚系イケメンがそんな顔をすると、罪悪感が出てくるんだよ!

「‥‥仲がいいのはいい事だが、そろそろいいか?お前達」

「「あ、サレス団長。いつからそこに?」」

「最初からだ!」

 私とレクターのハモリに素早くツッコミを入れてくるサレス。
 どうやら私達はサレスのことを忘れて喧嘩をしていたらしい。

「レムン!お前は朝飯を食べた後昨日できなかった絆作りだ!いつまでも寝てないでさっさと着替えて食堂に来い!レクター!お前もだ!」[バタン!]

「「‥‥‥行っちゃった」」

 サレスが去ってしまい、部屋には寝巻きの私とレクターだけになった。

「‥‥サレス団長なんか機嫌悪くなかったか?」

 少しの間どちらも動かなかったが、先に動いたのはレクターだった。
 確かに。サレスは昨日最後に会った時よりも格段に不機嫌だった。何かあったのかな?

「レクター。昨日あの後何かあった?」

「ん~‥‥特に何もなかったな。しいていえば、食堂でご飯を食べてる時に、サレス団長が何回かため息ついてたぐらいか?」

 レクターの詳しい話によると、サレスは昨日の夕食時、部下になにか聞かれたりすれば普段通りに答えていたが、ふとした瞬間にボーッとして、次はため息を繰り返していたらしい。
 いや、絶対に何かあっただろ。それ。

「まぁ、俺達が口出すことじゃないか‥‥さ!レクター。部屋の外に出てくれ」

「あ~。はいはい。分かったから押すな押すな」

 私はレクターの背中を押して部屋の外に追いやった。
 いくら私の体が退化しているからって、中身は高校生の女子だ。中学時代なら、まだそれほど男女意識がなかったから直ぐに着替えられたかもしれないが、高校生ともなるとそうもいかない。
 ん?ならなんでこんな男しかいない場所に入ったのかって?‥‥‥はい。正直に言いましょう。

 私は普通の人より、性別学上の男女の意識が乏しい。

 家では普通に下着で風呂から上がってくるし、教室で体操服に着替えたりもする。普段着は全てズボンだし、スカートなんて制服以外持っていない。持ってる漫画は少女漫画より少年漫画の方が多い。
 まぁ、はっきり言って男性脳に近いってことだ。

「さて。さっさと着替えますか」

 部屋の鍵をかけ、誰もいなくなった部屋で私は素早く着替えを済ました。

「[ガチャ]お待たせレクター。さ、行こっか」

「ん?了解!」

 既に着替えを済まして私の横で寝ていたレクターと共に、私は食堂へと向かった。

  ガヤガヤ ガヤガヤ

 食堂は8の鐘が過ぎたというのに、騎士でごった返していた。
 食堂は長く太い木を半分に切って整えたような机が十数個並び、一つのテーブルに椅子が18個ぐらいついている。
 料理は奥にあるカウンターに行き、受け付けの人に注文すると番号札が貰えるので、それを受け取り番号が呼ばれるまで待つ。食べ終わった食器はそのままにしておくと、ここで働いている女性のスタッフにより片付けられる。そういう仕組みだ。

「レン。場所取りしておいてくれ」

「了解~」

 ただ今カウンターでは、ゴチムチマッチョでごった返しているから、力の強い私が言った方がいいのだろうが、この前私が行ったら、身長が足りなくてマッチョ達に隠れてしまい全然前に進めなかった。
 そういう経緯から、身長も高く私が鍛えたので普通よりも力があり。なおかつ本気を出せば大きな声が出せるレクターが料理を取りに行くことになった。

「お、いいところ発見~」

 私は窓側の席が空いているのを見つけた。
 そこは日当たりがよく風通しも良いのに人があまりいなかった。席もテーブル一つ分全てが空いている。
 私がなんの迷いもなしにそこに座ると、何故か周りからチラチラと見られ始めるし、コソコソと話している様子も見え始めた。
 何?もしかして今日の試合のことかな。その事ならそっとしておいて欲しいんだけどな~。

「おい」

「はい」

 声をかけられたのでそちらを向くと、そこには料理を乗せたトレーを持ったスラッとしたこれまたイケメンが立っていた。
 ‥‥‥この世界ってこうもイケメンが多いものなの?

