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本編

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「っ~!バカなのか!何故訓練もしていない!鞍も付けていない状態でドラゴンに乗った!一歩間違えば大怪我だったぞ!」

 なかなか覚悟したような痛みが来ず、代わりに何か優しい物に包まれたと思ったら、サレスと顔がとても近い所にあった。
 そういえば、サレスの容姿って言ったけ?言ってない?そりゃダメだよ。知ってなきゃ私の今の状況がどれほどヤバいのか分かってもらえないじゃないか!
 サレスの髪は黒髪のオールバック。瞳も黒で、私には馴染み深い黒髪黒目だ。そして、流石の総騎士団長。筋肉で胸筋がAカップ並です。服で見えないけど、多分他のところの筋肉もすごいと見た。だが、ガタイはそれ程筋肉というわけでもなく、どっちかと言うとスラッとしていると言う感じだ。前世で言うところのイケメンだ。
 はい。ここまでいえば分かるな?私は、レクター(清楚系イケメン)に対しての耐性は何とかレベル5ぐらいまでならつけた。だが、サレス(おじ様系イケメン)への耐性はつけていないのだ。

「ぎゃあああぁぁぁぁあぁ!離してぇぇええぇ!!」

「こ、コラ!暴れるな!どこか打っているかもしれないのだ!暴れて悪化したらどうする!というか話を聞いていたのか!」

「ぎゃああぁあああぁぁぁあぁ!!」

 サレスが何か言ってくるが、そんな事どうでもいい。とにかく離してくれ!私が鼻血を出す前に離してくれ!ここで言うのもあれだが、サレスは私の好み通りのイケメンなんだ!前世のゲームで言うところの刀○○○の○○号と蜻○○を組み合わせたような感じなんだ!あのゲームで私が好きなランキング一位と三位の合わさった感じなんだ!近づくな!!!

「っ!レムン!落ち着け!」

「ひ!は、離して‥‥」

 あまりに私が暴れるので、突然サレスが私の腕を掴んで顔を近づけてきた。
 あまりに突然な事だったのと、自分好みのイケメンが近くにいるので、私は先程の行動が嘘のように大人しくなった。
 もう泣きそうだ。泣きそうなんだよ!ほら!視界がぼやけてきた!あまりに自分好みのイケメンが近くにいると、人って泣きたくなるんだよ!お願いだから離れて!ほら!今頬が濡れた!涙が出てきたよ!

「ウ‥ヒック‥‥‥はな、離してよ~‥ヒック」

「え、あ、す、すまん‥‥‥すまん」

 私が突然泣き出したので、慌てて私の腕を離して自信の厚い胸板へと私を抱き寄せた。

「ヒック‥‥離して~‥‥ハァ、ヒック」

「すまん‥‥すまない」

 私の背中をポンポンと優しく叩いてくれる手が気持ちよくて、だんだん涙が止まってきた。

『あーあ。おな‥ゴホン。自分より年下の子を泣かせてしもうたの~?サレス』

「しょうがないだろ、不可抗力だ」

 涙が止まってだんだん冷静なってきた私の耳に、サレスの龍の声が聞こえてきた。確かここに来るまでに名前を教えてもらったような‥‥‥確か名前は‥‥‥‥‥。

「‥‥麗紅れいこう?」

『ん?なんじゃ?』

 顔を上げると、サレスの龍・麗紅が顔を私に近づけてきた。
 赤く綺麗な龍。私の目の周りも、泣いた影響でもしかしたら赤くなっているかもしれないと思う私は、先程よりも随分落ち着いたと思う。

『『あるじ!!無事か!』』

 ふと、麗紅とは違った声が聞こえ、そちらに目をやると、彗鈀せいは儚羅もうらがこちらに向かって走っていた。

「‥‥彗鈀?‥儚羅?‥‥‥あれ?なんで喋って」

『『そんな事はあと(です!』(だ!』

 そう言って、サレスに抱かれている私が怪我をしていないか隅々まで見始める二頭。その必死さに、私は思わず笑ってしまった。

「‥‥‥‥ん??」

 私は今の自分の状況を今更ながら理解し、再度慌てだした。

「あ、コラ!さっきも言ったが怪我をしてるかもしれないんだ!大人しくしろ!」

「どこにこんなイケメンに抱っこされて慌てずにいられる人間がいるんですか!さっさと手を離してください!てか離せ!心臓がもたない!!」

『そうだ!主を離せ!主は俺が運ぶ!』

『いえ!私が運びます!』

 サレスの代わりにと手を上げたのは、彗鈀と儚羅だった。
 私にとってはこの状況を打破できる救いの手だったが、サレスはそれを正論で蹴ってしまった。

「医務室は人間用の建物の中だ。お前達か入れるはずがないだろう」

『『くっ!』』

 そ、そんな!私の救いの手が!

「俺はこいつを運ぶから、麗紅はあそこの気絶しているバカを運んでくれ」

『やれやれ。龍使いが酷いやつじゃ』

 そう言って、サレスは私を抱き上げた。それもお姫様抱っこで。

「ちょちょちょ!サレス団長!?」

「なんだ」

 さもその抱き方が当たり前のようなサレスの様子に、私は混乱する。
 え、この世界ではこの格好で運ぶのが普通なの?いや、絶対に違うだろ!