「何か御用ですか?」

「‥‥‥俺が怖くないのか?」














「‥‥は?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。

亜綺羅もも
ファンタジー
旧題:「デブは出て行け!」と追放されたので、チートスキル【マイホーム】で異世界生活を満喫します。今更戻って来いと言われても旦那が許してくれません! いきなり異世界に召喚された江藤里奈(18)。 突然のことに戸惑っていたが、彼女と一緒に召喚された結城姫奈の顔を見て愕然とする。 里奈は姫奈にイジメられて引きこもりをしていたのだ。 そんな二人と同じく召喚された下柳勝也。 三人はメロディア国王から魔族王を倒してほしいと相談される。 だがその話し合いの最中、里奈のことをとことんまでバカにする姫奈。 とうとう周囲の人間も里奈のことをバカにし始め、極めつけには彼女のスキルが【マイホーム】という名前だったことで完全に見下されるのであった。 いたたまれなくなった里奈はその場を飛び出し、目的もなく町の外を歩く。 町の住人が近寄ってはいけないという崖があり、里奈はそこに行きついた時、不意に落下してしまう。 落下した先には邪龍ヴォイドドラゴンがおり、彼は里奈のことを助けてくれる。 そこからどうするか迷っていた里奈は、スキルである【マイホーム】を使用してみることにした。 すると【マイホーム】にはとんでもない能力が秘められていることが判明し、彼女の人生が大きく変化していくのであった。 ヴォイドドラゴンは里奈からイドというあだ名をつけられ彼女と一緒に生活をし、そして里奈の旦那となる。 姫奈は冒険に出るも、自身の力を過信しすぎて大ピンチに陥っていた。 そんなある日、現在の里奈の話を聞いた姫奈は、彼女のもとに押しかけるのであった…… これは里奈がイドとのんびり幸せに暮らしていく、そんな物語。 ※ざまぁまで時間かかります。 ファンタジー部門ランキング一位 HOTランキング 一位 総合ランキング一位 ありがとうございます!

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 ※表紙、作中、オマケで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています ※連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  Hamu's Nook> https://mutsukihamu.blogspot.com/

ネコ科に愛される加護を貰って侯爵令嬢に転生しましたが、獣人も魔物も聖獣もまとめてネコ科らしいです。

ゴルゴンゾーラ三国
ファンタジー
 猫アレルギーながらも猫が大好きだった主人公は、猫を助けたことにより命を落とし、異世界の侯爵令嬢・ルティシャとして生まれ変わる。しかし、生まれ変わった国では猫は忌み嫌われる存在で、ルティシャは実家を追い出されてしまう。  しぶしぶ隣国で暮らすことになったルティシャは、自分にネコ科の生物に愛される加護があることを知る。  その加護を使って、ルティシャは愛する猫に囲まれ、もふもふ異世界生活を堪能する!

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

世界樹の森でちび神獣たちのお世話係はじめました(旧題 何故か森の中で託児所を始めました)

カナデ
ファンタジー
8/29 改題しました  仕事へ向かう通勤列車の事故であっさりと死んだ俺、斎藤樹。享年三十二歳。  まあ、死んでしまったものは仕方がない。  そう思いつつ、真っ暗い空間を魂のままフラフラ漂っていると、世界の管理官を名乗る神族が現れた。  そこで説明されたことによると、なんだか俺は、元々異世界の魂だったらしい。  どうやら地球の人口が多くなりすぎて、不足する魂を他の異世界から吸い取っていたらしい。  そう言われても魂のことなぞ、一市民の俺が知る訳ないが、どうやら俺は転生の待機列からも転がり落ちたそうで、元々の魂の世界の輪廻へ戻され、そこで転生することになるらしい。  そんな説明を受け、さあ、じゃあ元の世界の輪廻へ移行する、となった時、また俺は管理官の手から転がり落ちてしまった。  そうして落ちたのは、異世界の中心、神獣やら幻獣やらドラゴンやら、最強種が集まる深い森の中で。  何故か神獣フェニックスに子供を投げ渡された。  え?育てろって?どうやって?っていうか、親の貴方がいるのに、何故俺が?  魂の状態で落ちたはずなのに、姿は前世の時のまま。そして教えられたステータスはとんでもないもので。    気づくと神獣・幻獣たちが子育てのチャンス!とばかりに寄って来て……。  これから俺は、どうなるんだろうか? * 最初は毎日更新しますが、その後の更新は不定期になる予定です * * R15は保険ですが、戦闘というか流血表現がありますのでご注意下さい               (主人公による戦闘はありません。ほのぼの日常です) * 見切り発車で連載開始しましたので、生暖かい目に見守ってくれるとうれしいです。 どうぞよろしくお願いします<(_ _)> 7/18 HOT10位→5位 !! ありがとうございます! 7/19 HOT4位→2位 !! お気に入り 2000 ありがとうございます!  7/20 HOT2位 !! 7/21 お気に入り 3000 ありがとうございます!

処理中です...