「ち、違う運び方を」

「‥‥‥男同士だ。気にするな」

 いや、気 に し ろ よ!
 あ、あれか?サレスはお貴族様だから婚約者がいて、何を思われようが将来は安泰だから大丈夫ってことか?ふざけんな!

「俺が気にするんです!離してください!もしこんな所を知り合いに見られた「レーン!」‥‥死んだ」

 前から走ってくるのは先程会った騎士さんとレクターだ。
 来んな!回れ右をして今すぐ帰れ!
 そう言いたくても、もう手遅れなのは分かりきっていたので諦めた。せめての抵抗として、精一杯言葉を刺々しくする。

「‥‥わ~、レクターに騎士さんじゃないですか~。なんでこんな所にいるんですか?理由をさっさと吐いて回れ右をして元の場所へと帰りやがれこの野郎です」

「わ、わー、レンの言葉が刺だらけだー」

 レクターは冷や汗と困った笑みで返してきた。

「そんな事言わない方がいいですよ?あなたの顔は綺麗なのですから」

 騎士さんはまるで効いてない。ニコニコ笑顔で返してきた。

「チッ!」

「コラ。舌打ちをするな」

 舌打ちをするとサレスに注意されてしまった。私は一体何をしたら怒られないんだ。

「で?なんでレンは団長に姫抱っこされてるんだ?」

「‥‥‥人助けをしたらこうなった」

 うん。嘘は言ってないよ?だいぶ端折ったけど、おおまかな流れはこれで説明がつくもん。

「‥‥サレス?説明をお願いします」

「飛行訓練の為訓練場にいたら、一人飛行中に危ない騎士がいて、案の定落下してきた。そこにレムンが無茶をして自信のドラゴンに鞍も無し。訓練も無しで乗って自身も落下。落ちてきた騎士はいま麗紅が運んでいる。足をひねっている可能性もあるレムンは、念の為俺が運んでいる」

 簡単でいてちゃんと要点を掴んで説明をしたサレスは流石だと思う。だけど、今そのスキルはいらなかったと思う。
 だって、目の前にいる騎士さんが物凄く怖い!

「‥‥あ、あの~」

「はい?なんですか?」

「ヒッ!‥‥ご、ごめんなさい」

 怖い。物凄く怖い!イケメンが笑顔で怒ると怖いって小説とかで見るけど、まさにその通りだ!怖い!笑顔じゃない方が絶対にマシだよ!見たことないけど!

「俺には一度も謝っていないのにな」

「あ、えっと~‥‥アハハ。泣かされたのでオアイコってことでお願いします」

 まさかのサレスからの言葉に、私は頬を軽くかいてそう言った。

「フッ。まぁいいだろう」

 あああぁぁぁ。好みのイケメンが目の前で『フッ』て笑ったよ『フッ』て!これは破壊力がやばい。

「‥‥レンさん?」

「はい?」

「っ!‥‥‥サレス。レンさんは俺が運ぶからお前は戻れ」

 急に話しかけてきたと思ったら、騎士さんがサレスに向かって何やら殺気を向け始めた。
 え、何?てか騎士さん一人称『僕』から『俺』に変わってたよね?よね?どうしたの!?そんなことしてもキャラに合わないよ!?

「いや、しかし‥‥」

 サレスが私の顔を見てくる。多分心配してくれているのだろう。だが、私は好みのイケメンに姫抱っこされるより、好みではないイケメンに姫抱っこされる方が遥かにマシだと考えた。

「ならお願いします。ちょうどサレス団長といたら息が満足に出来ないで困っていたんです」

 私は騎士さんに向かって手を広げた。
 サレスが何やらビクついたのが伝わってきた。だが、そんな事を気にしている暇はない!一刻も早くこの人から逃げなければならない。

「はい‥‥おいで。お姫様」

 ‥‥?まさか‥‥。

「‥‥‥‥俺は男です」

「知っていますよ?」

 ホッ。バレていた訳では無いようだ。ビックリした~。いきなり「」なんて言うから、もしかしたら女だとバレたのかと思ったじゃないか。心臓に悪い男だ。

「なぁーレンー。なんで俺の方に来ないんだよ~」

 レクターが声を出したことで、この場にレクターがいることを思い出した私は、失敗したと心から思った。
 レクターにしてもらったら良かったじゃん!
 慣れ親しんでないイケメンよりも、慣れ親しんだイケメンがいいに決まっている。私今からでも変えてもらうため、騎士さんに抗議することにした。

「騎士さん!レクターに変わ「なんですか?」」

 ‥‥‥間が悪かったんだ。うん。

「レクターに変「なんですか?」」

 ‥‥‥‥間が。

「レクタ「なんですか?」」

 ‥‥‥‥‥この人やだ。
 とてもいい笑顔で私の言葉を邪魔する騎士さんは、私の反応を見て面白がっているとしか思えなかった。

「‥‥もういいです」

「っ!」

 少しすねたようにいえば、騎士さんがビクついたのがわかった。
 何故皆ビクつくの?私なんもしてないじゃん。そう言えばサレスは?
 もう歩き出していたので、騎士さんの後ろにいるであろうサレスを見ると、こちらを何やら寂しげに見ているサレスと目が合った。それを見た瞬間胸がキュッと閉まったのは、私の気の所為だと思う
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